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心を失くした天使2
すれ違い
僕は学校では普通に過ごしてる。小学校時代からの友達はもちろん、中学に入ってからの友達も出来た。
でも、単純に和也以上に気が合い、心を許せるような友達には出会えていないと思う。
そこまで信頼出来る友達を作りたいとも思ってないし、授業もただボンヤリ受けてるだけ、部活もしてない。要するにやる気がないんだろうな…。

ある日、僕が学校から帰ったと気付かなかった両親のリビングでの会話を聞いてしまった。
「あの子、最近帰りが遅いのよ…」
「…」
「学校には行ってるみたいなんだけど、放課後どこで何してるのか…」
「…俺のせいだな…」
「陸ちゃんに何か言ってあげて。このままだと私の時みたいになるかも知れない」
私の時みたいに?お母さん、これまでに何かあったのだろうか?
「わかってるんだ。向き合わなきゃいけない事くらい。でも…!」
「お父さん…」
僕はその場をそっと離れ、しばらく外をブラついた。

『向き合わなきゃいけない。でも』
お父さんも僕も、考えてる事は同じわけだ。
向き合わなきゃいけない。でも陸斗は男に犯された汚れ物だ。
向き合わなきゃいけない。でもお父さんは僕を汚いと思ってる。
…お互い近づきようがないじゃないか。
「…」
僕はポケットに入れたままになってたあの人の電話番号のメモを出した。

近くの公衆電話の前で、掛けようか掛けまいか10分程悩んだ。
掛けてどうする?何て言う?何も思いつかない。
掛けずに家に帰る?今日はまだ帰りたくない。両親の顔を見たくない。
僕は受話器を取り、書かれた番号を押した。
『もしもし』
ほんのワンコールで出た。
『もしもし?』
「…」
やっぱり何て言えばいいのかわからない。切ろうとした時、名前を呼ばれた。
『陸斗くん…だろ?』
「…うん」
『掛けてきてくれると思ってたよ』
「どうして?」
『もっと話したい事…って言うか、言いたい事があるんじゃないかなって』
「…」
『愚痴でも文句でも何でもいい。事件と無関係の事でも構わない。話して欲しいんだ』
「…」
傷害事件としか知らない友達には、和也と僕が強姦された事など言えるはずもない。両親とも話し合う事なんてない。
『なんてね、実は俺が話し相手欲しいだけだったり。兄貴が怖いからって友達あんまりいなくてさ』
そうだ、この人も可哀想な人だったんだ。それなのに精一杯僕を気遣ってくれようとしてる。
「家に…帰りたくなくて」
『何かあったの?』
「ん…少し」
『よかったら…俺んとこ来る?アパート借りて一人暮らししてるんだ』
それでもちょっと躊躇っていたら
『大丈夫、何もしないから』
と言った。そういう意味で不安があったわけじゃない。この人の周りの人達と同じように、関わりを持つ事をあいつに知られたりしないかと心配だったんだ。
もし知られた場合、あいつが僕に何をしようともこの人には止められないわけで。もしかしたら強姦されるかも知れない。わけもなく暴力を振るわれるかも知れない。根本的に『普通』の僕は一生関わる必要がない人種だ。
『兄貴もアパートの場所は知らないよ』
僕の不安を察したように、一番安心出来る一言をくれた。
それが後押しとなり、僕は後にとても大切な存在になる人の元へ足を運んだ。

公衆電話の所まで迎えに来てくれた晃司さんのアパートは、僕の家とは正反対の場所ながら割りと近くだった。一緒に歩く帰り道は会話がなくちょっと気まずかったけど。
部屋の中は必要最低限の物しかない。
「楽にして。って言ってもテレビも何もないけどね」
洋服ダンスがひとつ、小さなテーブルがひとつ、ベッドがひとつ。ただ、勉強机の上だけはパソコンや山積みになった参考書なんかでゴチャゴチャしていた。
とりあえず床に正座崩しで座ると、晃司さんはペットボトルのお茶をくれた。
「何があったの?」
向き合うように座った晃司さんに、両親との気まずさを話した。
「全部俺や兄貴達のせいだね…」
確かにそうなんだけど、僕は今更晃司さんを責める気はない。
「何を言ってもいいんだよ。罵っても、殴ったって構わない」
「…晃司さんが悪いとは思ってないけど」
「晃司でいいよ。晃司さんなんて呼ばれた事ないからくすぐったいよ」
「じゃ俺も陸斗でいい」
ほんの少し、クスッとお互いに笑った。
「人に言えない事とか、吐き出せなくてモヤモヤする時は何でも話してね。本当にそれくらいしか出来ないんだけど」
晃司は特別かっこいいってわけじゃないけど、一目でやさしい人だとわかる顔をしてる。それに、僕に対して負い目があるからそのやさしさは徹底的だ。
悪く言えば事件の被害者と加害者、良く言えば秘密を共有出来る相手。
…そうだ、恐ろしく歪んだ形とはいえ、僕は晃司とセックスしてる。してるフリで済まそうとした晃司に、和也がされてるのと同じ事をと望んだのは僕だし、強姦されたとは思ってない。
それを意識した途端、急に恥ずかしくなってきた。
和也は気絶するまで、手術が必要なまでに痛めつけられたセックス。
同じ事をされた僕は、痛みに耐えていたのは事実だけど、体の奥でどこか気持ちよさを感じていた。痛い痛いと言いながらちんこを勃起させていた事を晃司は知ってるのだから。

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あきゅろす。
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