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心を失くした天使2
砕かれた愛
どれくらい辱しめられただろう…?お尻の穴に深くペンを突っ込まれ、それを激しく出し入れされた。ちんこをシゴかれ、射精してしまったのも『お前すげぇいやらしいな』と言われたのも、虚ろながら覚えてる。でも…和也がいつ消えたのかまでは覚えていなかった。

朝、目が覚めた時、僕は裸のままでベッドに横たわっていた。時計はちょうど6時を指していた。
体とシーツが自分の精液で汚れ、傍らには遊んだ後のペンが放り投げられてる。
「…」
また涙が溢れてきた。枕に顔を押し付け思い切り泣いた。
僕は昨夜、友達と戯れたんじゃない。知らない少年に辱しめられたんだ。そしてあの時の和也と同じ、まるでゴミのように捨てられた気分だった。
両親はまだ眠ってるだろう。僕は落ち着きを取り戻してからタオルを体に巻き浴室へ向かった。

熱いシャワーは汚れを洗い流してくれる。それと同じように、昨夜の記憶もきれいに忘れさせてくれたらいいのに…。

何も言わずに姿を消した和也の事を両親も不思議に思っていた。でも、改めて別れの挨拶をするのが照れくさいんだろうという事で納得する事にした。
…僕もそれでいいと思ってる。いや、本当はもう二度と会いたくないとまで思っていたけど…。
それよりも晃司にこの事を知らせるべきじゃないだろうか?和也が現れた事、どこかおかしい事…。酷い事をされた事も…話すべきかも知れない。
もしかしたら晃司の兄貴達を殺した犯人かも知れない事…いや、それは何の証拠もないし話さない方がいいか。
僕は両親が仕事に出掛けた後、家の電話から晃司の携帯に連絡してみた。
『お掛けになった電話番号は、電波が届かない場所にあるか、電源が入っていない為掛かりません』
兄貴や佐藤ってやつの事で頻繁に電話が鳴って困ってたみたいだし、もしかしたら電源を切ってるのかも。
アパートへ行こうか?でも…正直外に出るのが怖い。もう会うのを控えようって決めたばっかりなのも僕の行動を鈍らせた。
でも、夜中の出来事で心がひどく疲れたのが一番大きかった。汚れたシーツを自分で新しい物に取り替えてすぐ、僕はベッドに倒れ込み眠りについてしまった。

ずっと眠り続けた僕は、二階の部屋まで届いたカレーの匂いで目を覚ました。時計を見るともう夕方の6時だ。
本当なら今日中に宿題をほとんど終わらせてしまおうとしていたのに、宿題どころか昼ご飯も食べてない。
「う〜…ん」
大きな伸びをひとつ。そう言えばお腹空いたな…。長く寝たせいで、時間の感覚がおかしい。和也が来たのが何日か前のような気がする。ペンで弄ばれた事は嫌な夢だったと思い込み、なるべく気にしないようにしよう。せっかく家族がいい雰囲気になってきたんだ。沈んだ表情をしてたらまた両親に心配を掛けてしまう。

部屋を出て台所に行くと、お母さんが鼻歌混じりにカレーを煮詰めていた。
ちなみにカレーは、オムレツと同じくらいおいしいお母さんのスペシャル料理だ。スパイスの調合具合が絶妙で、お母さんのカレー以上においしいカレーはこれまで食べた事がない。そのカレーにオムレツを乗せた『オムカレー』は年に一回か二回だけしか作らない裏メニューだとお母さんは自分で言ってる。
「もうちょっとで出来るからね」
どう見てもすぐにも食べれそうだけど、煮詰める時間とかお母さんなりのこだわりがあって簡単にはゴーサインは出ない。それにまだお父さんも仕事から帰ってないし。
「お昼食べてないからお腹空いたでしょ?」
「ごめん、昼寝しちゃったら食べ損ねて。あ、俺の分じゃがいも入れないでね」
「ダーメ。ホックホクまで煮込んだから食べなさい」
「うぇぇ」
あんまり好きじゃないんだ、じゃがいも。前もって言ったのが裏目に出るかも。
「〜♪」
お母さんは相変わらず鼻歌混じり。
仲直りする前は元気もなく、実際の年齢よりもっと年を取って見えた。でも今はまるで逆だ。すっかり元気になり完全に若返ってる。僕が心を開いた事で、お母さんはきれいになった。お父さんも明るくなった。こういうのを『幸せ』と言うのなら、僕はそんな簡単な事もわからなかった大バカだ。
もう二度と、お父さん達に心配は掛けない。両親の『幸せ』が僕次第、という事を知ったのだから。

