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監視遊戯
大きな代償
その高額さが足枷となり、なかなか決心がつかないまま数日が過ぎた。そんなある日、俺は運よくこのカメラを実際に使用してるという男とのコンタクトに成功した。
メールでのやり取りだったが、その男はまるで業者の回し者かと思うくらい、このカメラの性能を絶賛している。彼は目をつけた女子大生の家を突き止め、後日電波障害の調査と偽り侵入したらしい。粗大ゴミの中にあったそれっぽい機械を適当に使い、いかにも調査してるフリをしながら、家の者が目を離した隙にカメラをセットしたとか。
そのシチュエーションでは、カメラを部屋の天井の隅に固定させるだけで精一杯だったようだ。だが偶然にも角度はバッチリで、受信した映像は見事に部屋の全景を映していた。
そこから彼の夢のような生活が始まる。気に入った女の私生活がすべて(部屋の中だけではあるが)手に取るようにわかるんだ。
着替えなどはもちろん、風呂上がりの半裸姿や、悩ましいオナニーの様子も何度となく見てきたらしい。しかし当たり前だが、直接触れる事は出来ない。だが彼は、盗撮には盗撮でしか味わえない興奮があると言う。
それでも踏ん切りがつかない俺に、彼は何枚かの画像を送ってくれた。それは紛れもなく部屋を映した写真だった。例の女の部屋ってわけか。あいにく女の姿はなかったが。そして二枚目の写真。それはベッドの枕元にある時計を拡大したものだった。午後8時12分を指してる。まさか…。俺は自分の部屋の時計を見た。午後8時14分…。多少タイムラグがあるとしても、ほぼオンタイムだ。盗撮している部屋の『今』の様子を送ってきたのは、恐らく話に嘘がないと信用させる為だろう。細かく追求すれば疑わしい所があるかも知れない。だが俺はあえてそうしなかった。彼からはまだまだ教えてもらうべき事があったからだ。彼の機嫌を損ねるような事は言えなかった。あいにく俺はその手の機械には疎い方で、何が必要で何をどうすればいいのかがほとんどわからない。それを彼に伝授してもらおうというわけさ。
彼は俺を『仲間』と判断したようで、その辺に関しては協力的だった。唯一の誤算は、俺の獲物が『少年』である事だったろう。彼としては、あわよくば俺が盗撮する女を共に監視したい、という願いがあったかも知れない。事実、俺が女に興味がない事を知った途端、彼とは疎遠になった。まぁいいさ。必要な情報はすべて手に入れた。後は実戦あるのみだ。

何はともあれ、まずは紹介された海外の取り扱いサイトでカメラ、その他一式を購入。貯金をすべて使い果たし、残高はゼロ。オマケに低金利とはいえ、複数の銀行から百万ずつ借り入れた。ふと冷静になると、俺は一体何をしてるんだ、という後悔の念に駆られる。一人の少年を思いのまま監視出来る事と引き換えに、借金まみれの貧乏生活を強いられたわけだ。だがもう今更後には引けない。数百万円分にも匹敵する天国があると信じるしかない。俺は溜息をひとつついて、注文する為にマウスをクリックした。金で買えない物はない、か…。生身の少年以外は。

荷物が届いたのは一ヶ月後だった。今後の為に一週間の有給休暇を取っておいてよかった。機器の設置は教えられた通りに済ませ、とりあえず簡単にテストしてみる。カメラの長さ約2センチ、そのカメラを遠隔操作する為のコントロールボックスが1センチ四方の小さな箱。超小型ではあるが、取り付ける位置を慎重に決めないと。見つかってカメラを失うのは痛すぎる。
それを自分の部屋の天井に付けてみた。受信状態にすると、見事なまでの高画質でモニターに俺が映る。手元のスイッチでカメラの向きを変えてみると、スーッと音もなく静かに角度を変えた。上下左右、ズーム機能も完璧だった。問題は、コイツをどうやってあの少年の部屋に取り付けるか、だな…。


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あきゅろす。
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