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心を失くした天使2
見覚えのある後ろ姿
ある日曜日、僕は駅前の繁華街にいた。セックス以外で晃司が喜ぶ顔が見たい。そう思って何かプレゼントでもしようと考えて買い物に来たんだ。
何がいいかな。そう言えば晃司の好きな物や好みを何も知らない。例え何をプレゼントしても、僕からの贈り物だからと喜んでくれるといいんだけど。

「…」

その瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。たった今すれ違った人に妙な違和感があったからだ。
…いや、違和感じゃない。知ってる人なのに、すれ違う瞬間にようやくそうだと気付いた感覚。反射的に振り返って見た先にいた人は…。
…僕はその後ろ姿を知ってる…。夏の夕暮れ、急いで帰らなきゃと自転車を走らせた時も、運動会のリレーでバトンを渡した時も、その後ろ姿を見ていた。
「和也!」
立ち止まった為にすでに見えなくなりつつあるその後ろ姿にそう叫んだ。もちろん慌てて後を追った。でもよりによって一番通行量の多い通りだったから、対向する人の波に遮られて思うように追えない。
「かっ、和也っ!」
きっと聞こえてないんだ。だってもし和也なら僕の呼び掛けに気付かないはずはない。
…ダメだ、見失ってしまう…!人をかき分け、何とか拓けた通りに出たものの、その姿はもうどこにもなかった。右を見ても左を見ても、休日の買い物を楽しむ人の群れがあるだけだった…。

落ち着いて思い返してみると、あれだけ大きな声で呼んだんだから聞こえてないはずはなかったと思う。
僕が知ってる和也の後ろ姿はあくまでも2年前のものだ。いわゆる『他人の空似』というやつだったのだろうか…?
雑貨屋さんでプレゼントを選びながらもすっきりしない気持ちのままだった。
2年間、まったく手掛かりも掴めなかった和也がいきなり目の前に現れるなんて、そんな偶然があるのだろうか?少なくとも、引っ越した先が県内ではない事はわかってる。あの事件でお世話になった刑事さんに特別に調べてもらったからだ。だから、それこそまたこの街に引っ越して来たとか、あるいは目的があってやった来たとかでもない限り、偶然バッタリなんてあり得ない。
何であれ、またこの街に来たなら僕に連絡がないなんてはずは…。
…きっと別人だ。そう思わなければいけない気がした。

さっきの事は晃司にも言わないでおこう。余計な心配をさせたくないし。ようやく僕達の関係は明るい方向へ進んできた。もちろん、おおっぴらに出来る関係ではないけど、問題は僕達の気持ち次第なんだと気付いた。
僕は晃司と一緒の時が一番幸せだし、晃司もそんな僕を大切にしてくれてる。男同士である事と、出会いのキッカケに問題がなければその辺のカップルと何ら変わりない。
当然、この先一生を共にするとは思ってない。でも今の所、僕は晃司から離れるつもりもそんな予定もなかった。
だから日曜日も会いたい。そう思って晃司のアパートに向かうんだ。

何の用事もないって言ってたから多分いるはずだ。いきなり鍵を開けて入るのもなんだしインターホンを押してみた。
「…」
やっぱりいる。やけにドタドタとうるさく玄関に向かって来る足音が聞こえた。
ドアが開いて顔を出す晃司。何かいつもと様子が違った。顔に汗を浮かべ、乱れたシャツやネクタイからして、急いでどこかへ出掛けようとしてるのがわかった。
「…どっか行くの?」
「あ、あぁ…」
用事はないって言ってたのに。一気に気持ちが萎えてしまった。
「じゃ帰るよ」
手にしたプレゼントを見られないよう振り返った。
「陸斗っ」
「?」
「ちょっと上がって。話がある」
…何だろう…?出掛ける事と僕への話、何か関係があるんだろうか?
とりあえず玄関に入る。部屋へ入れてくれるつもりはないみたいで、晃司はそこで話し始めた。
「…兄貴が…死んだ」


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あきゅろす。
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