鈍いにも程がある!2
山本の事は俺だって好きだ。だけどそれは友情であって愛情じゃない。当然の様に山本もそうなんだと思ってた。
山本は焦ってる様に見えた。でもずっとこのタイミングを待ってたって言った。このタイミングって?
『小僧の邪魔が入らない時』
『え?』
『ツナお前好きな奴居るのか?』
『…京子ちゃん』
俺が学校一可愛い女の子の名前を挙げれば山本は驚いた様に目を見張った。不釣り合いだと思われたかと思ったけど違ったみたいで山本は。
『…小僧じゃないのか?』
『リボーン?』
無意識だったんだろう。呟いて、しまったと言う顔をした。でも手遅れだ。
そもそも俺は、本当に京子ちゃんが好きなの?分からなくなってた。だって山本に答えた時、違うと思ったんだ。
「……もう頭ん中グチャグチャだ」
気付けば空は夕暮れで、授業どころか部活も終わる時間に差し掛かっている。
「帰らなきゃ」
ノロノロと立ち上がると教室に向かう。途中で通るリボーンの教室を覗いてみても、当然の様に誰も居なかった。今、無性にリボーンと話したかったんだけど…。
帰りに家に行ってみようか。この前の事なら、きっと謝ったら許してくれる。だってなんだかんだ言って悩んでる時困ってる時助けてくれたのは、いつもリボーンだったから。
けれどリボーンの家には誰も居なかった。リボーンの両親は仕事で海外に居るし、リボーンが居ないのも珍しくはない。その内帰って来るだろうと自分の家に帰り、窓から時々確認してみても、その日隣家に明かりが灯る事はなかった。
そして次の日、俺はバイクのエンジンの音で目が覚めた。飛び起きて窓から外を覗くと、ちょうどリボーンがバイクに乗って登校するところだった。
「いつの間に帰って来てたんだ…」
時計を見るとまだ6時半。登校するには随分早い。でも追い掛けて生徒が少ない内に着けば話し易いかも、と急いで支度を済ませ母さんの不思議そうな顔に見送られて家を出る。
自転車通学だからリボーンよりは時間が掛かるけど急げばまだ余裕は残るはず、そう思って立ち漕ぎまでしてノンストップで頑張ったのに、着いても教室にリボーンの姿はなかった。更に学校中探し回っている間に登校ラッシュが来てしまった為朝話すのは断念。昼休みも姿が見当たらず、放課後もいつの間にか居なくなっていて、家にもまた帰って来なかった。
そして気付いたらまた朝で、同じ事を繰り返す。次の日もその次の日も。
朝まで起きて見張っていようとしても気付けば眠ってしまっている子供な自分に腹が立った。また朝追い掛ける方法も、駐輪場にリボーンのバイクが停まっていない事に気付いた三日目から諦めた。
学校ではどうかと言えば、やっぱり気付けば教室から居なくなってて、人に尋ねながら後を辿っても、必ず追い付く前にチャイムが鳴ってしまう。リボーンは本当はすごく忙しい奴なんだって知っただけだ(今までどうやって俺に会いに来てたのかが不思議なぐらいだ)。運良く出くわしても、そんな時はいつも周りを女の子達が取り囲んでて近寄ろうものなら遠慮無しに弾かれたし、リボーンも目すら合わせてはくれなくて。休日も同じだ。
ここまでくると流石に鈍い俺でも分かる。完全に俺は避けられてた。こうなればやっぱり寝ずに待つしかない!と気合いで朝まで起きたその日から、リボーンはとうとう家に帰らなくなった。避けられ始めて一週間目の事だ。
そして、二週間目の今日。リボーンは学校にすら来なくなった。
拒絶の徹底ぶりに、泣きたくなる。生徒会長が学校をサボるなんて問題だぞ、何もそこまでしなくたって良いじゃないか。
(そんなに俺が嫌いだったのか…今まで友達の少ない俺に付き合ってくれてただけだったのかな)
