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心を失くした天使2
戦う勇気
とりあえず、今の僕に出来る事は何もない。和也の体を利用してるあいつに出くわしたら、今度こそ取り返しのつかない事になるかも知れないし。
似たような病気だった人が今どうしてるか、お父さんが調べてくれるわけだからその結果を待つしかない。

それでも何か出来るんじゃないかと落ち着かない気分になってしまうのは…本当の和也が間違いなく存在しているからだと思う。
…卑怯だ。最低だ。和也の姿であんなひどい事をする和樹が憎い。
僕を助けてくれた親友の体で今度は僕をなぶり者にしてる。
もしまったく別人の体だったら例えどんなに強くても、どんなにブチのめされても、立ち向かいせめて一発殴ってやろうって気持ちになるかも知れない。
でも僕にはどうしても和也の体を傷付けるような事は出来なかった。
それをあいつはわかってる。それが許せないんだ。

お父さんは行動派だ。きっと今日のうちに色んな事を調べて何らかの結果を持って帰るだろう。
集中したとは言えない部活を終え、僕は真っ直ぐ家に帰るつもりでいた。

「陸斗」

ただ名前を呼ばれただけなのに全身の毛が逆立ち血の気が引いていく。
「…」
振り返るとニヤニヤ笑うあいつがいた。学校の近くまで来て僕を監視してたのは予想外だった。おそらくは今住んでる家にも帰らず、この辺りでブラブラしてるんだろう。
彼はどう考えても和也じゃない。目を見ればわかる。あの後、また体を乗っ取られたんだ。
「またかわいがってやるよ。こないだは邪魔が入ったからな」
…冗談じゃない。またあんな目に遭うなんて…。
逃げなきゃ…!体力に差はあっても走るスピードはそんなに変わらないはず。
で、でも…足が震えて思うように動かない。一歩目を踏み出したら足がもつれて転んでしまう気がする。
「一緒に来いよ」
そう言って歩き出した。
「…」
今の所は凶暴さは感じない。腕を掴んで強引にってわけでもないし、もしかしたらおとなしくついて行けば乱暴されずに済むのかも…。
そんな微かな期待を抱きつつ黙って後をついて行った。
…結局…僕は何も出来ない臆病者のまま、か…。

「この胸のイラつきを説明するのは難しいんだよなぁ」
突然そう言い出したのは、人通りのある繁華街を歩いてる時だった。まさかこんな賑やかな所で僕をどうにかしようなんてさすがに考えないと思う。
「俺が人を殺す時、あるいはお前に何かする時、和也の声が耳鳴りみたいに頭の中でガンガン響くんだ」
とりあえず暴力的な様子じゃなさそうだ。それでも機嫌を損ねないよう注意しなきゃいけないけど。
「陸斗をいじめるなってな」
和也…すぐそこにいるの…?僕が見えてるの?僕の声は聞こえてるの?
「それが余計に俺をイラつかせる。だから俺はお前をいたぶりたくなる」
僕をかばう和也の叫びが、逆に僕を苦しめてる…?
「和也は俺を抑える方法を知らない。こないだはただのまぐれだ。力も俺の方が上。もう二度とあんな事はない」
和也ももう抑え切れないって言ってたっけ…。
「今日はどこでかわいがって欲しい?ここか?ここで素っ裸になってショーでもやるか?」
…結局は僕をいたぶりたいだけか…。でもここでってのが自分にも都合が悪いのはわきまえてるはずだ。
「…人がいないとこならどこでも…」
「お、やっとノリ気になってきたか」
そんなわけはない。和也が僕を助ける為に戻ってくれる奇跡が起きないなら、早く気の済むようにして欲しいだけだ。

僕はいじめられっ子のようにうなだれたままトボトボと歩き、ただ後について行った。
やはり『辱しめ』は実行されるらしく、もう人気もなくなった公園の隅にたどり着く。
辺りは薄暗いし、ここなら何とか誰にも見られず済むかも…。
「…俺はお前が憎い…」
「…えっ…?」
「あの場にいたやつとバカみたいな関係になってさえいなければ、ここまで憎む事はなかったかもな」
「…」
僕的に支えになってくれた人とはいえ、やはり晃司との関係については何も言い返せなかった。
「ほら、脱げよ。アイツと一緒の時みたいに、ケツおっぴろげてちんこ勃たせろ」
「…」
僕は手にしていた鞄やユニフォームを入れる袋を足元に置き、ちびちびと制服を脱いでいった。
もう痛い目に遭うのも怖い思いをするのも嫌だ。
「…」
決して慣れる事のない屋外での裸。植木の陰になってる場所で、通りからはまったく死角になってるのが救いだ。公園内を通る人には見られてしまうかも知れないけど。
逆らう事なくパンツに手を掛けた所で、僕は突然突き飛ばされた。
「つまんねーんだよ!ウジウジメソメソしてみせろよ!」
「…!?」
メチャクチャだ。抵抗してもキレる。素直に従ってもキレるじゃどうしようにもない。
「和也を見捨てて平気で裏切っておきながら!何で今さら素直になんだよ!」
倒れた僕に馬乗りになってきた瞬間、とっさに危険を察知して両手で顔を覆った。
「くそっ!くそっ!」
予想した通り、顔を叩こうとする手が何度も行き来する。ガードしていても何発かはしっかり当たってしまい、それがやがて僕を熱くしてしまった。
「裏切ってなんかない!」
ゴロンと転がり今度は僕が馬乗りになった。
「他にもやれる事があったかも知れないけど…!でも探したんだ!」
我を忘れ始めていた僕は、大切な親友の体なのにその頬を殴っていた。
「和也の側にいたかった!側にいて欲しかった!いつか笑える時が来るって信じてた!」
僕と和也の仲を引き裂いたのは…あの忌まわしい出来事なのか、黙っていなくなった和也のせいなのか、死ぬ気で探さなかった僕のせいなのか…もうわからなくなってきた。
「和也に会わせてよぅ…」
無駄だとわかっていながら、一番の望みを言いつつ泣きついてしまった。
「…嫌だね」
僕はまた突き飛ばされ、彼は立ち上がる。
「和也だってお前を許さない」
…嘘だ。それは絶対に違う。だって現に僕を助けてくれた。
もちろん僕が晃司とあんな関係にあった事を笑って聞き流すのはありえないだろう。でも僕なりに探したけど見つからなかった事、寂しかった事を話し、何より心から謝ればきっと和也は許してくれる。
「お前はもう独りぼっちさ。これからはどっかのおっさんの腹の下で変態ゴッコやるんだな」
彼はそれだけ言うと僕を放って行ってしまった。
「…」
独りぼっち…?その言い方が妙に引っ掛かった。
…でも今日はお互い殴り合ったものの、それ程酷い思いをしなくて済んだ。
僕は脱いだばかりの服を着て、誰もいなくなった夕暮れの公園を後にした…。

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