忍たま2 天女について 「ユイさん!」 「やあきり丸。授業は終わったのかい?」 「はい。もう放課後ですよ」 「そうか。私は掃除があと少しで終わるところだよ」 「毎日お疲れ様っす!」 「きり丸も、授業お疲れ様」 ところでだ。 さっきから気になっていたんだけどね。 「…あえて突っ込まなかったんだが、彼らはなんだい?」 「へ? あ、あいつら!」 きり丸は彼らのところに走っていった。 なんなんだ? 「お前らも話してみれば分かるって!」 「でも〜」 「天女と話すなんて〜」 「また前みたいなことになったら」 「先輩たちだって警戒してるし」 内容が丸聞こえなんだが。 私はどうすればいい? 空気を読んで席を外すべき? 「ユイさん」 「話はいいのかな?」 「あの、その、…あいつらと」 「きり丸の頼みなら聞いてもいいよ。そして彼らが私と話したいというなら話そう」 それが私に課せられたものの一つでもあるだろうからね。 *** しかし浅葱色で井桁模様って目立たないのだろうか。 目の前にある様々な視線を見ながら、私はふとそんなことを思った。 「目立つねぇ」 「へ?」 「ああ、何でもないよ。それで? 私に聞きたいことでもあるのかな?」 おっと、黙ってしまったね。 どうしたものか…。 「ふむ、きり丸」 「? 何すか?」 「悪いけど、彼らが私と話したいと思っていないなら仕事に戻ってもいいかな?」 「え、でもっ」 「彼らは私と話すのが怖いだろう? 怯えてまで話す必要を、私は感じないよ」 「それは、そうッスけど」 「折角話す機会を設けてくれたのに悪いね」 「いえ、俺こそ…忙しいのに来てもらって、ごめんなさい」 「他ならぬきり丸の頼みだし、来たくて来たんだ。気にすることじゃない」 ぽん、ときり丸の頭に手を置いた。 「じゃあ私は行くよ、またね」 「はい。また!」 「…君達も、またね」 怖がってるなら仕方ない。 だから、ねえ? 「あ、あの!」 「…どうかした?」 「どうして、学園を無茶苦茶にするんですか!?」 それは、今までの天女様に聞いてほしい内容だね。 私が知るわけないし…。 「おい乱太郎!」 「きりちゃん、だって!」 ふむ。 実に潔い子だな。 そういう子は嫌いではない。むしろ好きな部類だ。 「なぜ学園を無茶苦茶にするのか…ねぇ」 「そう、です」 「君は…乱太郎君といったかな? 君は何でだと思う?」 「え?」 「天女が学園を無茶苦茶にする理由だよ。何でだと思う?」 「……わかりません」 「そう。私もわからないよ」 「どうしてですか? だって貴女は…」 「天女はね、美しくやさしい女性を例えていう言葉だ。私は美しくないし、ましてややさしくなんてない。 慈愛で全てを包み込もうなんて思わないよ面倒臭い。そもそも慈愛なんてもの、信じてないからねぇ。 ねえ、前の天女様はそんなに綺麗だったのかい? それほど美しかったのかい? やさしくて、全てを包み込む温かな笑顔を浮かべていたのかな?」 だとするならば、それはそう、天女だったのだろうね。 固まってしまった空気を砕いたのは、きり丸だった。 「ちがう。アレは、天女なんかじゃなかった」 「きり、丸」 「アレの笑った顔は慈愛に満ちてなんかなかった。俺を同情して取り入ろうとする、姑息で陰湿な…」 「女の目…だっただろうね」 そうか。 ならばやはり天女ではない。 ただの人。 いや、人というにはだいぶ歪んでいるな。 心も身体も。 「きり丸」 「なんすか?」 「今日はもうこの子達を連れて長屋にお帰り」 「…そうすね」 「また、機会があればお話しよう」 「俺はまた来ますけどね」 「…じゃあね」 友達を引き連れて帰っていく後ろ姿を眺めた後、残っていた掃除をすませて事務室にむかった。 さてさて、これからあの子達がどう出てくるのか、楽しみだなぁ。 [*前へ] [戻る] |