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アナ聖伝
05




一通り説明が終わると、リューイは風呂を借りることにした。

クレイブからタオルを借りて、風呂の脱衣所のドアを閉める。

服を脱いで風呂場に入ると、クレイブがやってくれたのか浴槽にはすでに湯がたまっていた。


シャワーで汗を流してから、湯船につかるとため息と共に今日一日の疲れがどっと押し寄せてきた。



「ふぅ。」




体の心までジワっと温まる感じに満たされながら、足を伸ばした。


湯には入浴剤が入っているようで、ハーブの良い香りがリューイの鼻をくすぐった。



―。



ハーブの香りに包まれていると、リューイはズルクの森を思い出した。

咲き誇るスイージの花や青々とした草、今頃どうなっているのだろう。

精霊はどうしているのだろう。





そして思い出すのはズルクのはずれにあるあの家。

そして家族。





「なぜ、なぜなの父様。母様、ねえさん。なぜ私を置いていってしまったの?」

リューイはつぶやいた。胸が痛い。




不意に自分の心に押し寄せてきた悲しみに、リューイはあわてた。

これ以上、湯船につかっていると涙がこぼれてしまいそうだった。




リューイはいそいそと風呂から出て体を拭いた。


クレイブから借りた少し大きい部屋着に手を通す。

自分のものとは違うにおいがする。


着替えると脱衣所を出て、ソファに座っていたクレイブに声をかけた。



「あの。お風呂ありがとうございました。」

「ああ。」


クレイブは返事をすると、その場で立ったままのリューイを見て不思議そうな顔をした。



「なぜそこに立っている?」

「どこに座ったらいいかわからないです。」

クレイブの問いかけにリューイは素直に答えた。


キッチンのほうにはダイニングテーブルがあり椅子もあった。

しかし、クレイブが座っているソファからは遠いので、そこに座るとクレイブを避けたような形になってしまう。

でもクレイブの座っているソファの隣に堂々と座る勇気はリューイには無かった。



どうしよう―。



リューイは困惑して色々と考えている。

その姿を見たクレイブはフッと笑うと、ソファの上で座る位置をずらしリューイに手招きをした。


リューイはその横にちょこんと座る。


「緊張する必要はない。」


クレイブは言ったがリューイの顔はこわばったままだった。



しかし、リューイは意を決したように話始めた。





「クレイブさん。」

「クレイブでいい。」

クレイブは怪訝な顔をして答えた。





リューイは恥ずかしそうに「じゃあ」とつぶやいて話を進めた。





「今日の訓練を見てました。肩は大丈夫ですか?痛くないですか?」

「ああ。大丈夫だ。しばらくは何もできないが、日常生活に支障はない。」


クレイブは肩の痛みを思い出したのか、苦い顔をした。





「そうですか。よかった!!」


途端にリューイは笑顔になった。




「あっでも痛いですよね。私にできることがあったらやるので何でも言ってください。」


クレイブはクルクルと変わるリューイの表情を見ていた。

リューイはクレイブに見られているのに気がつくと、また「すみません」とうつむいた。





「あ、あの…。もう一つ聞きたいことが―。」


「なんだ?」


言葉を濁すリューイに、クレイブは不思議そうな顔をして聞き返す。




「やっぱり、なんでもないです。」


リューイは小さな声で答えた。





クレイブは怪訝な顔をしたが、「早く休め。」とだけ言って風呂場に行った。






―私がいると迷惑ですか?






リューイはその一言が言えなかった。





クレイブが風呂に入ると言い、行ってしまうとリューイは不安になってきた。




―私はなんでヴァリウスに選ばれたのだろう。




ヴァリウスはここの生徒の中でも、飛びぬけて成績の良いものから編成されていると聞いた。

いわばエリート集団だ。

それに引き換え自分は何も特技を持っていない。
あの事故の影響なのかセレも使えない。


レストが気を使ってヴァリウスに選んでくれたのだろうが、リューイの心には深い影を落していた。




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