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心を失くした天使2
惨めな死
「歩道橋から落ちる前に、首の骨が折られてたんだ」
検死とかいうやつ?そんな事までわかるんだ。
「じきに警察も公表するだろうけど、もうすでに殺人事件として捜査してる」
『事故』ではなく『事件』…。僕と和也の時と同じだ。しかも今度は人が死んでる。ただ事じゃないのは確かだ。
「お金なんか持ってない兄貴が殺されたとなると…強盗なわけないし、どう考えても怨恨だよな…」
それって…恨んでる誰かがって事?
「…俺じゃないよ」
「当たり前だよ」
晃司は笑った。
「映画に出てくる殺し屋みたいに人間の首を簡単に折るなんて普通は出来ないさ」
恨んでる人の中にプロレスラーみたいなのがいたのかな…?
「首に細長い痣があったんだ。鉄パイプとかで思い切り殴られたような」
それなら誰にでも出来そうだ。
「でも皮膚から金属とかそういった物質が検出されてなくて、だから…素手の可能性が高いって」
素手で首を折って、でも普通の人じゃない…。やっぱりプロレスラー?
「力任せとも違うみたいで、すごくきれい折れてたらしい。ものすごい力を一瞬だけ込めたような」
「…どういう事?」
「例えば…実際に出来るもんかどうか知らないけど、映画とかであるだろ?空手の使い手がズバッて手刀を入れたりとか」
…空手…?その瞬間、僕の頭の中で正三角形の図式が浮かんだ。『空手』と『遠藤和也という優勝候補者』と『こないだの後ろ姿』を結ぶ三角形だ。
「…どうした?」
「…ううん、別に」
前にも思ったけど、あの和也が空手の達人なんてありえない。晃司の兄貴はたくさんの人に恨まれてるだろうし、きっと犯人はすぐ見つかると思う。でも、事実を警察に話してないあの一件から、僕や和也が捜査線上に浮かぶ事はないはずだ。僕は僕なりに、テレビの刑事ドラマっぽい言葉を並べてそう推理した。
「やっぱり兄貴は、こんな死に方をする運命だったんだな…」
こないだ僕が言った『いい気味だ』に通じる言葉だった。
「お前が言った通りさ。悪い事ばかりして、みんなから嫌われて…葬式なんて誰も来なくて惨めなもんだったよ」
「…」
「正直…俺も殺してしまいたいって思った事あるし」
いじめられていた壮絶な子供時代の話だろう。
「心のどこかで…せいせいしてるよ」
晃司の手がシャツの中に入って体を直接撫でてる。不謹慎かどうか僕にはわからない。でもそうされるとどうしても反応してしまう。
「留守の間どうしてた?」
「…毎日ここで留守番してた」
「寂しかった?」
「…うん」
「俺もだよ」
晃司は僕をやさしく寝かせ、体を撫で回しながらキスしてきた。たかが一週間振りなのに懐かしくて、嬉しくて涙が出そうなキスだった。
「入れていい?」
「…うん」
その言葉だけで僕は下半身を熱くしてしまう。この前のちょっと乱暴なセックスは、正直少し痛かった。でも今日はきっといつものようにやさしくしてくれる。僕を天にも昇る気持ちにさせてくれるはずだ。

それからずっとベッドで過ごした。僕は何回射精しただろう?でもいくら射精しても、晃司と離れたくない気持ちは決して萎えない。
「…今日、泊まってもいい?」
二人でシャワーを浴びた後、そう頼んでみた。
「無断外泊か?」
「平気だよ」
裸のままベッドで横になり、晃司の脚を枕にしてくつろぐ。帰らなくたって両親は何も気にしないさ。
「…よくないよ」
「…」
「せめてちゃんと帰るくらいしないと」
やさしい手が頬を撫でる。
「お願い…。今日だけだから」
その手を軽く握って頼む。
「…」
晃司の小さな溜め息に嫌味はない。『仕方ないな』と言ってるのと同じだ。

そして夜になっても僕達は愛し合った。しっかり抱き合い、お互いの体を味わい尽くすように舐め回す。
ちょうどその頃、兄貴の殺人事件が『連続殺人』に発展したなど知る由もなく…。

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あきゅろす。
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