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アナ聖伝
09



見上げると、ジンが指差す方向に白いフーラが見えた。
テオラとジーナが手を振る。
そうしている間にフーラはどんどん高度を下げる。
ついにその人影が確認できるようになった。
地面まであと少しというところでフーラがクルっと一回転する。

乗っていた人影がバッと着地してレストに駆け寄る。




「レストおじ様!!」




駆け寄る勢いそのままでリューイはレストに飛びついた。

レストは倒れないように踏ん張りながらリューイを受け止めた。

「リューイ大きくなったな、先ほどはお前がいなければ危なかった。」

栗色の髪の毛を束ねたリューイの頭をくしゃくしゃに撫でながらレストが満面の笑みで話しかける。
「おじ様の、フーラを見たときは心臓が止まるかと思いました!彼もびっくりしただけだったので、ご無事で何よりでしたわ!!」
リューイも興奮気味にレストに言った。


「そうだな、それにしてもリューイはあんなところまでいけるようになったのだな」

リューイはレストに褒められたことがよほど嬉しいのだろう。
頬を赤らめながらくるくると良く変わる表情をレストに見せる。

「そうなの!今日はお母様のお誕生日でしょう。だから…」




「リューイ!!」




その時ジンがリューイを呼んだ。レストと談笑していたリューイが固まる。
怒鳴りはしないが、低く威圧するような響きは空気を一瞬で張り詰めたものに変えた。
リューイはゆっくりジンのほうを向き頭をたれる。




「ごめんなさい、お父様」

「また無断でズルクに行ったな。今度は前回のようには済まさないぞ」

ジンはズルクで遊びを覚えたリューイを心配していた。
昼間こそまだ穏やかだが何があるか分からない。夜ともなれば命の危険もありうる森だ。



「だって、お父様」

懇願するようなリューイの顔をジンは見据え、一喝した。



「言い訳か?」

「いいえ、何でもありません。」



先ほどの元気はどこえやら。

シュンとしたリューイを見ていたテオラとレストが助け舟を出す。

「あなた、それぐらいにしてあげなさいな。リューイも隠れて行く位ですから何かあったのでしょう。」

「そうだ、ジン。私もリューイがいなければ今頃テオラを祝いにこれなかったかもしれんからな。」



二人にこういわれてしまってはジンは弱い。

特にテオラには頭が上がらないのは皆知っている。

ジーナはジンとテオラを見比べて笑っていた。




「分かった。もう言うなテオラ。リューイ、なぜズルクに一人で行ったのだ?」

ついにジンがテオラに白旗をちらつかせて、リューイに譲歩した。
パッとリューイの顔が輝やき、両手で包んだものを差し出した。

「これをお母様にと思って!!今年の最初に見つけておいたのを取りにいったの!!」

リューイの手の中のキュリエをみて皆が感嘆の声を挙げる。



「これは、キュリエじゃないか。このごろじゃめったに手に入らないぞ。たいしたものだな。テオラの一番の好物だ。」

レストの言葉にテオラも続く。

「ほんとに!私の誕生日にキュリエが食べれるなんて!!今日はご馳走になるわ。」

「ね、お父様。リューイがズーラに入ったのはお母様のためだったのね。」
ジーナも笑いながら会話に入った。

テオラのためと言われてはジンは完全に白旗を上げざるおえなかった。

「リューイ、ズルクに行くときは私に断ってから行きなさい。何かあってからでは困るのだぞ」

「みんなをびっくりさせようと思ったの。心配をかけてごめんなさい。」
リューイは反省しているようにまだ頭をたれていた。
しかし、ジーナと目配せをしながらお許しが出るのを待っている。
ため息交じりでジンがリューイに言った。



「フーラをきちんとしまっておけ」



この言葉で張り詰めていた空気が、緩んだようだった。
その場にいたものはホッとした表情を取り戻す。

話題は今日のご馳走へと移る。


テオラとジーナ、そしてリューイは夕食の支度のために屋敷に入っていった。




…。




家に入る三人を見送ったジンは、クレイブに向き直って申し訳なさそうに口を開いた。

「クレイブ殿すまぬ。これがぬしを助けた"彼"の正体だ。もう少し女としての"気品"を鍛えなおさんといかんが。」




この一部始終を顔色を変えずに見ていたクレイブだったが、ジンのこの言葉に目を丸くした。

そのクレイブをみてレストが豪快に笑った。

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あきゅろす。
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