心を失くした天使2 和也 再会を喜ぶのはまだ早い。『和也の』体にナイフが突き刺さったままだった。 「和也、待ってろよ。救急車呼んでくるから…!」 立ち上がろうとした僕の手を掴む和也。あの日と同じだった。 「もういいんだ…肝臓を刺したんだ。ここが傷ついたら10分で死ぬ…」 「え…?」 「この体はたくさんの人を傷つけてる…。母さんや陸斗のお父さんを突き飛ばした感触が手に残ってるんだ…」 「でもっ!」 「もう…生きていけないよ…」 「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!絶対死なせない!」 「最期まで…陸斗に側にいて欲しい…。入院してた時みたいに手を繋いでて欲しいんだ…」 「和也…」 和也は本当に死ぬ気だ。というより、罪を犯した体で生きていく気力が残ってないんだ。 「陸斗にも…酷い事ばっかりしてごめんな…」 「…もういいよ…」 「おじさんが助かってよかった…。おばさんにも謝っといてくれるか…?」 「和也のせいじゃないのはわかってるから大丈夫だよ」 「それに…陸斗の大切な人まで…」 晃司はもう戻らない。それは確かに辛いけど、それだって和也が殺したわけじゃない。 「和也、やっぱり病院に行こう。まだ助かるかも知れない」 「…もう…痛みがないんだ…手遅れだよ…」 「話したい事たくさんあるんだ。和也と一緒にいたいんだ…」 「1年生の時…陸斗が初めて『一緒に帰ろう』って声掛けてくれて…嬉しくて…だから…友達になれてよかった…」 初めて和也の家に友達何人かで遊びに行った時 「んん?おばさん、ピーンときたぞ。君が陸斗くんだな?」 と、初対面なのに僕が陸斗だと見抜いてきた。それは和也が学校から帰ると僕の話ばかりして、いつの間にか会った事もないのに僕の姿が想像出来たからだと後になって聞いた事がある。そんなカラクリにも気付かなかった僕は 「すごっ!どうしてわかったの!?」 と驚き、和也のお母さんは 「おばさんは超能力が使えるのだ〜!はっはっはー!」 と笑っていた。 「どうして…こんな事になったんだろう…」 もはや僕が見えていないような虚ろな目から涙が一筋流れ落ちる。 「俺はただ…陸斗と大人になりたかっただけなのに…俺がもっと強かったら…あんな怪物の好きにはさせなかったのに…」 酷い傷を負い、母親に見放された和也はまだ12歳だった。たった12歳の少年がそんなに強くいられるわけがない。 「陸斗の手…あったかいな…」 そう言う和也の手は、もう氷のように冷たくなっていた。僕も和也の死を受け入れなければいけない時が確実に近いていた。 「俺も和也と友達になれて…本当によかったよ…」 辛い気持ちのまま逝かせたくなかった。 「毎日…イタズラばっかりしたよな…」 「駄菓子屋のばぁちゃんちの庭の柿盗んだのがバレたのは和也のせいだからな?もっともっとって欲張るから」 「…陸斗がちゃんと見張ってないからだよ…」 クスクスと笑いがこみ上げてきた。 「がはっ…!げほっ!」 「和也っ!」 「陸斗…!陸斗…!?」 「ここにいるよ…!」 僕は更に強く手を握った。 「…また…会えるよな…?」 「…生まれ変わっても…絶対和也を見つけるよ…」 「…」 和也は最期に小さく微笑み、静かに目を閉じた。暗い草むらの中で、捨てられたサンタの飾り物がチカチカ光っていた。手で触れなきゃ光らないはずのサンタが…。 僕の最愛の友達は…こうして死んだ…。 [*前へ][次へ#] |