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心を失くした天使2
暗黒への招待
日本の警察が無能に思える程、捜査に進展はないみたいだった。
それもそうだ。晃司が言ったようにおそらくは怨恨の線から調べてると思う。でも、僕達の一件は事件として記録されていない。接点がないのだから僕や和也に辿り着きようがないんだ。その為か、晃司の兄貴の件も、もはや新聞に載りさえしない。
結局、夏休み最後の日曜に家族で出掛ける事もないまま新学期を迎えた。冬休みこそ海外旅行へと言うお父さんの言葉を信じよう。

事件の真相を知る者としてふいに警察が来るんじゃないか、和也が何らかの理由でまた来るんじゃないかと怯えながらも、再び平穏な日々は続いた。
僕は毎日学校へ通い、新しく加入したサッカー部で体を疲れさせてから家に帰る。その頃には晩ご飯のいい匂いが外まで漂い、軽くおかわりしてもおいしく食べれる。
お風呂で汗を流し、クラスのみんなも観てるようなドラマやバラエティーに笑い、その後は自分の部屋で宿題を済ませてから寝る。
そんな普通の生活が楽しくなってきた。少しずつ友達との交流も増え、僕んちに誰かが遊びに来たり、何人かで遊びに出掛けたりするようにもなった。
そんな僕を両親は安心して見守ってくれていた。実際にあの事件の事は頭の片隅に追いやられていくようになり、晃司の容体だけが唯一の気掛かりとして残ってるだけだった。

晃司が襲われてから一ヶ月が過ぎ、僕はもう大丈夫だろうとお見舞いに行こうと決めた。
最初に報道された時、レポーターの後ろに映っていたのは国立病院だった。今もそこに入院してるかどうかはわからないけど、情報がない以上とにかく行ってみるしかない。
両親は仕方なく認める的な事を言ってくれたけど、晃司を許せないという気持ちもわかる。だから両親には内緒で行くつもりだ。
もう会うのはこれが最後…。無事さえ確認したら、僕から本当のお別れを切り出そうと思う。今の僕にならきっと言える。気が迷わないうちにちゃんと話すんだ。

電車に揺られて30分。国立病院のある街に着き、病院までそう遠くない事から歩いて行こうと決めた。
駅を出て、日曜にも関わらず人影もまばらな田舎道を歩く。まだまだ残暑が厳しくすぐ額に汗が浮かんだ。
考えてみたらお見舞いだってのに、花も果物も持たず手ぶらだ。両親に言ってれば何か用意してくれただろうけど…別にいいや。小遣いも帰りの電車代でギリギリだし今さら何も買えないから。
僕がお見舞いに行く。それ自体を喜んでくれるといいんだけど。

大きい病院は受付窓口さえもどこにあるのかわかりにくい。天井からぶら下がってる案内板に従って進み、ようやく辿り着いた感じだ。
「あの…」
「はい?」
受付のお姉さんがきれいだったりすると少し緊張してしまう。やっぱり僕も男ってわけだ。
「藤沢晃司って人、入院してませんか?」
晃司の名前を出した途端、お姉さんのきれいな顔が歪んだ。
「こちらにはいらっしゃいません」
それはあまりにも冷たく言い放たれた。事務的、というより明らかに不快感を露にした言い方。調べもしないで即答、という事は間違いなくいるはずだ。警察の指示か、あるいはマスコミ対策か、とにかく『いない』と言う事になってるみたいだった。色んな人が同じように押し掛けてさぞかし迷惑したんだろう。
「容体だけでも教えてもらえませんか?」
「ですからこちらには…」
「お願いしますっ!」
「…」
興味本意だけじゃない事が伝わったのか、お姉さんは小さく一言だけ言った。
「…もう安心ですよ」
「…ありがとうございます」
その言葉だけで気持ちが軽くなった。
どうあっても病室には入れないっぽいし、おとなしく帰るしかないか…。でも十分だ。大怪我をしたとはいえ、もう特別に危険な状態ではないみたいだし。
「…お見舞いに来た事、伝えましょうか?」
「…は、はいっ」
何らかの決まりで面会は出来ないのだろう。でも可能な限り、許される配慮と言えると思う。
「陸斗っていいます…!それだけでわかりますから…」
「…後で伝えますね」
「…お願いします」
さっきの言い方からどんだけ冷たい人かと思ったけど、ホントはいい人みたいだ。
僕はずいぶん軽くなった心に安堵して、お姉さんに頭を下げて病院を後にした。

もしかしたら、晃司とはもうこのまま二度と会わないかも知れない。晃司が退院してからも。でもそれでもいいと思える気持ちが芽生えた。もう意識もあり、やがてちゃんと怪我が治るとわかっただけで幸せな気分になれた。
これから僕は…僕の為、両親の為に生きて行きたい。高校、大学と進学して、大人になったら好きな女の子と結婚して、子供を作り家庭を持つ。そんな当たり前過ぎるくらいのささやかな幸せでいい。
それを望むのが欲張りだとは思ってない。間違ってるとも思ってない。だからもう…僕の事は放っておいて欲しかった…。

「り〜くとっ」
ふいに名前を呼ばれたのは、駅に向かって歩いてる途中だった。背筋が凍るとはこの事だと思った。
「…」
声の主を視線で追う。そうするまでもなく誰なのかわかっていても。
「和也…」
なぜここにいるのかとかいう疑問より、出会ってしまった事そのものが僕にとって恐怖だった。
和也は交差点の角にあるコンビニの駐車場にいた。正確には、パイプ状のガードレールに座ってる。片手に水の入ったペットボトルを持って。
「病院行ったのか?」
「…」
僕は歩道で立ち止まったまま返事も出来ない。
「面会出来なかったろ?」
どうしてそんな事まで知ってるんだ…?いや、わかってる…。和也が晃司を襲ったからだ。怪我をさせただけじゃ気が済んでないんだ…。和也は…まだ晃司を狙ってる…。僕のように面会を求めて病院にも行ったかも知れない。
「よっ…と」
ポンとガードレールから飛び下り、ペットボトルを駐車場にポイと投げ捨て僕の方へ来た。
「…何か言えよ」
すでに和也の目じゃない。それに和也は駐車場に平気でゴミを捨てたりしない。
「変態な事した仲じゃんよ」
いくらか人目がある場所にも関わらず、和也は僕の股間をギュッと掴んできた。
「やっ…!」
とっさにその手を振り払った。力が入ってて痛かったからだ。
「何が嫌だよ。相手があいつならここでだって裸になるくせに」
「なっ、ならないよっ…!」
「うそつけ。病院行ったのだってやらしい事したくて行ったんだろ?しゃぶってもらいにか?突っ込んでもらいにか?」
「違うっ!」
思わず叫んでしまった。思ったより大きな声が出た事に自分自身驚いた。
「…冗談だよ。ムキになんなよ」
そう言う和也の目はとても冗談を言ってる目じゃなかった。そう…邪悪な闇に満ちた目だった…。

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