Good sleep
残り時間が少なくなった6限目。マナーモード設定の携帯が震えたのを、机の下でこっそりチェックした。
『今日、そちらまでお迎えに行きます。六道骸』
その後テンションが上がって授業なんて頭に入って来なかったんだけどどうしてくれようか。
Good sleep
ソワソワしっぱなしだった6限目が終わりSHRも終え、俺は急いでカバンを引っつかんで獄寺君の元に行った。
「獄寺君、あの、俺用事出来たから先帰るね」
「あ、はい、分かりました」
少し早口でまくし立てると、つられる様にして即座に返事をした獄寺君と部活のある山本にバイバイを言い、足早に教室を出る。
後ろから慌てた声で「お気を付けて!」と獄寺君が見送ってくれた。
その勢いのまま下駄箱に着く頃には小走りになっていて、靴を履き替えるといよいよ校門へ走り出す。
「むく……ぅひゃ?!」
門を潜るや否や腕を引っつかまれてグン、と引き寄せられた。ぶつかって止まった先は匂いで分かる、名を呼び掛けた骸の胸だ。
「そんなに急いで来てくれるとは光栄です、綱吉君」
クスリ、と笑んだ気配に慌てて顔を上げるととりあえず言い訳しておく。
「だ、誰かに見付かったら面倒だからだよっ」
「クフフ…おやおや」
素直じゃありませんね、と呟いて骸はさりげなく俺を片手で抱いた。学校の校門の前で何してくれる。本当は嬉しいのだけど場所というものは考えなくちゃいけないわけで。
「骸っここ門の前!」
慌てて体を離すと人がいない事を確認して胸を撫で下ろす。俺が走ったからか、生徒の波は今やっと下駄箱周辺だ。…多分骸の事だから人が居ないのを承知の上でやったんだろうけど。
「それは失礼。では、帰りましょうか」
「うん」
全く悪びれた様子なく詫びた骸に促されて、俺達は俺の家に向かって歩き出す。別に、誰かに見られていないなら抱きしめられたって良いんだ。だってドキドキもするけど何より落ち着くからむしろ嬉しいぐらいで。
歩きながらチラリと見ると、視線に気付いた骸と目が合う。照れて逸らすと横からクフフと相変わらず変な笑い声が聞こえてくる。それに思わずつられ笑いして…とじゃれ合ってるうちに、俺は自分が浮かれている事に気付いた。いくら久しぶりに会うからって今の俺絶対顔緩みまくってるよね。それって恥ずかしくないか?なんて悶々と考えてるうちに家に着いたのでどうでも良くなった。だって家なら誰も見てないし。母さんとチビ達、リボーンとビアンキはそれぞれ出掛けているから。
「先程から随分静かですが…何を考えているんです?」
「へっ?な、何も考えてないけど?」
部屋に入るなり勘繰られて、別に疚しい事なんてないのに少し慌ててしまった。
「…そうですか?」
「う、うん。それより何か飲む?」
「ではコーヒーを」
「分かった、ちょっと待ってて」
了解するとそそくさとキッチンへ行き骸にコーヒーと、自分にジュースを入れてまた部屋に戻る。
扉を開けると骸は行儀良く正座していた。
「ぷっ…なんで正座してるの?」
「おや、可笑しいですか?」
「いや、うん、もっと楽にして良いよ?」
「では」
頷いて、長い足を崩す骸。…うーん。正座もあれだけど胡座をかく骸も新鮮かも。ちょっといつもより男っぽく見える気がする。
「綱吉君」
テーブルにコップを置いた俺を呼んで両手を広げる骸。来いって事だろうか。
「…わっ」
戸惑っていると腰を引かれて骸の上に座らされた上、頭にぽすっと顎を乗せられた。…俺をぬいぐるみか何かだと思ってないかこいつ。
「むーくーろ」
「はい?」
ポンポンとお腹に回された腕を叩くと、逆にその腕に力が込められる。あれ、これって。
「もしかして甘えてる?」
カクン、と首を捻って窺い見れば、珍しく驚いた顔の骸と目が合った。
