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心を失くした天使2
許されるべき罪
もう言ってもいいだろう。和也は…やっぱり狂ってる。何かがおかしいどころじゃない。完全におかしくなってしまったんだ。もちろんそれは、元はと言うと和也のせいではないけれど…。
「和也くんがそう言ったのか?」
「…ううん…。でもわかるんだ…」
両親は昨夜の異常な行動を知らない。僕の言う事が本当だとは思えないだろう。
「ね、ねぇ、お父さん」
お母さんが神妙な面持ちで話し始める。
「うん?」
「和也くんのお母さんが亡くなったっていうのも…」
「滅多な事言うな」
お母さんが推理したように、もしかしたら実の母親までその手で殺めてる可能性もゼロじゃない。
「証拠もなく人を疑うのは間違ってる…」
その通りだ。でも…お父さん、ごめん。僕はもう間違いないと思う。
「警察に…言うべきだよね…?」
その決断が僕には出来なかった。もちろん、証拠はなくても情報提供という意味で言うべきなのはわかってる。つまり、かつての友達を売るような行為にためらいがあったんだ。
「…」
両親共、僕と同じように思ってるんだろう。事情はどうあれ、和也は僕の恩人だ。それに相手を殺してしまいたいくらい酷い目に遭った事に対する同情もある。
でも僕には…それ以外の感情があった。だから余計複雑に考えてしまう。それは、晃司を傷付けた事に対する怒りだった。
あの時、晃司は和也に怪我をさせたわけじゃない。現場にいたのは事実だけど、指一本触れていない晃司を殺そうとしたのが許せなかった。
…許せない…。それは僕が晃司を愛してるからに他ならない。重体と言ってたけど、首の骨が折れたなんて、少なくとも相当危険な状態のはずだ。
もし今日、眠りこけたりせずにしつこく晃司に電話して連絡が取れていたら、と思うと自分の事も許せない気持ちになる。…本当ならすぐにでも病院に駆け付けたい思いが僕をイライラさせた。
「陸斗…お父さんはこう思う」
すごく柔らかい口調だった。事を荒立てたくないという意思がすぐに伝わる。
「もしもだ。和也くんが彼らを殺したんだとしたら…それはきっと…復讐だろうな」
「うん…」
「あの時…お前達が乱暴されたと知った時、彼らが目の前にいたら、お父さんも同じ事をしてたかも知れない」
「…」
「殺人なんてとんでもない罪だ。でも…どうだろう、警察に話す必要があるのか…」
つまり事件の捜査は警察に任せて、いずれ和也が捕まるにしても捕まらないにしても、それは神のみぞ知るという事にしておこうってわけだ。
「また…逃げるの…?」
お父さんにはきつい一言なのはわかってる。でも言ってしまった。
「陸ちゃんはどうなの?和也くんが警察に捕まったりして平気なの?」
「俺は…」
正直どうすべきかわからない。お父さんが言うようにこれが復讐なら、もうこれ以上事件は起きないかも知れない。
でも僕が何より怖いのは、この先また和也が訪ねて来たりしないかという事だった。その時、僕は和也と向き合えるだろうか?言葉を交わせるだろうか?その自信がないから…心のどこかで捕まってくれたらと思っていた。
「…警察に言うべきだと思う…」
「そうか…。あの時もそうだったけど…お前は正しい」
「でもね、陸ちゃん…。そうしたらきっと…あの時の事も全部、みんなに知られてしまうのよ…?」
「みんなに知られても、すべての人が同情してくれるならそれでもいい…。でもお父さん達が心配なのは、くだらない週刊誌やなんかがおもしろがって…ある事ない事でたらめに書きたてるって事だ。警察に言おうと言ったお前は強い。でも…お父さん達は、お前が好奇の目に曝される事に耐えられる程強くない…」
すべては僕を思っての事。それはわかってる。和也が相手を殺したくなる程の恨みを抱えていたのも、あの場にいた僕が一番わかってるつもりだ。
でも…晃司は死んだわけじゃない。どの道、意識を取り戻せばその証言から和也に行き着くんじゃないだろうか?それだったら…テレビドラマなんかでよくある『自首した方が罪が軽くなる』とかいう選択をするべきじゃないかと思うんだ…。
「…お母さんね、正直言うと…例え和也くんがやったとしても…捕まらないでくれたらって思う」
お母さんも常識がない人じゃない。殺人が恐ろしい罪である事くらいわかってる。今回の場合、被害者と加害者に悩むべき要因があるんだ。
「お母さん達には陸ちゃんが一番大事。陸ちゃんにとって和也くんは友達だけど…和也くんよりも大事なの」
「うん…。わかってる」
「和也くんが捕まったら、きっとあの事が表沙汰になって、陸ちゃんも巻き込まれるって思うと…」
近所の人なんかにしたら『お宅の息子さん、男の人に強姦されたんですってね。気の毒にね』ってなるんだよな…。
「今日襲われた人、陸ちゃんによくしてくれたって言うけど…お母さんは許せない。殺されて当然っていうわけじゃないのよ?でも…やっぱり許せない…。蒸し返すようでこんな事言いたくないけど…どんな事情があっても、男の人が男の子に乱暴するなんて…その男の子が陸ちゃんだったなんて…どうしても許せない」
「お父さんも同じだ。あんな事があった場にいた人を…お前に汚らわしい事をした人を許す事は出来ない」
その気持ちは人の親じゃない僕にもわかる。でもますますセックスの関係を続けてた自分が後ろめたくなってきた。
「お父さんもお母さんも…和也がした事、理解出来るって事…?」
「…そうだ。もっと言うなら…和也くんの味方…かも知れない」
「もしまた和也がウチに来たら…どうしたらいい?」
「それはないと思うけど…もし来たら…そうだな…」
これには両親も答えが見つからないらしい。
「来ないよね…きっと」
「あぁ…」
心に微かに残る和也への、かつての親友への想い…。それは両親と同じ、警察に捕まる事なく終わって欲しいという所に行き着いた。晃司は死なずに済んだけど、これで復讐に囚われず、本当にすべてを忘れ、新しい人生を歩んでくれたなら…おかしくなった和也も元に戻るかも知れない。
「…わかった。この事は…誰にも言わない」
警察に話せば確かに僕は町中の晒し者だ。両親の為にも、やっぱりそれは出来ない。
「そうか…。もうこれで終わったんだ。全部忘れよう」
「うん…」
お父さんは立ち上がって僕を抱きしめた。
「よく話してくれたな。お前はお父さん達の誇りだ」
「でも…」
「?」
「晃司…さんは大切な人なんだ。お父さん達が許せなくても俺にとっては…」
「…そうか」
「本当だよ。あの時だって悪い兄貴に逆らえなかっただけだし、それでも責任感じて家族が仲直り出来るように考えてくれたんだ。晃司さんがいなかったら俺きっとまだ…」
「わかった。賛成は出来ないけど…わかった事にする」
「…ありがとう」
今すぐは無理でも、何週間か経ってしまったとしても、会いに行かなきゃいけない。もう晃司と抱き合って愛し合う必要はない。生きててくれるだけでいいんだと、失いかけた今それに気付いたから…。


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