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カウントダウン



硝煙の臭いが鼻につく。
一体どれだけ俺に手を掛けさせる気だ。
――ツナは、あの甘ったれた愛しいボスは無事だろうか。




















カウントダウン




















チュイン、と耳元を掠めて行く弾丸に思考は中断された。続け様に打たれる弾丸を前方に倒れ込む様にして避け、転がって体勢を立て直すと振り向き様に二発撃ち返す。

「ぐあっ」

上がる悲鳴。当たり前だ、俺が外す訳がない。
続いて腰のホルスターから拳銃をもう一丁抜き、それぞれ左右に構えて一発ずつ。

「ぎゃあ!」

「ぐぅ!?」

挟み撃ちなんて意味ねぇぞ。
抜いたばかりの方をホルスターに仕舞うとその場を離脱。少々離れ過ぎてしまったツナと合流する為だ。あれはまだ一人で放っておくには早い。

「焦げ臭ぇな、こっちか」

暫く走ると鼻をつく、硝煙より濃い煙りの臭いをツナの炎によるものだと判断して、そちらに向かう。
読みは当たってすぐに見付けたがどうやら苦戦している様だ。今では原動力を変え改良までされて出回ってるモスカを四機と、人間が十人。
暫く観察してみると、ツナは手の炎の推進力で飛び回り銃弾を避けつつモスカの手足をチマチマ焼き切っている。成る程、アイツ手ぇ抜いてんな。と言うより、モスカの中の人間と外の人間両方を庇ってやがる。リング戦から三年も経っていると言うのに、全くいつまでも甘っちょろい。

「仕方ねぇな」

ズガン、ズガン、ズガン、
と十発。生身の人間を始末してやったら動きを止めやがったからダメツナにも一発撃っておいた。勿論外してだが。

「…っリボーン!」

「モスカはテメェで殺れ」

分かってるよ、と吐き捨てたツナはモスカ四機の各両手足と頭部を焼き切った上、胴体部分の表面だけを無駄に器用に溶かした。耐炎とは言え中身の人間は熱で気絶しただろう。
とりあえず側に降り立ったダメツナを蹴飛ばす。

「舐めてんじゃねぇ」

「…なっ!」

「オメェはいつまで中坊気取りだ?ボスになったからには徹底しろつったろうがダメツナが」

「……だって…」

「だってもくそもねぇ。オメェが殺られんぞ」

「……っ!それでも俺は!リボーンみたいに簡単に人を殺せない!!」

「…ハッ」

思わず笑ったら涙目で睨まれた。分かってる、こういう所がツナらしい。そして俺が惚れた理由。だが、この世界はそんなに甘くないのが現実だ。どれだけ拒もうともいつか、

「慣れる日が来る」

「!」

その時のツナの表情を場違いに愛しく思った。















*****















ズガン、

ズガン、

一つ銃声が響く毎に口端が持ち上がる。
おかしい。だって今は笑う場面なんかじゃないだろ?

ほら、泣けよ。

「…ふふ、ダメだ」

「ひ…っ!」

だって相手の怯えた顔ったらないんだ。可笑しくて可笑しくて、笑っちゃう。










「ツナが捕まった?」

俺の部屋をノックも無しに獄寺と山本が入って来たかと思えば、頭を抱えたくなる様な情報を持って来た。

「…そりゃまた、笑えねぇぞ」

「冗談じゃないんです!会食の帰りに襲撃にあったらしく、今日は護衛が守護者以外の構成員だった為に全員やられちまって…」

「ツナがそいつらの命を助ける代わりに自分を連れてけって言ったらしいんだ!」

獄寺、山本が続けて青い顔で説明をしてくる。内容からするに確かに有り得る話だ。

「で、相手は」

「ヴォルペファミリーです。要求は伝えて来てませんが、まず間違いなくボンゴレの乗っ取りが目的かと」

「どうする小僧?」

ヴォルペか、そこそこでけぇな…ならば。

「俺が行くぞ」

「リボーンさんが?!」

「俺達も行かせてくんねぇか?」

「あぁ。山本、オメェは来い。獄寺、右腕としてボスが不在のボンゴレを守れ」

「ああ!」

「…!分かりました!」

敵のアジトと勢力を確認する為二人と共に情報室に入る。そこには既に慌ただしく情報をかき集めるジャンニーニ他数名の情報部隊と、骸の姿が。他の守護者は了平と雲雀が別任務、ランボがボヴィーノに居る筈だ。丁度良い。

