めぐりめぐって 非日常と日常の境目 本当に何なんだろう、コレは。 扉を開けてみればあら不思議、コスプレした人が倒れていた。 …………冗談じゃない、そんな非日常はお断りだ。 目が痛くなるくらいの強さで擦る。擦りまくる。 目蓋が千切れるんじゃないかと言うくらいに擦る。 もしかしたら疲れで幻覚が見えただけかもしれない。 というより、そうでなければ困る。 尤も、コスプレした人間が見えるなんて言う幻覚も、大概なものだけどね。 パッと手を離し、目を大きく見開いてみる。 残念なことに、コスプレ野郎は消えてはくれなかった。 舌打ちをしたくなるけど、する余裕すら無くなってきたので出来なかった。 やっと止まりかけていた汗が噴き出してくる。 想像だにしなかった出来事に頭が追い付かない。 どう行動したら良いか考えられない。 ……いや、落ち着け私。 ここで焦ってもどうにもならないんだから、コスプレ野郎が何故倒れてるか確認しに行くべきだ。 大きく鳴り響く心臓を抑え込んで、ゆっくりとコスプレ野郎に近寄る。 ピクリともしないので少し心配になってきた。もしかしたら怪我をしてるのかもしれない。 それなら早く手当なりなんなりをしてやりたいものだが、こんなど田舎でコスプレを平然とする人間がマトモである保証もない。警戒は怠らないようにしよう。 ついにコスプレ野郎のところに辿り着き、しゃがんで恐る恐る揺すってみた。 「あの……」 「……」 反応ナシ。微かに上半身が上下しているから、呼吸はしているみたいだ。 畜生、爆睡しやがって。こっちがビクビクしてるのがアホらしいじゃないか。 ……いや、もしかしたら外見では分からない病気なのかもしれない。 脳震盪とか無呼吸症候群とか。いや、後者はちょっと違うか。 兎にも角にも、万が一というものがあるんだから気を抜いてはいけない。 とりあえず、仰向けに転がしてみよう。 うつ伏せだとどんな顔か分からないし。うん、とりあえず出来ることからやってみよう。 早速やることにしたけど、流石に気絶した大人を動かすのは骨が折れる。 多分だけどコイツは男だろう。筋肉のつき方とか体の大きさとか、とても女らしくないし。 さて、一体どんな顔をしているのか…… 「って面まで付けてるし……どんだけコスプレに入れ込んでんだよ」 なんとご丁寧に、あのフレンチクルーラーのような奇妙なお面まで付けていた。 どうやらトビのコスプレをしているらしい。無駄にそっくりだし、腹が立ってくる。 というかホントなんでこんな田舎でコスプレなんぞしてるの。秋葉原にでも行ってやれ。 …………仕方がない。 迷った末に、私はコイツを家に運ぶことにした。 今はもう秋の真っ盛りなんだから、かなり気温が低い。ここに放置していたら風邪を引くだろう。 現に私も汗が冷えつつあるので身体の芯から凍えそうだ。 救急車を呼ぶにしても一度家に戻らないとだし。見た感じ外傷はないのだから動かしても大丈夫なハズ。 「しゃーない、背負うか……めんど」 ボヤいたところで事態が変わるわけではないが、ボヤかずにはいられなかった。 背負おうとコスプレ野郎の腕を肩にかけようとするが、なかなか上手く出来ない。 まあさっきもいった通り、気絶した大人を動かすのは大変。それをおぶるなんて私には不可能だろう。 ……コスプレ野郎には申し訳ないが、引き摺らせてもらおう。 羽交い締めのような状態でずるずると引っ張っていく。 コスプレ野郎の体温はかなり高く、熱があることが伺えた。 よく耳を澄ませれば、呼吸も荒かった。 これ、40℃くらいあるんじゃないだろうか。 やっぱり具合が悪いらしい。早く温めてやらなくては。 コスプレ野郎を私の部屋のベッドに寝かせたときには、目眩がするくらいにフラフラだった。 [*前へ][次へ#] |