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鈍いにも程がある!



授業終了のチャイムが鳴った。
特に連絡事項が無かった為にSHRも2分程で終え、クラスメイト達が一斉にバラける。あくびなんかしながらノロノロと机の横のフックから鞄を引き上げた(教師が挨拶をするまで帰り支度をするのを嫌うからだ)俺の耳に、黄色い声が通り抜けた。
…うん、こいつはあれだ、原因が分かるだけに聞かなかった振りをするのが良いと思うな。一人頷いて机の上に置いた鞄を今度は引き下ろして席を立つ。
他のクラスが順々にSHRを終えていく為に黄色い声が大きくなっていく中で、無視を決め込んで階段に近い方の扉から教室を出……

「帰るぞツナ」

かけて止めた。駆け足で反対側に回り再び出

「ツナ」

かけてまた反対側……

「……!」

「おい待て」

「ギャ!」

に行こうと方向転換したら首根っこをひっ掴まれて捕まった。

「テメェ俺から逃げるたぁどういう了見だ」

「り、リボーン…」

そう、こいつが黄色い声の原因。顔良し頭良し運動神経良しと三拍子揃った色男、しかし性格が悪いのが玉にキズな俺の幼なじみリボーンだ。
殺気が痛くてはははと乾いた笑いを漏らしつつ振り返ると、やっぱり口は笑ってるけど目が怒ってる。ていうか首!首苦しい!バンバンとシャツを掴むリボーンの手を叩くとようやく解放されて咳き込んだ。

「…おまっ、俺を、殺す気か!」

ゼェゼェと息が整わない俺を他人事の様に見下ろして来るから、抗議に睨みつけると奴はニヤリと口端を持ち上げた。

「何言ってんだツナ?俺が大事な幼なじみであるお前に危害を加えるわけねぇぞ」

笑みと同様嘘臭いリボーンの言葉に、けれど周囲の女子達からまた歓声が上がる。騙されてる、みんな騙されてるんだよ…!と叫びたくてもリボーンと俺とじゃ評価が違いすぎて聞いてもらえるわけがない。だって俺はコイツと違って顔普通、頭ダメ、運動神経ダメでダメツナなんて呼ばれてるぐらいなんだから。
だからあんまり人前でコイツと居たくないのにこうして話し掛けたり迎えに来たり!何の嫌がらせなんだ!

「思ってもないくせに!」

「照れんなって。さぁ帰るぞ」

嫌だと言うのに近寄って来たリボーンが、ポンポンと俺の背を叩きながら俺にだけ聞こえる声でボソリ一言。



「泣かすぞ」



「……………帰ります」

くっそう二重人格め!!












































リボーンの傍若無人振りは昔からだった。
小さい時俺の家の隣にリボーンの家族が越してきて、母さんに紹介されたリボーンを素直にカッコイイと俺は思った。リボーンもニッコリ笑ってよろしくと言ってくれて、仲良くやっていけると思ったのに、二人きりになった途端に態度が一変したのだ。

「オメェどんくさそうだな。ダメツナって呼ばれてるのか?」

その時の衝撃は中々忘れられるものじゃない。だって、俺のあだ名がダメツナだなんて言ってないのに当てられたんだから。しかし後にそれはリボーンが読心術を使えるからだと知った。まぁその時は驚くよりむしろ納得したけれど。

「ツナがそんなに俺の事を好きだったとはな」

と、帰路を歩きながら哀れな記憶を辿っていると隣から弾んだ声がした。

「んなっ?!何言ってんだよ!」

「頭の中俺で一杯じゃねぇか」

「違っ…!ていうか勝手に人の考え読むな!」

「照れるなよ」

なんだか機嫌の良さそうなリボーンに唸る。コイツは何故か機嫌の良い時程俺にちょっかいかけてくるんだ。迷惑過ぎる。

「照れてない。他人の、しかも男の頭の中覗くなんて趣味悪いよリボーン」

「ふーん?」

ふーんてなんだ、ふーんって。ムカッと来て早足になる俺に余裕で着いて来るリボーン。悔しいけど足の長さが全然違うと思い知らされる。

「止めてやろうか読心術」

「え」

躍起になっていっそ走り出そうかという時、不意のリボーンの言葉につい足を止めて振り返ると、ニヤリと笑った顔が映った。

「オメェの考えなんざ使わなくとも殆ど分かる」

ムッカー。どうせ俺は考えが浅い単細胞ですよ!本当厭味な奴!

