6
ふわっと甘い香りが鼻をくすぐり、後頭部と背中に回された手が、安心感を引き寄せる。
『ふぇっ…
わた…こわッ……
…ごめ……』
体を預けてしゃくりあげる私の背中を、そっとさすりながら、黙って抱き締めてくれる蒼。
こぉして蒼の胸を借りるのは初めてなのに、どこか懐かしい気もする。
今回も前回も、蒼はタイミング良く現れただけ。
でも、私のことを助けてくれた。
まるで、ヒーローみたいに。
そぉ思うと、この腕の中がとても心地良く、素直に不安をぶつけることが出来た。
涙が止まり、少しずつ落ち着いてくると、ポケットからシワシワのハンカチを取り出し、渡された。
「拭いて。」
多分、朝頑張ったお化粧はグチャグチャ。
ありがたくそれを受け取ったけれど、そのことよりも離された体が寂しくて…
"離れないで"
私の手は無意識に、向かいの席に戻ろうとしていた蒼の服を掴んでいた。
「え?」
『あ、ごめっ…』
蒼の困ったような声が聞こえて、裾を握っていた手を離した。
ソファーに落とした手は行き場がなくなり、昔の私みたいに独りぼっちだった。
あの時は、光が助け出してくれた。
これからは…
握り締めた手には、あいつ等に掴まれて出来た痣がある。
それを見ていると、悔しくて、再び涙が溢れそうになる。
軽く頭を振って涙を堪えると、困った顔をしているであろう蒼を見上げた。
けれどそこには、少し傷ついたような…でも照れたように優しく笑っていてくれる蒼がいた。
蒼は私の頭をくしゃっと撫でると、"後で"と言って席に戻った。
それと同時に、頼んでいたランチセットが運ばれてくる。
食事の間、私たちの間に会話は全くなかったけれど、その沈黙が、不思議と心地良かった。
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