「…いけませんか?」
「や、そんなことないけど珍しいから」
「二人で会えるのが久しぶりなもので。会えたとしてもいつも君の周りには誰かしら居る」
そのままジロリと睨まれて肩を竦める。どうやら甘えの他に拗ねも含まれてるらしい。本当珍しいな。
「ご、ごめん」
「いえ……ですから、たまの二人きりを堪能させて下さい」
「あ、ハイ」
と、頷いたもののどうすれば良いんだろう。それきり骸は黙り込んでしまったし。そもそも俺乗っけてて足は痛くないんだろうか。
「………」
とりあえずもたれてみる。骸の心臓の音が伝わってくる。ちゃんと、ここにいるんだなあ。
「骸」
俺のお腹から片方の腕が持ち上がって、テーブルのコップを取って頭上に引っ込んだ。
「はい?」
コーヒーを口に含むタイミングを計って、一言。
「好き」
「ぶっ…げほごほ…っ」
わー、骸が噎せた。
「………きゅ、急に何です?」
「別に。言いたかっただけ」
その反応に満足して笑うと、逆にムッとしたのは骸だ。俺を一旦抱え上げて立たせ、自分と向かい合わせに方向転換させてからまた座らされる。
「君は普段そういう事は口にしない。吐きなさい」
「なっ!?ちょ、怒ってんの?」
「怒ってません。良いから吐きなさい」
「怒ってんじゃん!何もないってば」
否定し続けていると骸は、俺の腕を掴んでいた両手をスッと離した。な、何する気だコイツ…。
「吐け」
「!や、やめ…っ、ふ、あははははは!」
最悪、脇腹擽ってきた!擽りに弱い俺は身をよじって逃れようとするけど更に骸の手が追っ掛けてくる。
「あはは…っちょ、マジ、たんま!言うからっ!ひーっ!」
降参するとピタリと擽りは止まり、俺は押さえ付ける様な格好で骸にしがみついたまま紅と蒼のオッドアイに気圧されて視線を泳がせた。
「…あー、あのさ…骸の心臓の音聞いてたらさ、ここに居るんだよなぁって。なら居るうちに、寂しくないように、ちゃんと言っとかなきゃって、思って」
「綱吉君…」
「あの、だから、その……す、好きだよ骸」
言い切って怖ず怖ず視線を戻してみると、目が合ったから笑ってみた。
「………っ!」
「骸、顔真っ赤!」
思わず指を指してしまい、しがみついていた骸の腕から手を離す事となって俺はそのままのけ反って…
ゴン!
「ぁ痛っ!」
結果テーブルに頭を打った。こんなとこでダメツナ発揮したくなかった…。
「綱吉君、大丈夫ですか?」
すぐ様骸が抱え上げてくれて、また膝の上。
「…だ、大丈夫大丈夫」
いつもの顔で俺を覗き込んで来る骸にあはは、と笑うと抱きしめられた。
「……骸?」
「今日はエイプリルフールではありませんよね?」
「え?あ、違うよ!」
「嬉しいです」
ギュウッときつく抱きしめられると、また鼓動を感じる。ドキドキいってる。心臓の音って、落ち着くなぁ。眠くなってきた…。
「綱吉君」
「ん?」
「好きです」
「ふふ、うん」
「愛してます」
「ありがと…」
「綱吉君?」
「…うん?」
「眠いのですか?」
「ん……」
「おやすみなさい」
骸の心地好い鼓動と声を聞きながら、俺はゆっくり目を閉じた。
「…眠ってしまいましたか」
腕の中で眠りについた彼が疲れない様に、体を下にずらし傾けて、もたれさせる。
「君は本当に意表をついてくる」
密着した体の温かさが心地好い。サラリと柔らかな髪を撫でて安らかな寝顔を見ていると、こちらまで眠りに誘われる…。
「僕も君の胸を少し借りるとしますか」
目を閉じた瞬間に聞こえるのは君の寝言。
「…好きだよ、むくろ…」
「クフフ…愛してますよ綱吉君」
さぁ、しばし共に夢の中へ―――
end*
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