めぐりめぐって 嫉妬はされるのもするのも疲れる 火曜日。 つまり、平日。 月曜日の憂鬱さには負けてしまうだろうが、それでも火曜日には火曜日特有の嫌なところがある。 その嫌なものというのに含まれる『学校』の存在。月曜日を過ぎても、まだ休日の空気が抜けきらないのが火曜日だ。 そんな日に学校に行くだなんて、今の私には到底無理な話です。 「休む」 今日も今日とて私は学校をサボる。 ただ一言だけを告げて、私はリビングを出た。逃げるように、否、正しく逃げる為に。母さんに怒られるのは、幾つになっても恐ろしい。 しかしすぐに「待ちなさい」と母さんの苛立ちを隠さない声が発せられ、私の足を止めさせた。 振り返れば、不機嫌そうに歪められ尖った顔がそこにある。 対する私は完璧な無表情。ここで怯むとサボれないとわかっているから。内心ではいつ打たれるかと震えていたが。 そんな私の胸中も知らず(いや、わかっているのかもしれないけど)、母さんはいつもより1オクターブ低い声を飛ばす。 「あんた、昨日も休んだでしょ」 「わかってる」 「わかってないでしょ!?」 急な怒鳴り声に、私は意図的に顔を顰めた。 怒りたいのはよく分かる。私も、もし自分の子供がこんな奴だったら叱っている。 でも、それとこれとは別の話。私は親ではなく、脛齧り引きこもりのクソガキだから母さんを慮ったりはできない。簡単に言うと、学校には行きたくない。 怒られるのを覚悟で口答えしてみる。 「今日は休むの。頭痛いし、昨日の怪我がまだ痛いし」 母さんは私の言い分に、さらに声を荒げた。 「だからって休むの? それを理由にしてサボっていいと思ってんの!?」 「別にそれが理由じゃない。つーか前に理由話したよね。お願いだからほっといてよ」 母さんの顔から表情が消える。そして早足で私の眼前に立ち、思いっきりひっぱたいてきた。 痛みは大したことないが、不思議と涙が滲んでくる。なんとか堪えて流しはしなかった。自分への呆れと怒りが再燃し、どうしようもないほど暴れたくなる。 ……ああ、本当に、情けない。 「あんたが心配だから言ってるんでしょ! 何様のつもり!?」 「……うん、それはごめん。でも今日は絶対行きたくない。もう学校に連絡しなくてもいいから」 最悪、母さんが仕事に行ってから電話すればいいし。 声で子供だと気づかれるからサボりと認識されるだろうけど、先生達も私が引きこもりと認知してくれているし、別にいいか。 話は終わった。もうどうでもいいし、部屋に行こう。 飽きたり面倒臭くなれば全部を丸投げしてしまうのは、引きこもりになってから生まれた私の悪い癖だった。 母さんも諦めてくれたらしく、それ以上詰問等はせず舌打ちして台所へと向かった。 息を殺して二階への階段を上る。もうそろそろ兄さんが起きだす頃合いだ。できるなら会わずに済ませたい。 本当、引きこもることには何のメリットもない。 引きこもり出したのだって、私の自業自得だ。 私よりもずっと頭の良い兄さんを勝手に羨んで嫉妬して、勝手に母さんは贔屓が激しいと信じて、閉じ籠った。 本当に羨ましくて悔しかったなら、もっと勉強して追いつこうとすれば良かったのに。 でも事ある毎に──とりわけテストの時に──母さんは私と兄さんを比較するのだ。私にはそれが耐えられない。 「お兄ちゃんはあと10点いけてたなー」 冗談めかして言ったって、私の出来が悪いと言いたいのは伝わる。 ああ、わかっている。 私なりの努力を認めてくれ、と主張するのは身勝手だ。 私が兄さんに劣っているのは事実だし、特に数学なんて頭に病気があるんじゃないかってくらい酷い。だから人より何倍もやらなくちゃいけないのに、私は人並み程度の努力しかできなかった。 そして、兄さんは恐らく、私よりも努力していた。だから進学校と評判の高校に通えている。 わかっている。 わかってはいるけれど、また学校に通い出したらもっと劣等感は強まるともわかっていた。 ────────────────── そろそろトビを出したい 拍手ありがとうございます。本当に嬉しいです(*'ω'*) 返信書かせて頂きました [*前へ][次へ#] |