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リアル鬼ごっこ3


気味が悪い程静かだ。応接室から簡単に消火栓まで辿り着いてしまった。
嵐の前の静けさ、か…。

コンコン

端から見ればおかしいだろうけど、消火栓に向かってノックする。

「ツナか」

「うん、取り返して来たよ」

ガコン、
消火栓の蓋が開いてリボーンとジャンニーニが顔を見せた。

「ご苦労様です十代目」

「ジャンニーニ!…よく中に入れたね」

十年前のジャンニーニはいつも丸い乗り物(?)に乗っていたけど、まさかこんな所まで…どうやって入ったんだろう。

「時間がねぇ。さっさと工具を渡せ」

「ああ、はい」

リボーンに急かされて、例の工具を渡す。リボーンが受け取って、ジャンニーニに見せた。

「ああ!これです、これ」

「それで直すのにどれぐらいかかる?」

「お急ぎの様なので出来るだけ早く…」

「30分で直せ」

ジャンニーニのハッキリしない答えにリボーンがピシャリと言い放つ。

「そ、それは……」

「オメェもジャンニーイチの息子ならやれる筈だぞ」

「…わ、分かりました、やってみます」

頷いたジャンニーニの顔がうっすら青く見えたのは俺の気のせいかな?
それにしても不思議なのは、なんでリボーンがこんなに協力的なんだろう…口に出してみたら、垂れ眉が僅かに動いた。

「俺が居ない間にボスがガキになるなんて面倒起こされちゃ困るからな」

「あ、十年後の自分の為ですか」

「当たりめぇだぞ」

そう言えばこの時代の俺も少し心配だな。なんせダメツナだし…。

「ツナ。そろそろ離れろ」

「え?ああ、そうだね」

考え事が加速する前にリボーンに止められる。そうだ、もしここを感づかれたらまた厄介な事になる。十年バズーカの修理が終わるまでは絶えず動き回っていよう。

「じゃあジャン二ー二、頼んだよ」

「お任せ下さい」

バタン

再び蓋が閉まって俺は一人になる。とりあえず、三階へ上がろうか。消火栓からは離れておきたい。

歩きつつ辺りを探るけど、まだヒバリさんの気配はない。…逆に無さ過ぎて勘が鈍るなぁ。
しかもヒバリさん、なんだか俺に執着し過ぎじゃないか?最初に反撃したの根に持ってるのかな…。さっきみたいな事にならない様に気を付けないと。

とにかく、あの人に油断は禁物だ。三階の廊下の真ん中で気合いを入れた直後。

カラカラカラ…

!またあの音が響く。けれど何だかさっきより音が軽い…?

カラカラカラ…

いや、気のせいか。今度は北側だ、南側に距離を取る。俺は音源とは反対に走って、階段の手前まで辿り着いた。

「……ん、待てよ」

しかしそこではたと立ち止まって反対側を確認する。
おかしい。
感じた距離、音の大きさ、時間。それらから見てもう姿が見えているはず………

ぞわっ、
不意に全身が総毛立った。

「掛かったね?」

「!」

ドカッ!

「ぐっ…!」

嵌められた!フェイクだ!階段側から接近したヒバリさんの攻撃を咄嗟に腕でカバーしたが衝撃を吸収しきれず少し飛ばされた。

まだ音のする廊下の反対側をちらりと見ると、トンファーが片方独りでに浮いている……いや違う、ヒバードがくわえてるんだ!すごく苦しそうだけど。

「まさかこんな事にヒバードを使うとは思いませんでしたよ」

「?……ああ。あの鳥の事かい」

…あ、そっか、黄色い鳥にヒバードと名が付くのはもう少し先の事なんだ。一人納得しているとヒバリさんの微笑む気配。

「あれは賢い鳥だよ。沢田、この時代の君よりはね」

「……否定しませんけ、どっ!!」

言い終わらないうちに懐へ突っ込む。このタイミングで反撃に出るとは思ってなかったのか、一瞬ヒバリさんが驚いた表情をした。
構わず突っ込んで、反射で引き抜かれたトンファーを片方蹴り上げると振り抜かれたもう片方を避けて拳を握る。
鳩尾への攻撃は受け止められた。直ぐ様足を払いぐらついた所に手刀を叩き込む…!

