鎖国
7
菊が何か言っているようだが、何も聞こえない。
自分の心音がうるさいくらいに、頭に響いていた。
あの時に似た、感覚――。
――力ガ、欲シイ……
頭の中で誰かの声が響く。
――モット、力ガ……
そうだ、力が――欲しい。
――鬼ノ血ヲ、呼ビ覚マセ……
鬼の――。
「…………」
『なあに?もう終わりかしら』
くすくす、と楽しげに菊は笑う。
『ああ、可哀想に……坊やが喰われてしまうわ』
もう、猶予は無かった。
菊はちらりと郁を伺うが、俯いて立ち尽くしたまま動かない。
「…………、……。……」
何か独り言をぼそぼそと呟いているようだが、聞こえない。
気味が悪い、と菊は眉を寄せた。
――その時。
『嗚呼……、獲物がいっぱいだわ……!』
聞き覚えのない女の声が、洞窟に大きく反響した。
――次の瞬間、炎が傍を横切る。
そして、郁の中で何かがぶつりと切れた。
『随分と速い……』
ふらり火より遅れ、燈永一行は洞窟に到着した。
『ったく、さすが年寄りは移動も遅いね』
『元々、私は空を翔るのに秀でてはいない』
『はっ、言い訳?』
鼻で嘲笑し背から降りる斎に、ひくりとこめかみを震わせ燈永が鋭い視線を向けた。
しかし、今はくだらない争いをしている場合ではないため、小さな狐の姿へ戻ると斎の肩へ飛び乗った。
[*前][次#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!