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心を失くした天使2
皆殺しの唄が聴こえる
「こっち来いよ」
和也は僕の肩を抱き駐車場の片隅へ向かおうとする。
「もう帰らなきゃ…」
子供じみた言い訳だけど、とにかく早く和也から離れたかった。
「ふざけんなよ。小学生の頃もっと遅くまで遊んでたろ?」
「…」
こんな言い訳が通じる相手じゃない事はわかってる。
「おとなしく来いってんだよ。カツアゲしてるみたいじゃねぇか」
乱暴な言葉遣いもやっぱり和也らしくなかった。
逆らうと何をされるかわからない。実際この前の夜ビンタされてるし。
コンビニと隣の敷地の間に設けられたブロック塀のわずかなスペースに連れ込まれ、僕は塀に背をついて和也を見た。
「…」
端正な顔立ちをした同い年の少年…。でも…殺人犯だと思うと体が震えた。
「もうわかってんだろ…?」
自分から打ち明けるつもり…?そうだとしたら、それを知った僕も殺される…?
「…俺が皆殺しにした事」
とうとう言った。この場に事件を捜査してる警察の人がいたらこれで解決だと喜ぶだろう言葉。
「お前の彼氏は殺り損ねたけどな。通りがかったババァがギャーギャー喚き散らしやがってよ」
「も、もうやめて…」
「やだね。きっちりトドメ刺してやるよ」
これが…和也…?こんな恐ろしい事を平然と言うなんて…。
「もう三人殺ってんだ。あと一人殺したってどうって事ないさ」
「…三人…?」
やっぱりと言うべきか、母親も殺してるんだ…。
「母親も殺してやった。いつまで経っても汚物を見るような目つきをやめなかったから…始末した」
逃げなきゃ…!でも足が震えて動けない。
「ずっと眠れない日々を送ってきたのに…母親を始末した夜はぐっすり眠れたよ。救急車だの病院だの、親戚の連中は大騒ぎだったらしいけどな」
人を…自分の母親を殺してぐっすり眠ったなんて…。
「俺をレイプしたチンピラを殺ったのは俺だけの為じゃない。お前の為でもあるんだぜ」
「…え?」
「お前だってあいつらが憎かったろ?俺を傷つけたあいつらが」
「…」
確かにそうだ。和也が僕をかばって大怪我をしたあの日、力と勇気がない自分をどれだけ呪ったか。それはすなわち、晃司の兄貴を憎むのと同じようなものだ。
「でも…人殺しなんて…」
やっぱり嫌な予感は当たった。和也は中学生とは思えないような罪を犯してる。
「人殺しはよくないってか?わかってるさ。でも俺にはあいつらを殺す権利がある」
滅茶苦茶な理屈だけど、確かにそんな気がしないでもない。
「でも晃司は和也に何もしてないじゃないか…。おばさんだって、和也の傷を理解してなかったかも知れないけど…殺さなくたって…」
「俺はお前をかばう為に一人悲惨な目に遇ったんだよ!」
突然キレた和也に胸ぐらを掴まれた。
「あの場にいた野郎にケツ掘られてヒィヒィ喘いでたお前と一緒にすんな!」
「…!」
何か言おうにも言葉が出ない。その事実に後ろめたさがあるからだ。
「俺は許せないんだよ!あいつらを!殺しても殺し足りないくらい!」
おかしい…。憎いのはわかる。でも完全に瞳孔が開くまでにそれを力説する和也。そこに違和感を抱けずにはいられなかった。
確かに子供の頃からカッとなる事はあった。友達ながら怖いと思った事もある。でもどこかサバサバしていて、いわゆる『後腐れがない』怒り方だったように思う。
今の和也は…力をつけたからか、その気になれば地の果てまで追い詰めるような、執拗なまでの執着がある気がしてならない。
「和也がいつまでもウジウジメソメソしてやがるから!だから俺が殺ってやったんじゃねぇか!」
えっ…?自分の事を『和也』って言った…?
「…チッ」
しまったという表情で胸ぐらを掴んでいた手を放した。
「…一体…誰なの…?」
誰かが…和也の中にいる。
「俺は誰でもない。和也の傷そのものだ」
これは何…?まさか…映画なんかでよくある多重人格ってやつ…?
「紛らわしいから名前付けるか。和也の分身だから…和樹ってのはどうだ?」
…芝居なんかじゃない。間違いなく『和樹』がいる。
「俺は俺自身でさえ存在に気付いてなかった。和也がレイプされた時、突然目覚めたんだよ」
わけがわからなくなってきた。
「生まれて初めて気絶した事が目覚めるキッカケだった」
痛みに耐えられず、おしっこを漏らしながら意識を失くしたあの時だ。
「それでもしばらくはおとなしくしてたけどな。この体を和也に全部使わせてたのは引っ越す前までさ。こないだお前んちへ行った時はもう俺だったんだよ」
お風呂場や真夜中の出来事は…和也の意志ではなかったんだ。
「…和也は…?どうなったの…?」
「心の隅っこで小さくなって震えてるよ。陸斗には乱暴しないでってしつこくてな。美しい友情もいい加減目障りだ」
和也の嘘なら見抜ける僕が、これは和也じゃなく明らかに他人だと確信してる。あり得ないような事だけど…これは事実だ。
「いくらお前でも、あんまりふざけてっと殺っちまうぞ」
怖い…!この目は本気だ…!
「…なんてな。本気にすんなよ」
…冗談を言ってるわけじゃない。例えば今、僕が大声で『ここに人殺しがいる!』って叫ぼうものなら、全部言い切る前に確実に首を折られてしまうだろう。それだけの威圧感がある。
「あいつの代わりが必要だろ?」
「えっ…?」
「お前が泣こうが叫ぼうがあいつは殺す。必ずだ」
「そんな…!」
「そしたら変態プレイの相手がいなくなって困るよなぁ」
僕に詰め寄り、また股間を掴んできた。さっきみたいに力は入ってないけど拒絶したらきっと殴られる。それが怖くてジッとしていた。
「俺が相手してやるから心配すんな」
次に僕の唇をベロッと舐めてきた。わざとらしくゆっくりと。
「んん…」
和也なら我慢出来たかも知れないけど『和也の中にいる知らない人』にそんな事をされたかと思うと気持ち悪かった。
「早速いい事してやるよ」
とパンツの中に手を入れ、直に触ってくる。しかもそのままパンツごとハーパンを下げようとまでしてきた。
「嫌っ…!」
その手を押さえた。だってここは誰の目にも付かない部屋の中じゃない。屋外なんだ。人目のある場所でどうしてこんな事を…。
「…お前、まだわかってねーな…」
まずい…!拒否は機嫌を損ねるからまずいんだ。でもっ…!
「腕一本、へし折ってやろうか?」
「お願いだから…もう許して…」
「何でだよ?いい事してやるっつーのに」
「こんなとこで…出来ないよ…」
「だぁいじょうぶだって。誰も来ねーよ」
まるで…悪魔の化身だ…。
「他の場所でなら何でもするから…」
「していらねーよ。勃たねーの知ってんだろ?バカ」
そして強引に僕の下半身を露出させた。昼間、明るい時間にこんな所で何て情けない…。
どこまで僕をいたぶれば気が済むのだろう…?どれだけ辱しめれば許してもらえるのだろう…?屈辱だとか羞恥だとか、色んな感情が僕の心を蝕んでいった…。

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