「骸、お前も来い」

指名すると片眉を上げて明白に嫌そうな態度を示す骸に、こちらも目を細めて拒否を拒否。

「何だ嫌か?」

「…仕方ありません」

了承しつつため息をつきやがるから獄寺が殺気立つ。怒りに任せて突っ掛からないだけ、成長したと言えるか。

「皆さん、お待たせしました。今端末に情報をお送りしました」

ジャンニーニが声を上げると同時に俺と山本、骸は携帯を確認。その場である程度記憶した後、ボス救出に向かった。

「骸。下らねぇ事考えるなよ」

「おや?心配ならば僕を外せば良かったのでは」

「長距離タイプがいねぇから仕方ねぇぞ」

「クフフ……まぁ、心配ご無用、ですよ」

今の所はね、と付け足した骸に山本が頼むぞーと苦笑する。

…そろそろヴォルペのアジトに近付いて来たか、車が敵に囲まれ始めている。極めて邪魔だな。
助手席の防弾窓を腕が通る隙間だけ開けて発砲。右側を並走していた車両の前輪がパンクしてバランスを崩す。後部座席の山本が同じ様に左側の車両に数発発砲、こちらもバランスを崩す。その隙に運転する骸がアクセルを全開に。後ろについていた車両含め五台を引き離すが、今度は左右前方から六台が接近。振り返れば後ろからは新たに別の四台が追って来ていた。
先と同様に発砲しながら息を吐く。

「着く前に弾切れるぞ」

「スピード落とされてるのな」

「おやおや、仕方ありません」

ようやく骸がハンドルを握ったまま幻術を展開する。と、何を見せたか知らないが次の瞬間には全ての車両がハンドルを無茶に切って横転した。

「はは…あちらさんでなくて良かったぜ」

山本が渇いた笑いで呟く。とりあえず同感だ。

「さぁ飛ばしますよ」

もう次が来ている。










屋敷が見えた所で停車。ここまで来るのにぶつけられ撃たれ無茶な運転を繰り返したからか、降車して外から見るとひでぇ有様だ。帰りは別のを調達するか。

「ボスの身柄が最優先だぞ」

「おう」

「分かってますよ」

念を押すとそれぞれから殺気が放たれる。俺に向けてじゃない、屋敷に近付くにつれ数を増して俺達を囲う敵にだ。それに怯んだ敵の人員が一斉に攻撃を仕掛けてきたのをいなし、まず骸が幻術で注意を逸らす。その間に俺と山本が突入して屋敷の中へ。
それぞれ散った。

ヴォルペは弱くはないが強くもない。武器も特殊な物は所有していない筈だからこちらも銃のみで対応出来る。
さて、ツナはどこに居る?侵入に成功した屋敷の通路から死角になった柱の陰で頭の中で記憶した地図を広げる。携帯を見ても良いが、視界を狭める事になるのでどこから攻撃されるか分からない今はこっちだ。
囚われてそうな場所は二カ所。一カ所は山本が向かったから俺が目指すのはもう一カ所、地下の方か。…と、足を向ける前に振り返らず背後に二発。標的が倒れた音を確認すると靴音を消して走り出した。
まず最初の角で三発、背後に一発。次の角で四発…と確実に仕留めていくも、ボンゴレのボスを捕らえてるにしては数が少ない事に首を捻る。こちらは外れだったか。

「…勘はこっちだと言ってるんだがな」

ツナの超直感には劣るものの、アルコバレーノである俺も勘には自信がある。特に戦場でのそれは今まで百発百中だ。試しにもう少し進んでみる。

「ああ、やっぱりこっちだぞ」

それにより確信を持った。ツナはこの先に居る。
しかし何故だ、進むにつれ通常なら増えるはずの敵数が、逆に減っていき遂には全く居なくなってしまった。
一体、何だと言うんだ。
騒ついた感覚を引き連れながら更に奥へと進んで行く。
先から酷く重い空気が流れて来る。敵が見当たらない代わり、この辺りから鉄の臭いが充満していた。
だが、見つけた。
歴史を感じさせる扉の向こうに、ツナの気配。
この先に気配は、一つ。
……一つ?

