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心を失くした天使2
蘇る悪夢
僕は僕なりに和也の行方を捜した。直接あちこち歩き回ったわけじゃないけど、インターネットで和也の名前を検索してみたり、まだ通院してるかも知れないと思い、何のアテもないくせに日本全国色んな場所の病院に問い合わせしたりしてみた。
それでも、手掛かりは何一つなかった…。

やがて僕は中学2年になり、笑顔と会話がなくなった我が家より外にいる事を望んだ。
僕の両親も和也のお母さんのように、男に強姦された息子を汚いものと思ってる。そんな気がしてならないからだ。
毎日学校からの帰り道、ある人のアパートに入り浸り、ようやく真夜中に最低限寝る為だけに家に帰る。
両親との会話など皆無で、そんな僕を咎めようともしなかった。
あの悪夢のような出来事は、僕の親友だけじゃなく家族の絆まで奪ってしまった。

今日も放課後アパートに立ち寄った。部屋の主はもう少し遅い時間まで帰らない。時には帰って来ない事もあるけど。
もらった合鍵で中に入り、とりあえず宿題なんかしてみる。
僕は家庭では問題児かも知れないけど、別に不良ってわけじゃない。みんながするような普通の勉強くらいちゃんとする。成績だって特別悪くもない。ただ家に帰りたくないだけなんだ。

その後でパソコンを借りて調べ物。もちろん和也の事だ。
『遠藤和也』で検索すると、同姓同名の人の事や、あの事件の記事まで出てきちゃうから、名前とは別に『中学』とか『14歳』とかキーワードを入れて調べる。でもやっぱり手掛かりはないんだけど。
「…?」
見慣れない記事があった。
『遠藤和也、全日本中学生選手権辞退』
それは空手の大会の記事だった。読んでみると中学2年にして相当強い選手が、優勝間違いなしと言われながらも大会には出場しないと発表したものだった。
…空手…。
まさかね。和也は格闘技が嫌いだった。プロレスやK1も観た事ないって言ってたし、もちろん小学生の時もそんなのやってなかった。早い人だと幼稚園頃から習ってるだろうし、もし僕が知る和也だとしても、習い始めてたった1〜2年で優勝候補になれるはずもないだろう。写真も載ってなかったし、その記事は関係ないと読み流した。

その時、玄関のドアが開いた音がした。
「…」
部屋の主が帰って来た。
「来てたのか」
大学1年生の彼は、バッグを床に置いて上着を脱いだ。冷蔵庫から水を出し、ゴクゴクと飲んでからソファーに座った。
「和也くんの事調べてるのか?」
「…うん」
「…」
もし和也がこの場にいたら、僕とこの彼との組み合わせに腰を抜かすだろう。
あの日、和也の心と体を引き裂いた卑劣な男。その弟が一緒だなんて…。

晃司との再会は偶然だった。
それは中学生になったばかりの頃だ。すでに家に寄りつかなくなっていた僕は、市営の図書館のパソコンで和也の手掛かりを捜してた。
モニターに向かってた僕が何気なく視線を移した先にあいつがいた。
体が震え、動悸が激しくなる。中学生にもなって洩らしてしまいそうだった。
僕は気付かれないよう静かにトイレに駆け込んだ。
「ぐぉぇっ!」
個室で吐いてしまった。あの日の悪夢が鮮烈に蘇る。
便器を抱えてへたり込み、ゲーゲーやりながら体の異変に気付いた。痒い…!体のあちこち、特に下半身が異常に痒くなってきたんだ。こんなの初めてだ。気持ち悪い…!ジンマシンが出たみたいに痒いっ…!僕は学生服を剥ぐように脱ぎ、体中掻きむしる。本当にジンマシンが出てるわけじゃないのに何なんだ、これっ…!?
たまらずズボンを下げ、パンツの中まで掻きむしった。
「…?」
僕自身の手の中で、ちんこがカチカチになって脈打ってる。何で今こんな風になるんだ…?
「う…」
ギュッと握るとゾクゾクする。体の痒みが癒される気がした。
気が付くと図書館のトイレで上半身は裸、下半身も遂にはパンツまで下ろしてちんこをいじってる。僕は一体何をしてるんだ…?
すぐ外にあいつがいる…。見つからないようトイレに逃げ込んで来たのに何てバカな事を…!
「あっ…あっ…」
ダメだ…気持ちよくて止められない…!お尻の穴がピクピクしてる。ちんこを入れられた時の感覚を体はしっかり覚えていた。痛みの陰に隠れてたあの気持ちよさを…。
僕は空いてる手をお尻に回した。ほとんど躊躇う事もなく人差し指を穴に当て、グッと押し込んでみる。
「んぁっ!」
その瞬間、溜まっていたモヤモヤが爆発するかのように僕は白い液体を放出した。…これが僕の初めての射精だった。淫らな…あまりにも淫らな性への目覚め…。
ちんこを握っていた手には精液がネットリと絡み付いていた。今やったのがマスターベーション、出たのが精液って事は知ってる。ただ今まではそれをするキッカケがなかった。なぜ今なのかはわからないけど…とにかく僕は目覚めてしまった。
「…」
ふっと我に返り、トイレットペーパーで手に付いた精液を拭き取る。そして脱いだシャツや制服を着直した。
…と、とにかく人が来なくてよかった。変な声まで出しちゃってたし、とんでもない事をしてたんだと思い返し顔が赤くなる。
ちんこはまだ堅いまま、精液に濡れて気持ち悪い。
今日はもう帰ろう…。着替えなきゃ。
そう思いカバンを手に個室を出て、しっかり手を洗ってからトイレを出た。
「!?」
あいつがいた。いや、恐らく…僕を待っていた。
「やっぱり君か…」
気付かれてたらしい。まさか、個室での事も気付いて…?
「何もしないよ。ただ…」
「…?」
「あの時の事を謝りたくて」
よかった。気付かれてなかったみたい。
「一緒だった友達…元気になったかい?命に別状はないって新聞で読んだけど」
…今更何だよ。
「和也がどれだけ苦しんだかも知らないくせに」
「…そうだね…。俺は何も知らない」
…何だ、この人…。責めようにも調子が狂う。
「それよりも聞きたいんだ」
「…何を?」
「どうしてあの時、警察に嘘をついたの?」
「…和也が…男にあんな事されたなんて誰にも知られたくないって言ったから…」
「だと思った…」
この人も学生服を着てる。詰襟に『V』のバッジって事は…高校3年生だ。
「君は平気だった?」
体が?それとも心が?平気なわけないじゃないか。
「一生忘れない。一生許さない」
「ならどうして本当の事を言わなかった?」
「え…?」
「そうすれば兄貴を裁けたのに…」
悪いのは兄貴で、自分は仕方なく従ったって?正義ぶった事言ったって、所詮人任せかよ。
「何だよ、偉そうに!兄貴には逆らえないとか言ってたくせに!裁きたかったなら自分で警察に行って全部話せばいいじゃん!」
僕の大声に図書館の人みんなの注目を集めてしまった。
「場所を変えよう」
彼は僕の腕を掴んで図書館を出た。


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あきゅろす。
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