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破滅遊戯
出来心
僕が人間ではなく犬になって一週間が過ぎた。惨めすぎるけどもう涙も出ない。夏休みに入ってからずっと、昼間はほとんど毎日おじさんのマンションで犬になりきる。犬になるのがどういう事って?見ればわかるでしょ?裸になって首輪をされて繋がれて…ご飯を食べる時は手を使っちゃいけないんだ。床に置かれた『エサ』を四つ這いになって食べなきゃいけない。おしっこやうんちがしたくなった時も決してトイレには行かせてもらえない。用意されたタライで済ますしかないんだ。
なぜこんな事になったのか…。それは僕がいけなかったんだ。自分が悪かったんだけど…でももう時は戻せない。いくら後悔したってどうしようにもならないんだ。そう、あれは二週間前…。

その日、僕は近所の本屋さんにいた。読みたいマンガがあってそれを買いに行ったんだ。それは集めてるマンガでもあり、また一冊本棚を飾る事が出来ると思ってた。そしたらそのマンガの最新刊とは別に『キャラ大図鑑』っていう別冊まで一緒に発売されていた。僕のお小遣いは一冊分しか残ってなくて、当然『キャラ図鑑』も買う事は出来ない。しかも最新刊は¥410なのに『キャラ図鑑』は¥1200もするんだ。高すぎるよ。…その時、辺りには誰もいなかった。そして魔がさしてしまったんだ。ここはどちらかと言えば古い本屋さんで、防犯カメラもついてない。天井の角にカーブミラーみたいな鏡がついてるだけだ。ちょうど店員さんは他のお客さんのレジをしてる。…やるなら今だ。気がつくと、僕は『キャラ図鑑』をシャツの中に隠していた。ハーパンのゴムに挟んでおけば落ちてしまう事もない。その後、店員さんを見たけど、まだレジをやってて気付いた様子はなかった。そして最新刊を持ってレジへ行き¥410を払う。心臓が破裂しそうなくらいドキドキしてる。帰ろうとした時、もし『君、ちょっと』って呼び止められたらおしまいだ。自動ドアが開き、足がもつれそうになりながら出ていく。ゆっくりと慌てずに。大丈夫、バレてない。振り向いて確認する勇気はないけど、出る寸前まで店員さんは前のお客さんと世間話していた。
僕は歩きから小走りに、やがて全力疾走でその本屋さんから離れた。お腹に挟んだ本を押さえながら。人気のない細い路地に入り、ゼェゼェいってる呼吸を落ち着かせる。こんなスリル初めて。もちろん万引きするのは初めてだったけど意外とチョロイや。さっきまで心臓バクバクだったくせに、バレてないとわかると途端に気が大きくなった。本が汗で湿るといけないからシャツの中から出そうとした時だった。突然、後ろから肩を叩かれた。
「君」
一瞬、心臓が止まった。安心した矢先だったからなおさらだった。振り向くと、だらしなく背広を着た40歳くらいのおじさんが立っていた。
「今、そこの本屋さんにいたね?」
「…」
ぜ、絶対にバレてる…!
「お金を払わないで持ち出した物ないか?」
シャツの中に入れた本が見つからないと思ったのか、とっさに嘘をついてしまった。
「し、知りません」
「じゃあこれは何だ?」
おじさんは僕のシャツを捲り、本を手に取った。
「おじさんは警察官だ。一緒に本屋さんへ行こう」
僕の腕を掴む。逃げられないようにかなり強く。
「ごっ、ごめんなさいっ…!」
警察官って聞いてビビッた僕は、引っ張るおじさんの力に逆らい足を踏張った。それでも大人の力には勝てなくてズルズル引きずられる。
「君は泥棒の上に嘘つきだな。お家の人にも学校にも連絡して叱ってもらおう」
「ごめんなさいごめんなさいっ!」
そんな事されたらお父さんに叱られる。普段から人の物を盗るな、が口癖のお父さんに知れたら…顔が変形する程殴られて、きっと家を追い出されてしまう。
「本屋さんの商品を盗んだんだから謝りに行くのは当然だろう?」
それはそうだけど…!
「もうしません!許して下さい!」
僕は泣きながらお願いした。それは心から後悔し、反省した涙だった。


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