「……っツナ!」

バタン!

蹴り開けた扉の中から噎せ返る臭いが溢れ出る。慣れているとは言え強烈なそれに気休め程度鼻を覆って踏み込んで、視界に広がった光景に眉を寄せた。ここに来るまでの通路に居るべき敵の人員が全て、折り重なってその広くはない部屋に倒れていたからだ。これを全てアイツが…?考え難い。
いや、今はそれどころではない。意識をそれらから外し、ツナを探す。
あの甘ったるいハニーブラウンはどこに。

「……リボーン?」

囁く様な呼び声。ツナだ。この異様な光景に、もしかして発狂しているのではと一瞬思ったが声を聞いてとりあえず安堵の息を吐く。
しかしそちらに近寄って息を詰めた。

「………っ!!」

まるで周りが見えていないかの様に、焦点の合わない目は俺すら映さず、へらり、と口を歪めたのだ。その笑みがあまりに普通過ぎて異常さを悟る。やはり、おかしくなったか。

「ツナお前、」

「ねぇリボーン。俺おかしいんだよ」

「…何が」

「何も感じないんだ」

銃を握り込んだままの右手をこちらに向けて、ツナは笑い続ける。

「あんなに嫌だったのに、もう何も感じないんだ。ねぇどうしてかな」

「……っ」

ホロリ、笑ったままで涙を零すツナに、何と声をかけたら良いか俺は思い付かない。

「可笑しくて可笑しくて、笑いが止められないんだ。怖いよ」

「ツナ」

堪らなくなってその華奢な身体を抱きしめる。驚く程に冷たくなっていた。

「ねぇリボーンもそう?リボーンとおんなじ?」

「……ああ」

「そっかぁ、なら良いや」

良くないだろう?、とは口に出来なかった。こうなるべきだと教えたのは、俺だ。

「………ツナ」

「十代目!」

開け放したままの扉から獄寺と骸が入って来た。惨状を見、骸は瞬間的に何が起きたか悟った様で直ぐに踵を返す。獄寺は一瞬顔を顰めて、ツナを見て俺を見る。無言で首を振れば、何かを言いかけて一度口を噤み、無理に笑った。

「…増援部隊と共に制圧完了しました。落ち着いたら…、帰りましょう」

ツナが笑って頷いたのを確認すると獄寺は頭を下げ逃げる様に出ていく。その姿が見えなくなるまで、ツナは見送る。

「後で二人にお礼言わなきゃ。リボーンも、ありがとう」

「ボスを助けるのは当然だぞ」

そうだけどと、ツナは困った様にこてりと首を傾げた。その仕種はやはり普段通りだったが、続いて立ち上がろうとするとよろめく。仲間の顔を見て緊張が解けたのだろう。支えると、日だまりの様に笑って抱き着かれた。

「……?!」

唐突な甘えに驚きを隠せずにいると、ギュウッと背中に回った手がスーツを握り締める。そこでやっと、小刻みに震えていた事を知った。

「ね、リボーン、これで良いんだよね?」

耳元で甘く甘く囁くツナは。

「ダメなら、」

「殺してやろうか?」

「!」

「そうして欲しいんだろう」

俺の言葉にこくりと頷く。

「うん。お前がもうダメだと思った時に」

殺して、と。至極柔らかい表情で。
それは愛を囁く様に甘い響きで吐かれた呪いの言葉だった。

「…愛してるぞ綱吉」

「ありがとうリボーン」

キスで封じて愛を囁くと、ツナは笑って泣いた。










後から聞くと、ヴォルペのボスは想像通りボンゴレのボスと幹部の座を明け渡す様要求し、ツナと共に攫ったまだ若い構成員を見せしめとしてツナの目の前で殺したらしい。
早く医者に見せなければと焦り応戦し、撃つ毎に増える敵に、アイツは壊れていったのだろう。
呆気ないもんだ。

アイツはこれからも大事なファミリーの為に手を汚す。
その度に少しずつ壊れていくだろう。
愛しいボスを、俺がこの手で止めるまでの、カウントダウンが始まる―――。







end*

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