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おおきく振りかぶって
整理中
とりあえず書類の中身を漁る。

 “大月ユイ”

確かに自分の名前が書いてある。

変わらない。
自分が高校に行く時と何ひとつ。
ただ行く高校の名前が違う。



「西浦高校」



そこは私が昨夜まで読んでた漫画――“おおきく振りかぶって”の舞台となる高校の名前だった。



「いやいやいやいやいや! ありえないよ。うん、ありえない」



可能性を否定する。
つーか否定したい。

だってさ、だって…。



「トリップなんてありえない」



言葉にしてから冷や汗が出た。



「つーか親は? どー見てもここ一人暮らしだよ」



家具も少なく散らかってない。

そんなことはどーでもいいか。
つーか…、そうだ電話!
電話してみりゃいいじゃん!



「携帯携帯! ってうわ! ガラケーだ懐かしっ!!」



なんて懐かしがってる場合じゃないか。
急いで電話帳を見ると「実家」の文字発見。
押して耳に当てるとコールの音がする。
そして、



〈もしもし?〉



聞こえてきたのは、



「え、おばーちゃん?」


〈ユイちゃん?〉



その声はまさしくおばーちゃんの声で…。
でも私とおばーちゃんは一緒に住んでなかった。
どうして実家の電話に出れたんだろう?



「お、はよう。あの、どうしておばーちゃんが?」


〈ええ? どーしてって、他の人はみんな仕事に行ってるしねぇ〉


「仕事? お母さんも?」



電話越しに息をのむ声が聞こえた。



「おばーちゃん?」


〈ユイちゃん寝惚けてるかい?〉


「え?」


〈お母さんの夢でも見たとか?〉



え、え?
何のこと?



〈父さんも母さんも、ユイちゃんの高校生姿見たかっただろうに…。ホントに入学式は行かなくていいのかい?〉


「え、あ、うん…っ!?」


〈まあ岡山からじゃあ遠いからねぇ。でも、何かあったらすぐ電話しておいで〉


「…うん」


〈母さん達も、きっと見守っててくれてるからね〉


「……そう、だね」



一言二言話し、電話を切った。

呆然と携帯を見ることしかできない。
おばーちゃんはまるで、母さんや父さんがこの世にいないかのように話をしてた。
いや、いないかのようにじゃない。



「いないんだ」



電話の途中で目に入った。
タンスの上に置かれた写真。
いや、それは黒く縁どられた、お父さんとお母さんの、遺影だった。

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あきゅろす。
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