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アナ聖伝
08



トイは非難通路を走っていた。

「さあみんな急いで。早く。」



子供達を追い立てながら、ショーンの乗ったストレッチャーを押していた。




―少しでも遠くに逃げなければ。





トイの頭には別れ際のリューイの笑顔がこびりついていた。

「リューイさん。リューイさん。」

止まらない涙を何度もぬぐって走り続ける。




その時、ストレッチャーのタイヤが外れてしまった。

「あっ!!」




トイが小さな叫び声を上げて、ショーンの体を守る。




ガシャーン!!




ストレッチャーは派手に転がり、変形してしまった。

これではもう使い物にならない。

トイはショーンに怪我が無いことを確認して安堵のため息を漏らした。


子供達を見回すと、みんな疲れが限界に来ているのは見るだけで明らかだった。

トイが悩んでいると、後ろのほうから声がした。



「おい!通路を見つけたぞ!こっちだ!」



―どうしよう。



トイは子供達を奥に座らせてかばうように座り息を潜めた。

見つかってしまうのは時間の問題だった。



しばらくすると男達の足音が近づいてきた。

トイは必死にショーンを抱きしめた。

しかし、ついに男達に見つかってしまう。



「見つけたぞ!!女!そいつをよこせ!」


男の一人がトイを無理やり引き剥がそうとする。

「ダメ!渡さない!」

トイは必死にショーンに覆いかぶさった。




「こいつ!痛い目を見ないと分からないのか!」

男の一人が剣を振り下ろした。

トイはぎゅっと目をつぶる。




キィィン!!

「うぐっ!」



―えっ?




トイは自分の目が信じられなかった。

先ほどの男が足元に転がっている。

その瞬間、トイの体がフワッと浮いた。



「どいつもこいつもうるせーなー。おちおち寝てられねぇ。」

「ショーン!!」

その声の主はショーンだった。

ショーンはトイを抱えたまま剣を振るう。


「くそ!貴様!」

男達が切りかかるが、ショーンは返り討ちにしてしまった。

子供達も飛び跳ねて喜ぶ。



「ショーン!!」



トイが顔をグシャグシャにしてショーンの首にかじりついた。

「わかった。わかった。もう泣くなって!」

ショーンはトイをゆっくりおろすと、その頭を優しくなでた。



「でも、ショーンなんで?痛みは大丈夫なの??」

さっきまで傷の痛みで立ち上がるのさえ困難だったはずだ。


「あの女だ。」

トイの質問にショーンはぶっきらぼうに答えた。

「あの女ってリューイさん??」

「ああ。あの時、あの女にお前の痛み止めを飲まされたんだよ。ご丁寧に俺の剣まで握らせてな。」




―あの時?




トイの脳裏に先ほどの光景が浮かぶ。

リューイはショーンを気絶させたように見えたが、みぞおちへの力を加減して動けなくしていただけだったのだ。

リューイが後ろを向いていたのは、ショーンに薬を飲ませるためだった。


「ショーン。あなたの命、少しの間私に預けてちょうだい。」


リューイの言っていた言葉はこういうことだったのだ。



ショーンはリューイが薬を飲ませた時に耳元でささやいた言葉を思い出す。

「ショーン。あなたがトイを守って…。」




あの顔は覚悟を決めた顔だった。



「リューイさん。リューイさん…。」

トイの目から大粒の涙が溢れだしてくる。

それをみたショーンは口を開いた。

「今、俺達が戻っても足手まといにしかならねぇ。俺が飲んでいる薬の効果も一時的だ。まずは追っ手がかからねえ内に子供達を安全な場所に移動するんだ。それから、ヴァリウスに現状の報告をしねぇと。シェルターの子供達もあぶねぇ。」

ショーンが言うのは最もだった。

今は子供達の安全を最優先にしなければ。



「さあ。行くわよ!」

トイが子供達を促そうとしたときだった。




「動くな!!」




賊の一人が子供を一人取り上げて叫んだ。

「ちっ!力が足りなかったか…。」

ショーンが舌打ちをする。

「お前ら全員殺してやる!!どうせお前の口さえふさげれば何でも良いんだ!」

泣き叫ぶ子供に刃物を当て、男は半狂乱になって叫んでいる。



「やめて!その子を離して!!」



トイは男に向かって必死で叫んだ。

「うるせー。まずはこの子供から殺してやる!」


男が叫んだとき―。



ガツン!!



男の背後で音がする。

殴られた男は白目をむいて倒れた。

トイは急いで男の手から子供を取り返す。


「誰だ!!」

ショーンの声に影から姿を現したのはレストだった。

「校長!」

「校長先生!!」

子供達もレストに駆け寄っていく。

レストは子供達をぎゅっと抱きしめた。


「校長先生!リューイさんを!リューイさんを助けてください!!」

トイはレストに詰め寄る。

「リューイがどうしたんですか?彼女はどこです??」

レストは状況を把握できていない。



「トイ。待て。俺が説明する。」

「ショーン…。」



泣きじゃくるトイを脇に寄せてショーンがレストに状況を伝える。



「あの女がおとりになってこの通路に俺達を逃がしたんだ。少なくとも賊の中の一人は只者じゃない。妙な武器を使いやがる。今は痛み止めが聞いているが、俺の怪我では相手にならない。急いでくれ。」



ショーンから状況の説明を聞くうちにレストの表情がどんどん険しくなる。

「まずは子供達をシェルターへ!さっきの爆発を聞いて近くまでクレイブ達が来ているはずです!さあ急いで!!」


トイとショーンはうなずくとまずは近くの扉から外にでた。



どうやら教室のようだ。



レストはあたりを見回すと緊急用のマイクを手に取る。

「レストです。クリス聞こえますか!!これをクレイブ達のいる水上艇にもつなげてください!」

レストの声は切迫している。

「はい校長先生!つながりました!!」

しばらくしてクリスの声が戻ってきた。

「クレイブ聞こえますか!!」


レストは焦っていた。

クレイブたちに的確に状況を伝える。



「何だってリューイが!!」



スピーカーの向こうでカイが叫ぶ。

「2度目の爆発からの経過を考えても時間の余裕はありません。直接治療室に向かってください!」

「わかりました!ルル頼む!!」

スピーカーから切迫したブラウズの声が響く。

「任せて!!急ぐわよ!」


マイクをおいてレストは天を仰いだ。


「ジン、テオラ、ジーナ…。どうか、リューイを守ってください。」





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あきゅろす。
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