だとしたらいっそお礼を言わないといけないかな。友達に戻る事を諦め始めた昼休み、俺の教室から黄色い声が上がった。その既視感に期待して廊下へ目を向けると、そこに居たのは山本。目が合うと手招きされたから席を立ってそちらに向かう。
「山本…どうしたの?」
「おっすツナ!……返事、そろそろ聞かしてくんねぇか?」
山本は笑顔で挨拶した後、声を潜めた。一瞬言ってる意味が分からなくて反復すると、直ぐに思い出す。
「…あ、前の」
「おう」
そうだ俺告白されたんだった。
…最低だ!あんなに一生懸命な告白、答えを考えてなかった上忘れてたなんて。いや、本当言うと考えてなかった訳ではないけど、考えているうちにいつの間にかリボーンの事にすり変わっていたと言うか…。
「…えと…ごめん。もう少し、待ってほしい…」
「…そか、分かった。ツナ大丈夫か?顔色悪いぜ?」
正直に言えば山本は怒らず頷いてくれて、更に心配までしてくれた。やっぱり良い奴だ。
(山本は初めて話した時からずっと優しいもんな…リボーンとは大違い……)
って、またリボーンの事考えてた。避けられる様になってからすぐこうだ。俺おかしい。
「ツナ?」
「ごめ、だいじょう……」
「えっリボーン君が?」
「…ぶ」
その時不意に聞こえた隣のクラスの女子の声。リボーンという言葉に、俺は無意識で反応していた。
「そう、だからさー、先週すっごい美人と歩いてるとこ見ちゃってさ」
「マジで?彼女かな?どこで見たの?」
「並森商店街。かなり仲良さ気だったしそうじゃないかな?」
「嘘ーショックー!」
「……ツナ」
酷い顔をしてたんだと思う。山本が心配そうに俺を呼んだ。でも俺はパニックみたいになってて、とにかく行かなきゃって、それしか頭になくて。
「俺行かなきゃ」
「どこに?」
「“並森商店街”」
「ツナ!」
走り出そうとしたら腕を掴まれて、振り返ったら山本が泣きそうな顔をしていた。…行くなって、そう言ってる。でも俺は。
「山本ごめん!俺…俺はリボーンじゃなきゃダメみたいだ!!」
「ツナ!」
鞄も持たず学校を飛び出す。走りながらも頭の中はもうさっき聞いた言葉でいっぱいだった。リボーンに彼女がいる?そんなの嫌だ!
とにかくリボーンに会いたくて俺は商店街を探し回った。
今までだってリボーンに彼女は居たし、そんなに気にした事はなかった。なのに何で急にって自分でも思う。こんなに長い間会うのを拒絶されて、ただ寂しいだけなのかもしれない。だけどそれならリボーンの彼女に対してのこのモヤモヤはなに?
「美男美女の二人組み?ああ、先週来ましたよ。でも今週は来てないですね」
カフェでそう言われても諦めきれずしばらく商店街周辺を歩き回っていると、その内に雨が降り出して。びしょびしょに濡れながらそれでも探し回った。
夜になって流石に商店街からは離れても家に帰る気にはなれなくて、俺はリボーンの家の前に座り込んでいた。相変わらず明かりは点いてないし人の気配はしない。彼女の所に居るって、帰って来ないんだって分かってる。…分かってるけど。
「…このまま、会えないままなんて、嫌だ」
呟いてくしゃみを一つ。そう言えばさっきからやけに寒い。雨に打たれ過ぎて風邪でも引いてしまったのかも。
以前風邪をこじらせた時はリボーンが『何とかは風邪引かないっつーのは嘘だと証明されたな』なんて言いながらも、心細くない様にずっと側に居てくれたっけな…。
それももうない、悪態すらつかれなくなるんだ。いっそ、熱にでも浮されれば夢の中で会えるかな……。
徐々に考える気力すら無くなっていく。なんかもう…良いや。
“ツナ”
寒さに震え遠くなる意識の端で、リボーンの声が聞こえた気がした。
continue…
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