「お前!そんなに俺の事嫌いなら近付かなきゃ良いだろ!」

プツンと来て思わず怒鳴ると、意外にもいつも余裕の表情を崩さないリボーンが面食らった様な顔をしていて、驚いた。

「…お前、本気でそう思ってんのか?」

眉を寄せたリボーンはさっきまでの上機嫌が一変、不機嫌そうに、けれど至極真面目に俺を見ている。その雰囲気に気圧されて無意識で一歩後ずさった。

「…何だよ、いつもみたいに読心術使えば?」

それでも虚勢を張って精一杯の厭味を言えば、苦い表情で舌打ちされた。

「使わねぇ。…今の、本気で思ってんならオメェの脳内構造疑うぞ」

「なっ!」

また馬鹿にした!カッと頭に血が上って俺はついに言ってしまった。

「本気に決まってんだろ!人を馬鹿にするお前になんか好かれたくない!俺だって嫌いだ!」

そしてその勢いのまま既に近くだった家へ走り、ドアを開けると玄関に滑り込んだ。その時のリボーンの顔は、見ていない。







































元々クラスの違うリボーンとはどちらかが出向かなければ学校で顔を合わす事は少ない。勿論俺からリボーンのクラスに行く事なんてないし、リボーンもあれから会いに来る事はなかった。これで俺にも平穏が訪れる。そう思った俺が甘かった。
休み時間中の教室、自分の席でボケッと座る俺の周りをクラスの女子が数名取り囲む。内一人が挙動不審になる俺に構わず前置きも何も無しに尋ねてきた。

「ダメツナ、あんたリボーン君と喧嘩した?」

それを聞いて成る程と一人納得。どうやら俺に会いに来るリボーンを見るのを楽しみにしている女子の一部みたいだ。ちょっと優越感。…優越感?

「…あーうん、した、かな」

「えーマジ困る。リボーン君毎日あんた迎えに来るんだからさ、仲直りしてよ」

毎日、なんてそんなに来てたっけアイツ…。ぼんやり思った俺に彼女は続ける。

「それにさ、なんでかリボーン君てあんたにだけすごく無邪気な笑顔向けるんだよね。相手がダメツナなのがムカツクけど」

…は?えっと…なんて言った?俺にだけ無邪気?無慈悲の聞き間違いじゃなかろうか。

「ちょっと聞いてる?ダメツナのあんたなんかリボーン君と仲良いぐらいしか良いとこないんだからさ」

なんか酷い事言われたのも頭に入らない。だって、彼女の言い方だとまるで俺が特別みたいな…。特別、みたいな……。

「あ!リボーン君だ!」

「っ!!」

別の女子の声に不覚にも目茶苦茶反応してしまった俺。移動授業なのだろうか、廊下を見慣れた長身が歩いていた。フェミニストなリボーンは女の人をあしらったりはしないから、名前を呼ばれたのにこちらを振り向く。

「!」

一瞬目が合ってしまった、思いっ切り逸らしたけど。早く通り過ぎてほしいのにどうやら女の子達と話し始めたみたいだ。うぅ…廊下見れない。

「ツナー」

俺がそうやって一人で気まずい思いをしていると、廊下の方から名前を呼ばれた。入口の片側はリボーン達が塞いでるから必然相手は反対側に居る事になる。それなら入口に近付いた方が見えにくくなるだろうと、ホッとして声のした方に走り寄った。

「や、山本っ」

「おっす!」

けれどこれはこれで視線が痛い。山本もルックス、運動神経が良くて人付き合いも良いから誰からも好かれる。リボーンと違って幼なじみでもないのに、何で俺なんかと友達なのか本人が疑問に思ってるぐらい。
しかしそんな羨ましい、なんでお前が、と言う嫉みの視線に混じって明らかに質の違う鋭いものを俺は感じていた。

(り、リボーンだー!)

やっぱり怒ってるんだ!だから俺の事を睨みつけてるんだろう、そう思うと少し悲しかった。嫌いって言っちゃったけど、本当はそんな事なくて、ああ見えて面倒見が良かったり自分なりの美学を大事にしていたり、良い所だって沢山知ってるから。

「ツナ?」

と、視線に意識が行っていると再び山本に名を呼ばれた。慌てて返事をすると、山本は人の良い笑顔を向けてくれる。

「ごめん、何?」

「ちょっと話があるから付き合ってくんねぇ?」

「俺に?…うん、良いよ」

頷けば手を取られ、戸惑っている間に山本はぐいぐい俺を引っ張って先に歩き出した。

「山本っ、どこ行くの?!」

「ここじゃ話せねぇんだ」

背中に鋭さを増した視線を感じながら小走りで着いて行くと、程なくして辿り着いたのは屋上。そこでようやく手を離してくれた。

「…話って?」

予鈴が鳴る。本鈴まで時間がないと促せば、山本が困った様に笑った。珍しい。何だか嫌な予感がする…。

「ツナ。俺……………」

「え」

その瞬間文字通り俺は固まった。頭が回らない。けれど山本はそんな事予想していたみたいで、返事はいつでも良いからゆっくり考えてくれ、と言い残して先に戻ってしまった。
それでも俺は、動けない。

「…スキって、どういう事?」

そう、山本が言ったのだ、俺が好きだと。付き合ってほしいとも。真剣な表情に、男なのになんて疑問はとても言えなかった。きっとそんな事何回も考えたんだろうし。

「…どうしよう」

6限目開始を知らせる本鈴が鳴った。俺はまだ、動けない。







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