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心を失くした天使2

和也は救急病院に運ばれすぐに治療を受けた。
病院に着く前に救急車の中で目を覚ました僕は、心配ないからと言う看護婦さんの言葉を信じて処置室前のベンチで待つしかなかった。
和也の怪我に致命的なものはなく、あばら骨のヒビが一番重傷なものの、一ヶ月程の入院で顔も体も元通りになると知って安心した。
もちろん僕の方は入院なんか必要ない。絆創膏が3枚程必要だっただけ。お尻はまだチクチク痛むけど、それさえもすでに薄れ始めていた。

和也のお母さん、そして僕の両親、担任の先生も病院に呼ばれていた。
これは『事故』ではなく『事件』だ。もちろん警察の人もいた。何があったのか事情を話せるのは僕しかいない。
病院で会議室みたいな部屋を貸り、大勢がいる前で僕は語り始めた。
明日の朝、クワガタを捕まえに行く為に準備をしに行った所まではすべて事実だ。出掛けた時間や、待ち合わせた場所などありのままに話した。
その帰り道、僕達は見知らぬ高校生『二人』と出くわした。二人と言ってしまったのは、あの人…『晃司』と呼ばれてたあの人だけは根っからの悪者には思えなかったからだ。だからかばうつもりでその存在さえもなかった事にした。もちろん、あの二人の人相もてんでデタラメを言った。
嘘をつくのはよくないし、あいつらに罰を与えられないのも悔しい。でも和也の為に僕は嘘をついた。
持っていた小銭を渡したのに殴られそうになった僕をかばう為、和也は高校生に立ち向かった。当然二人相手に勝てるはずもなく、抵抗したが為にひどく殴られた。それが最終的なシナリオだった。
警察の人は傷害事件として捜査すると言っていた。僕の嘘でたくさんの警察官が無駄な働きをしてしまうのかと思うと気が重い。
こうしてる間も治療を受けてる和也の痛みを考えると更に憂鬱になった。
しかもその部屋を出る時、病院の先生が和也のお母さんだけを残してまだ話し続けていた。
怪我の事だろうか?僕の話におかしな点があると気付いたのだろうか?それが気になった。

僕は大丈夫だからと言ったのに、念の為に少し時間をかけて色々と検査を受けた。でももちろん異常はなくその日のうちに帰れる事となった。
和也は治療中に意識を取り戻したそうだ。でも会う事は許されなかった…。
両親は和也のお母さんに、和也が僕をかばってくれた事のお礼をしていた。改めてお見舞いに伺いますと話して、僕は両親と共に家に帰った。

家に着いて、僕はまずお風呂に入った。傷付いた所を消毒しただけで、あの森の臭いが体に残ってる。それを消したかったんだ。
もうここの所ずっと一人でお風呂に入ってたけど、今日はお父さんも一緒に入った。と言っても家着のジャージの裾を捲り上げ、僕の体を洗う為にだ。
お父さんは洗い場に座る僕にぬるいお湯を掛け、タオルでやさしく体を洗ってくれた。僕が和也の体をシャツで拭いたように。
「大変だったな…」
「うん…」
「和也くんの怪我もちゃんと治るそうだし、退院したらウチに呼んでお礼しなきゃな」
その時、浴室のドアがノックされた。外にいるのはもちろんお母さんだ。
「お父さん、ちょっと…」
お父さんは呼ばれて出て行った。背中は流してくれたし前は自分で洗おう。そう思ってタオルを手にした。
「陸斗」
「…?」
でもお父さんはすぐに戻ってきた。
「お前今日…ホントに何もされなかったのか?」
「…えっ?」
「殴られたり…それ以外の事も」
気付かれてる…?でもどうして?
「お母さんがお前のズボンとパンツを洗濯しようとしたら…血が付いてたって…」
まさか…それって…。
「パンツにだ」
しまった。僕も血が出ていたのか。
「まさかお前…乱暴されたんじゃ…」
「何もないよっ!」
誤魔化す為の言葉を用意していなかった僕はかなり取り乱してしまった。
「た、多分、和也の血を拭いた時に付いたんだよ。しゃがんだりした時、怪我した所に触れたのかも」
「…」
うまく誤魔化せたとは思えない。お父さんはスッキリしない表情のままだ。
「…ホントだな?」
「うん」
「…」
お父さんは浴室を出て行った。
…ごめんね、お父さん…嘘ついて。でも和也との、親友との約束なんだ。あの事は二人だけの秘密にするって…。

僕は真っ暗な自分の部屋でベッドに入り、ぼんやりと窓から外を見ていた。
嵐のような昼間の出来事がまるで嘘みたいに静かな夜だ。
「…」
和也、大丈夫かな…。手当てされて、もうどこも痛みを感じてなきゃいいけど。
僕の分まで痛みを背負ったんだ。今日の痛みをいつか忘れてくれるといいな…。

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