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アナ聖伝
03


船が攻撃される少し前―。


カイに連れられて厨房に来ると、エレナが一番に気がついた。


「カイ!!どうしたの?」


エレナは不思議そうに首をかしげる。

「ショーンが何か情報を持って帰ってきたらしいぜ!任務かも知れない。」


「そう。それでショーンは怪我をしてきたのね。」
エレナの表情が引き締まる。


クレイブは周りを見回すとエレナにたずねた。



「あいつはどこだ?」

「リューイのこと?彼女なら今、治療室にトイの様子を見に行っているわ。」

エレナがクレイブに答える。



「そうか…。なら安心だな。クレイブ、校長先生のところへ行こうぜ。」




カイが言った瞬間だった。




ドドーン!!




船が大きく揺れた。



「キャア!!」
急なことに悲鳴が響く。


…。

しばらくすると揺れが収まってきた。


「大丈夫か…。」

カイの声が静まり返った廊下に響いた。


カイがエレナをかばった状態で立ち上がる。



「ああ。」


クレイブの腕の中にはルイスがいた。

無事なようだ。


「あの…。ありがとうございます。」

ルイスは顔を真っ赤にして答えた。


「ああ。問題ない。大丈夫か?」

ルイスは無言でうなずく。

クレイブは腕の中からルイスを開放した。


ルイスは少し残念そうな顔をしたが、緊急事態にそれに気づくものはいなかった。


カイが当たりを見回しながら口を開く。

「何が起きたんだ?」

「何かの攻撃だな。」


クレイブとカイが会話をする。

クレイブは少し考えている様子だったが、カイに向かって話を始めた。


「カイ。悪いが状況の確認にいってくれないか?それから下級生の安否確認を指示してほしい。」

「ああ。」

そういってカイは廊下を走り出す。



クレイブはカイが走っていくのを見届けると、エレナに向き直った。

「エレナ。ここを頼んでいいか?」

「わかったわ。クレイブはどうするの?」

「俺は治療室へ行く。」
エレナがうなずいたのを確認するとクレイブは走りだした。


クレイブは階段を駆け下りる。

まだ授業中の時間だったのが幸いしたようだ。

フリードの中は意外に落ち着いてた。





―どこにいるんだ。




クレイブは必死にリューイを探していた。

治療室に着く前であればどこかで巻き込まれているかも知れない。

クレイブは周りを注意深く確認しながら走っていた。


そして、治療室が近づいたとき―



イヤぁぁぁぁぁっ!!



リューイの声が聞こえた。
クレイブの足に力が入る。全速力で治療室に向かって走った。



「リューイ!どこだ!リューイ!!」




無意識に叫んでいた。

治療室のドアを勢いよくあけるとそこは物が散乱し、いたるところで棚が倒れている。


「リューイ!!どこだ!!」

クレイブは必死に叫んだ。


しかし、リューイの姿はどこにも見当たらない。



―まさか。



クレイブの背中につめたものが落ちるのを感じた。

「クレイブさん!!」

その時トイの声がクレイブの耳に届いた。



「どこだ!」

「こっちです。」

声のしたほうに駆け寄ると、大きな棚の下に人の足が見える。



「くそっ!」

クレイブは棚をどける。
棚の下からは血だらけのショーンが出てきた。


「無事か!!」


ショーンの下から真っ青な顔をしたトイとリューイが出てきた。

クレイブは一瞬安堵の表情を見せたが、しっかりとリューイを抱きしめた。



「ショーン!ショーン!」



トイの呼びかけにショーンは反応しない。

「落ち着け、トイ。ショーンの様子は?」


クレイブに話しかけられたトイはハッと我に返った。



「呼びかけに反応がありません。傷口が開いて出血していまが、、出血量は少ないです。」

「そうか。じゃあ何とかなりそうか?」

クレイブはトイに動揺を与えないように落ち着いて話をした。


「はい。なんとか…。取り乱してすみません。」
「ああ。大丈夫だ。後は任せていいか?」

クレイブの言葉にトイは大きくうなずいた。




「じゃあ」といってクレイブが立ち上がろうとする。






「ま…て…。クレ…イ…ブ。」



「ショーン!!」

トイがショーンの声に反応する。



クレイブが振り返るとショーンが目を開けていた。

しかし、呼吸は苦しそうだ。

クレイブはしゃがみこんでショーンの口に耳を寄せる。




「やつ…ら、ただの…賊…じゃねぇ…。これ…をね…ら…てる。」

ショーンが震える手で何かを差し出した。


クレイブはそれを受け取ると「後は任せろ。」とショーンに言って立ち上がった。


「おま…え…に、たす…られ…とは…な。」

ショーンはニヤっと笑うと、気を失った。



クレイブはショーンの様子を見届けると、リューイに向き直った。

「大丈夫か?怖い思いをしたな。」


やさしくリューイの頭をなでる。

小さくうなずいたリューイは、自分で肩を抱いて震えている。



―リューイを動かすのは無理。か…。



クレイブはショーンの手当てをしているトイに向き直った。

「トイ。リューイも頼んでいいか?」

トイはまだ青い顔をしていたが、大きくうなずく。



クレイブが治療室から出ようとしたとき館内に放送が入った。

「ヴァリウスのカイだ。フリードが攻撃を受けたが、今のところ船には損傷はねぇ。被害状況を報告してくれ。上級生は怪我をした下級生がいたら治療室に連れて行くんだ!」


カイは無事に操舵室に着いたらしい。

続いて放送が入る。

「ヴァリウスのクリスだよ!学科棟は大丈夫。みんな無事だよ。僕もそっちに向かう!」

「ヴァリウスのブラウズとルルだ。訓練棟も問題ない。われわれもそちらに向かう。」


クレイブは放送を聴いて安堵の息を漏らした。



しかし、ショーンの言葉が気になる。



クレイブは治療室のマイクを取った。

「クレイブだ。生徒は念のためシェルターに非難してくれ。俺もそちらに向かう。」



クレイブは放送が終わるとまだ震えているリューイの前にしゃがむ。

「リューイ。ここにいれば大丈夫だ。すぐに迎えに来る。」

リューイは無言でうなずく。


リューイのあまりに怯えている様子に違和感はあった。

しかし、怖い思いをしたせいだろうと思いなおした。

今は操舵室に急がなければ。

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あきゅろす。
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