最近は帰りの足取りも軽いお父さんと、カレーに添えるサラダまで手際よく作ったお母さんと、そして僕との親子三人の食事。
当たり前の光景だけど、それはささやかながら幸せな事で単純な僕はそれがこれからずっと続くと思っていた。
「ちょ、お母さんこれ人参多すぎるよ…」
お父さんは人参が苦手だ。
「もう、陸ちゃんと二人して好き嫌い言わないっ」
「いや、でもこれはさ…」
「黙って食べるっ」
「はい…」
お母さんはそれぞれが嫌いな物をわざとてんこ盛りに入れたんだ。お父さんのカレーはもはや『人参飯』と言える状態だし。
「…」
僕はお父さんと顔を見合せ、お母さんには逆らえない事に肩をすくめた。

食事の後、僕は後片付けを手伝っていた。お皿を洗うのはお母さんだけど、それを拭いて棚に片付けるのが僕。
「宿題終わりそう?」
「うん。もう少し」
「ねぇ、そしたら最後の日曜日、三人でどっか遊びに行こうか?」
…そうか、この2年、家族旅行はもちろん、近場でも家族で出掛けるなんて事なかったっけ。
「…うん」
賛成だった。本当にどこかへ出掛けたいと思った。
「なぁに〜、あんまり乗り気じゃないみたい」
洗い物で両手が塞がってるお母さんは、腰を横に突き出して僕を押した。
「…そうじゃなくて…」
「?」
「ごめんね…。俺がずっと家にいなかったから、去年もおととしも旅行とか出来なくて…」
「もういいの」
お母さんは僕の言葉を遮るように言った。
「何よ、男らしくないぞっ」
さっきよりも強く腰で押されよろめいてしまった。
「痛いよ」
「まだ陸ちゃんには負けないわ…よっ」
楽しそうに何度も押してくる。もちろん僕が本気で押し返したらお母さんはふっ飛ぶだろう。でも…そういう事でいいと思った。僕はお母さんにはかなわない。それでいいんだ。
「ありがと。もういいからお父さんとテレビ観てらっしゃい」
「うん」
ふきんを干し、台所を出る。
居間ではお父さんがソファーに座ってテレビを観ていた。
「また事件か…。この近くじゃないか」
ちょうど番組と番組の間のニュースをやっていた。
『襲われた男性は、藤沢晃司さん、20歳で、警察の調べによると藤沢さんは大学からの帰宅途中、何者かに背後から襲われ、首の骨を折り意識不明の重体となっています…』
…何?今…何て…?僕は座りもせず、頭に入ってきた言葉の整理を始めた。
『殺害された藤沢さんの実兄との事件に何らかの関連があるものとみて、捜査が進んでいます』
こ、晃司が…?襲われた…?あの事件に関わった三人全員が…?
「陸斗?」
お父さんの声が遠くに聞こえる。
もう間違いない。これはすべて…和也の仕業だ。和也は復讐の為に空手を習い、そしてそれを実行した。
「…お父さん…」
「どうした?」
「…俺の話を聞いて…」
一番の友達だった和也が、まだ僕と同じ中学生の和也が、昨夜ここに泊まった和也が…人殺しかも知れない…。いや…もう間違いない。
なぜだろう…また涙が流れてしまう…。よからぬ雰囲気を察したお母さんも居間に来た。
「この前から立て続けに殺された二人…俺は知ってるんだ…」
「…な、何だって?」
「今ニュースで言ってた人も知ってる…」
気分が悪い…。食べたばかりのカレーを戻してしまいそうだ。
「殺された二人は…あの日、変わる変わる和也に乱暴したやつらで…今の人は…俺に…」
「ど…どういう事なんだ…?」
両親が混乱するのも無理はない。僕はまず晃司の事を話した。本当はいい人で、事件の後親身になって僕の心配をしてくれていた事も、アパートに出入りしていた事も…。それでも体の関係までは言えなかったけど。
「それじゃあ、あの事に関係した人達が…?」
お母さんはオロオロしてる。そんなお母さんより一瞬早く、お父さんがすべてを察知した。
「でも…!まさかそんな…!」
僕も『まさか』と思いたい…。でも…きっと間違いない。
もう両親には心配は掛けないと誓ったばかりなのに…悪魔がコントロールする運命は、まだ僕達を弄び足りないらしい。
「和也が殺したと思う…」
僕の一言で、居間の空気が凍りついた。それは絶望的なまでに冷たく、二度と溶かせないまでに…。


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あきゅろす。
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