「っ!」

「!」

が、感づいたヒバリさんに不安定な体勢から、首を狙った手を捕まれた!そのまま俺の手を引いて倒れ込む。

ドサッ

腕を掴まれていたせいで受け身を取れず衝撃に目を伏せた。

「捕まえた」

ぞくり。耳元で発せられた低い声に思わず首をすぼめる。
いつの間にか、上下逆転して俺の上に居るヒバリさん。手首はしっかり掴まれたまま、しかも両手共拘束されている。
こんな所見られたらまたリボーンに特訓させられそうだ。

「……わー、なんかアッサリ捕まっちゃったー…」

素直に感想を漏らすと、ヒバリさんが口角を下げる事で不機嫌を訴えて来た。

「…君は本当に沢田綱吉かい?」

「そうですけど、一応」

「怯えないんだね」

…あぁ、それが気に入らないのか。この人サディストだからなあ。
と、苦笑すると腕を捕らえる手にギリリと力が増した。

「痛いですヒバリさん」

「痛そうに見えないんだけど」

「あいたたたっ」

わざとらしく顔をしかめて見せると、ヒバリさんが視界から消えて。

「い゛っ」

不意に首筋に痛みが走り、吐息が掛かって、ヒバリさんに咬まれたのだと理解する。咬み千切られる勢いで痛いんですけど。
皮膚の薄い所だ、流石に本気で痛くて抵抗しようと力を入れたタイミングで更に腕にも力が加わえられて呻いた。

「く、う…」

「…ああ、今度はちゃんと痛そうだ」

「何言っ……ひぁ!」

ピリ、と痺れる様な痛みが走って思わず声が洩れた。どうやら今度は傷口を舐められたらしい。この滲み方は確実に血が出てるな。

「…ふふ。そういう反応は変わらないんだね」

面白がるヒバリさんを睨み付けたところで向こうはこちらを見ていなくて無意味だ。
やっぱり、ヒバリさんはヒバリさんなんだ。根っからのサディスト、いじめっ子。

「変わらないのはあなたも同じです」

「…へぇ?」

ベロリ。更にガブリ。

「ぃあ…っ」

また声が上がって後悔していると、耳元でヒバリさんにしては珍しい忍び笑う声が聞こえてきたから堪忍袋の緒が切れた。

「…こ、のっ!」

「!」

渾身の力で手を払い退け起き上がるついでに頭突きをお見舞い。流石に効いた様で俺の上から跳び退いたヒバリさんと距離を詰め、右ストレート…と見せ掛けて背後に回り込むと腕を捻り上げた。

「……っ!」

ああ、膝をつくヒバリさんなんて久々に見たよ。やれば出来るじゃん、グッジョブ俺。

「…ヒバリさん、俺ね、十年間そうやってあなたに虐められたんです」

ふ、と顔を歪めて笑うとヒバリさんの肩が揺れた。隼人辺りが今の俺の顔見たらなんて思うだろ…と考えたけど収まらない。半ば八つ当たりだけど十年の恨みは大きい。

「いつか逆転してやる、そう思って俺の時代のあなたとタイマン張れるまで成長しましたよ」

でもね、続けたところで猫の様なしなやかな動きでヒバリさんは俺の拘束から逃れてトンファーを振るってきた。

ガシッ

「……チッ」

それを素手で受け止めると、自由にならない様力を込める。

「…結局あなたには勝てないんです」

ヒバリさんが驚いた顔をして俺を凝視してる、なんだろう?気にはなったけど声は違う言葉を発する。

「だって俺、恭弥さんには弱いから」

「…さわ…」

「十代目!!」

ヒバリさんが何か言い掛けたところで隼人が俺を呼んだ。十年バズーカが直ったのか!

「隼人!」

「もう一度撃てば元の時代に戻ります!」

「!待てっ」

呼び止めたのはヒバリさんだ。

「あんまり俺を虐めないで下さいね?」

俺はヒバリさんに微笑みかけると思い切り突き飛ばした上走って距離を取った。

「隼人!」

隼人が俺に向かって十年バズーカを構えるのと、ヒバリさんが体勢を立て直してこちらに向かって来るのが同時。

「バイバイ、ヒバリさん」

最後に手を振ると、爆音と共に視界を煙が覆う。
ヒバリさんが何かを叫んだ気がした。















*****















ボフン!

間の抜けた音と煙を引き連れて戻って来た。辺りを見回す。

「…ん、十年後だ」

場所は執務室。十年前の俺はここで何をしてたんだろうか。
現在の俺の居場所であるここに漂うのはただただ静寂。さっきまでの出来事が白昼夢であったかの様な気さえしてくる。
ため息を吐いて、時間を確認しようと腕時計を見たところで十年前の並中で壊されたのを思い出す。

「夢じゃない…か」

ふっと笑んで腕時計を撫でる。
だが廊下を歩く気配に気付いて笑みは直ぐに苦笑に変わった。
中学の頃遅刻の多かった俺に、腕時計をプレゼントしてくれた人物の気配だ。

「怒られるなあ」

ガチャ

それは漆黒の髪に瞳の―――

「やぁ、綱吉」

「ただいま、恭弥さん」







end*




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