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破滅遊戯
屈辱の涙
「目を開けていい」
ゆっくり目を開いて身の周りの様子を伺う。
「!?」
それはやはり首輪だった。触ってみると皮の感触がする。そしてその首輪は鎖に繋がっていた。
「これから毎日、親が帰ってくる夕方までここで犬になるんだ」
「い、犬…?」
何を言ってるのかわからない。
「そうやって反省して精神を鍛える」
この人…頭がおかしいんじゃ…?
「心配するな。食い物とトイレは用意してやる」
まさか…これは監禁ってやつ…?
「これから毎日だぞ」
そんな事、許されるわけがない。
「誰かに喋ったりしたら…お前が嘘つきの泥棒だって事、この街の者すべてに言いふらすからな」
ひ、ひどい…。どうして僕がこんな目に…?
「しっかり反省しろ」
おじさんは部屋を出て行った。
「ま、待って!」
追い掛けようにも鎖はドアまで届かない。首輪にも鎖にも南京錠がついてる。僕の力では…いや大人でもこんなの外せるわけがない。裸で首輪で鎖…本当に犬みたいだ。僕は今の自分の姿に涙が出た。こんな惨めな思いは生まれて初めて。いくら万引きをしたからってひどすぎる。
「これがメシだ」
戻ってきたおじさんが床に置いたのは、本物の犬のエサ入れだった。その中にグチャグチャにしたコンビニのおにぎりが入ってる。こんなの…食べたくもない。
「手を使わずに食うんだ。やってみろ」
そんなの嫌だ…。
「食え!!」
怒鳴られるとどうしようもない恐怖が僕を襲う。僕は床に四つ這いになってそれに顔を近づけた。おじさんがジッと見てる気配がする。泣きながら口をつけ、少しだけ食べた。味は普通におにぎりだけど、あまりにもまずく感じた。
「よし、こっちがトイレだ」
僕は目眩で倒れそうになった。それはただのタライだった。
「クソも小便もその中にしろ。床を汚すなよ」
…もう返す言葉も気力もなかった。
「おじさんは出掛けるが…おとなしく反省するんだぞ」
そう言って出て行った。オマケに外から鍵を掛けて。玄関のドアが閉まる音がかすかに聞こえた時、僕は思いきり壁を蹴りまくった。隣に住んでる人がそれを聞けば不審に思って気付いてくれるかも知れない。でも次の瞬間、僕はハッとなってやめた。誰かが気付いたとして、僕はこんな姿で発見される事になるからだ。こんな哀れな姿、死んでも見られたくない。だからやめた。
絶望した僕は部屋の隅にうずくまり、そしてまた泣いた。夕方になれば帰らせてもらえるみたいだけど…お父さんやお母さんにこの事を打ち明ければ万引きの事がバレてしまう。この屈辱に比べたらお父さんに叱られる方がマシかも知れないけど…やっぱりお父さんも怖かった。どちらも行動に起こす事が出来ない僕は、そのまま泣き続けた。

おじさんは2時くらいに帰ってきた。僕を監禁してる部屋に来て、食事が減っていない事、トイレのタライが空な事だけ確認して行ってしまった。食事を全部食べてあったら新しい物を入れたのかも知れない。タライにおしっこやうんちが入ってたらそれを捨てたのかも知れない。…そう言えばこの前来た時のあの臭い…。もしかしてあの時、ここで誰かが僕と同じように監禁されてた…?助けを求めようにも、惨めな姿を見られたくなくてそれも出来ずにいた…?あのおじさんはいつもそうやって誰かを飼ってるんだ。人の弱味を握って逆らえないようにして…。僕はまんまとその罠にはまってしまったんだ。…でもそれに気付いてももう遅い。僕にはもう何も出来ないんだ。いくら何でもこんな事が出来るのは夏休みの間だけのはず。一ヵ月とちょっと、僕は犬になる覚悟を決めていた…。


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あきゅろす。
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