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心を失くした天使2
四人目
彼はいやらしい事をしたいわけじゃない。僕に屈辱を与えたいだけなんだ。
そういう意味で確かに僕は大ダメージを受けてる。中学二年生にもなって外で裸にされるんだから。
近所の人や学校の友達に見られたら一生笑い者だ。そうなっても彼は喜ぶだけで、更に僕をいたぶるに違いない。

…もう本当に和也には会えないのかな…。
あの体の中にいるのは間違いないんだ。そしてきっと僕を感じてるはず。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、鎖に繋がれてない猛犬に阻まれてるような…そんな状況だった。

家まで帰って来たものの、殴られた口元がズキズキと痛む。
公園のトイレで鏡を見た時、もうすでに痣になっていた。
友達とケンカしたって言おうか?でもこのタイミングで両親がそれを真に受けるだろうか。
どう考えても隠しきれるわけないし、本当の事を…でもまた心配掛けてしまうんじゃ…。
「陸斗」
家の前でモタモタしてるうちにお父さんが帰って来てしまった。
「どうした?」
嘘とそれを言う時の表情を準備してなかった。
「…どうしたんだ、その怪我…」
薄暗い中でもすぐに気付かれるくらい痣は目立つらしい。
「まさか…」
いいのか悪いのか、お父さんはすぐに察知した。
「お母さんには言わないでっ…!」
「でも…」
「殴られたけど…今日は殴り返してやったし」
「…」
困惑してるのがよくわかる。
「部活でボールが当たったって言うから…!」
気持ちの準備さえ出来ていればそれくらいの嘘はつける。
「陸斗…」
お父さんは僕を抱き寄せた。
「お父さんはまたお前を助けられなかったダメな父親だな…」
「そんな事ないよ…。調べてくれたんでしょ?」
大学時代に見たっていう多重人格障害だった人の事はやっぱり気になる。
もし今、普通に生活してるなら和也だってきっと回復する見込みがあるはずなんだ。
「お父さんが直接歩き回る事は出来ないから、何人かに連絡して調べてもらってる。すぐ知らせが来るよ」
「うん…」
お父さんだって仕事があるわけだし、その合間に出来るだけの事をしてくれてる。それが僕にとっての励みであり強みでもある。
「…じゃあうまく演技しろよ?お母さんには心配掛けたくないしな」
「うん、わかってる」
僕は沈んだ表情を無理矢理笑顔にして、ゴホンと咳払いをひとつして玄関を開けた。
「ただいまー」
お母さんがバタバタ走って出迎えに出てきた。中から僕かお父さんが見えたのかな?でも何もそこまで張り切らなくたって。
「ねぇ、見てよこれ。顔面でボール受けちゃって…」
僕の渾身の演技の最中なのに、お母さんはそれを遮って叫んだ。
「陸ちゃん…!」
その顔は不自然なくらい青冷めていた。
「…?」
「病院で…殺人事件って…ニュースで…」
「…えっ!?」
僕は慌てて靴を脱ぎ、転びそうになりながら…いや、実際転んだけど、急いでテレビに向かった。

『…なお、殺害された藤沢晃司さんの…』

殺害…?何これ…?殺害って…死んだって事…?容態が悪くなって、とかじゃなく…?病院って…安全な場所のはずじゃ…。
「!!」
あいつだ!い、いや…それ自体は想像がつく。それしか考えられない。
疑問に思ったのは、なぜあいつが晃司の病室を知っていたかだ。
マスコミ対策で一般の病棟とは違う所にいたんだ。僕みたいに案内されなければ絶対にわかるはずがない。それなのにどうしてって考えた時、思い付いたのは、僕の後を尾けていたんじゃないかって事だ。
そうだとしたら…僕が晃司の居場所を教えたも同じだ。
「晃司…」
あいつが言った『独りぼっち』の意味はこれだったんだ…。
さっきは晃司を殺したその足で僕の所へ来たに違いない。
『警察では、監視カメラに映った犯人と思われる男性の行方を追っています』
そしてテレビにその映像が映された。
「…」
和也…いや、和樹だ…。後ろ姿だけだったし、いくらかボヤけた映像だったけど間違いない。服装もさっきと一致してる。
とうとう和也の姿のままで、ハッキリと証拠が残るような雑な犯行に走ってしまった…。
それはきっと晃司が最後の標的だからだと思う。もうバレたって構わない。そんないい加減な心情が読み取れた。
…そうだとしたら、警察に捕まったら和也に体を返すのだろうか?和也のフリをして罪を被るなんてあり得ない。
だったら警察に言ってしまいたい。和也が帰って来るのなら。でもそれだとあいつではなく和也が警察に…。どう転んでもあいつにはダメージはなく、和也が不利になるだけだった。
「…」
頭をフル回転させすぎてオーバーヒートしたらしい。僕はその場にへたり込んでしまった。
「陸斗…」
肩を抱くお父さんの声が遠くで響く。
…そうだ、晃司が死んだんだ。和也の事に関して頭が回らなくなって、ようやく思い出した。
改めて思うのは、晃司の兄貴と佐藤とかいうヤツが死んだのは僕にとってどうでもいい事。
…でも晃司は違う。抱き合った。キスをした。セックスもした。…愛していた。
今ここで両親にそれは言えないけど、僕の大切な人が…死んだ。殺されてしまった。親友の姿をした悪魔に…。
「お父さん…お母さん…俺…どうしたら…」
助言を求めてそこまで気力を振り絞って言ったものの、気分の悪さに耐えきれず吐いてしまった。
「げほっ…!」
「陸斗っ」
「陸ちゃんっ」
気が遠くなる…。
なぜかすごく眠い…。
僕の心が…挫けてしまう…。
助けて…お父さん…お母さん…。

…和也…。

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あきゅろす。
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