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心を失くした天使2
隠された真実
完璧な治療を受けたのに、和也は入院したその日から高熱を出してしまった。そのせいで次の日も、その次の日も面会させてもらえなかった。
ようやく会えたのは3日後。その時は、お礼を言う為に僕の両親も一緒だった。病院に向かう車の中では、この前の『血痕付きパンツ』の事もあって重い雰囲気だったけど。

病室の和也は、包帯とガーゼだらけでまともに顔が見えない状態だった。でもまぶたの腫れは引いたみたいで、巻かれた包帯の隙間から見える目はまさしく和也の目だった。
でも…ううん、きっと気のせいだ。その目には輝きがまるでないように見えてしまった。
「和也くん、陸斗をかばってくれてありがとう。この恩は一生忘れないよ」
「和也くん、ありがとう。退院したらウチでお祝いさせてね」
両親共、和也を励ます意味も込めてお礼を言った。
僕も和也と話したかったけど…聞かれちゃマズイ事もあるから、この時は目で合図しただけだった。
『また明日』
それだけで伝わるんだ。僕と和也は親友だから…。

ひどい怪我には違いないけど、おばさんが付きっきりで看病しなきゃいけないわけじゃない。翌日、僕が一人でお見舞いに行った時、和也は病室に一人きりだった。
「陸斗…」
重苦しい包帯はほとんど外されていた。一目で元気がないのがわかるくらい、和也の目は虚ろだった。いつもの輝きがまったくない。やっぱり昨日感じた事は気のせいじゃなかった。
「和也…」
僕はベッドの横の小さな椅子に腰掛け、和也の右手をそっと握った。
そんなのした事ないけど、そうせずにはいられなかった。
「ごめんな…和也が殴られてる時、俺怖くて何も出来なくて…」
情けない心情も、和也には正直に話した。
「いいよ、そんなの。怖かったのは俺も同じだよ…」
「でも和也は…」
「いいって。もし陸斗もやられてたら助けてくれる人がいなかったんだし。俺、重かったろ?」
「…うん」
僕達は誰よりも仲良しの親友同士。これ以上、何か言い合うのは水くさい気がした。
「あの事だけど…」
嘘の話をしたんだから、和也とも口裏を合わせておかなきゃいけない。僕は自分が大人達にどう説明したのかを話そうとした。
「…やめろっ」
和也は小さく叫んだ。
「で、でも話合わせないと…」
「…」
和也は涙を流した。おぞましい記憶を呼び覚ましてしまったとすまなく思った。でもこれは大事な事だ。
「言ってる事が食い違わないようにするだけだよ。あの事は…死ぬまで俺達だけの秘密だから」
「…陸斗に…嘘つかせてごめんな…」
「え…?」
「もういいんだ…」
「…どういう事?」
和也は僕の手を強く握り返してる。
「全部…バレたから…」
「えっ…?どうして?」
やっぱり僕の作り話が下手だったんだろうか。
「…ごめん…。俺が…ホントの事話した…」
「何でだよ。知られたくないって言ったの和也じゃん」
「ごめん…」
でも少なくとも僕の両親は知らないはずだ。乱暴されたのかもと疑ってるけど。
「隠しきれなかったんだ…!ごめん、陸斗…!」
大粒の涙がポロポロ流れ落ちる。
「謝らなくていいよ…!でもどうして…?」
「…ここに運ばれて…治療された時にバレたんだ…。お尻が裂けてる事…」
「さ、裂け…」
お尻が『裂けてる』なんて言葉初めて聞いた。そんなにひどい事になってたなんて…。
「中から体液が出てきて…それで…男に乱暴されたってバレたんだ…」
やっぱり…僕が思い付く嘘なんかじゃ大人を騙すなんて出来ないんだ。
「何針か縫う手術をして…病院の先生が…母さんに話したんだ…」
あの会議室での事だ。二人だけ残ってその事を話してたんだ。
「でもっ、陸斗は何もされてないって言ったから…!」
「そんなのどうでもいいよ…!」
本当は知られたくない事だけど、和也だけ恥ずかしい思いをする必要なんてない。
「でもバレちゃったなら…あいつら捕まえてもらおう」
「…」
「俺、デタラメな人相教えちゃったから、警察の人に謝ってホントの事話すよ」
「…いいんだ…」
「どうして!?このままじゃ泣き寝入りじゃないか!」
「…そうだよ…母さんがそうするって…」
「…」
「男に乱暴されたなんて世間に知られたくないから…陸斗の嘘に気付いてないフリをして…警察にもホントの事は話さないって…」
「そんな…」
こんな恐ろしい真実を知ったのに、自分の子供に大怪我をさせたやつを放っておくつもり?それが大人のやり方なの?
僕は和也がそう望むのならと嘘をついた。でもその嘘に気付きながら嘘を隠してしまうなんて…。
「そんなのダメだよ!和也をこんな目に遭わせたあいつらを放っておくなんて!」
「陸斗…!悔しい…!」
和也は泣きながら僕に抱きついてきた。それが本音だろう。
ひとしきり泣いて少し落ち着いた和也は、そっと僕から離れた。
「でも…もういいよ…」
「だけど…」
「もう大丈夫だから…」
和也はまた横になった。僕はテーブルの上にあったタオルで和也の涙を拭いた。
「もう忘れたい…」
「…」
和也はそれだけ言って目を閉じた…。

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あきゅろす。
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