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リアル鬼ごっこ2



後ろを振り返る事もなくさっきの階段を駆け上がる。
多分、ヒバリさんは隼人の所には行かない。でも素直には俺を追い掛けて来てくれないだろう。また不意打ちかもしれないな。
四階の廊下を歩きながら考えた。

…そろそろどこかに隠れてみようか。隼人かリボーンが来るまでそうしてるのが一番安全だ。
そう思った時にちょうど目に入ったのが理科(生物)準備室。掛け忘れたのか、鍵は開いている。
少し躊躇ったが、離れた位置の窓にうっすら何かの影が映ったのを見て慌て入り込んだ。直後に、パリンと窓の割れる音。
俺は出来るだけ見付かりにくい様、人体模型やら標本やらのある不気味なその部屋の奥に身を隠した。

「出てきなよ沢田綱吉」

ヒバリさん…大事な学校を自分から壊すなんて相当怒ってるな…。これは捕まったら戦闘は回避できないだろう。だから捕まりたくない。

それにしても、相変わらずと言うかなんと言うか……。
ヒバリさんの好戦的な態度も、リボーンのランボ(と俺)にキツい所も、隼人の右腕オーラも。笑っちゃうぐらい「らしく」て、懐かしく思えた。
いや、俺の時代でもみんなそのままだけどね、変に落ち着いちゃってるから。

息を潜めながらそんな事を考えている間にヒバリさんの足音がどんどん離れていく。

「……はぁ、今日休みのはずだったのになぁ」

カタン

「!」

ヒバリさんは通り過ぎた…気を抜いた直後の小さな物音に驚いて、そちらに目を向けると人体模型と目が合う。

「……………?」

何だろう、この違和感。何かが足りない?いや多いのか……。
気になって近寄ってよくよく見ると、心臓の辺りが何やら灰色になっている。

「……ん?ネズミ…?」

なんでこんな所に収まってるのか。けれどそんな疑問はすぐ解消した。ネズミ(に装着された通信機)からよく知った声が聞こえてきたからだ。

『ちゃおっすツナ』

「リボーン?」

『ああ。獄寺から話は聞いたぞ』

「直せそう?」

『それがですね十代目』

「隼人、なに?」

『ジャンニーニの奴に借りた工具が雲雀の野郎に没収されてまして』

隠れたところだけど、それが無いとダメみたいだな。

「…取りに行けば良いの?」

『そうだぞ』

『すんません十代目。応接室にあると思うので』

「気にしないで」

『手に入れたら俺達の所まで持って来い』

「分かった」

ブツンと通信が途切れる音がすると、ネズミは鼻をヒクヒクさせて人体模型から飛び出ると部屋の隅へ駆けていった。ネズミがいた辺りに通信機が落ちているから、通信が途絶えたら外れる仕掛けになっていたんだろう。

「ご苦労様」

俺はネズミを見送ると、準備室を出る為に扉に近寄って外の気配を窺った。扉にガラスが付けられていない為、目では確認する事は出来ない。

「…大丈夫そうかな」

あの人のそれだけで人が殺せそうな凶悪な殺気は感じない。
物音もない。
さっき足音が遠ざかってから戻って来る気配は感じなかったし、ヒバリさんは居ないと判断した。

「………っ!?」

のになんだこの悪寒!直感が警告してる?

「!!」

ヒタリと目の前の扉から冷気を感じた気がして、俺は思わず飛び退いた。

ドカカッ!

激しい音がして、扉の上部がひしゃげた。僅かに向こう側が確認出来る…。

「…!」

漆黒の目とかち合った。その瞬間放たれる突き刺さる様な殺気。今まで隠してたのか!いつの間にそんな事覚えたんだヒバリさん…。

「もう、おしまいかい?」

そうだ、感心してる場合じゃなかった。ここは準備室。化学室と繋がるもう一つの出入口は、反って遠回りになる。窓もない。どう逃げれば良い?

「―――」

!今何か聞こえた。…呼んでる?
声の出所を探そうと視線を巡らすと、薬品や標本なんかが置かれた棚が揺れた。開き戸が中から開け放たれて、収納されていた容器などが乱暴に散らかる。その奥からひょっこり顔を出したのは…

「十代目!お迎えに上がりました!」

「隼人!」

これもリボーンの隠し通路だろう。見た感じ少し大きめで俺でも入れそうだ。
後ろでは気付いたヒバリさんが扉の破壊を再開している。俺は急いで隠し通路に体を捩じ込んだ。















*****















「どうして分かったの?」

後方から聞こえる破壊の音に焦って通路を進みながら、隼人に尋ねる。通信を切ってからの時間の割に、迎えに来るタイミングが良すぎたから。

「リボーンさんに言われて。俺はそうは思わなかったんスが、十代目は今の雲雀を甘く見てるからと」

「リボーンが」

流石リボーン、確かにその通りだ。俺はヒバリさんを甘く見てた。現に殺気を消した彼に気付かなかったんだから。

「?」

ふと隼人が進むのを止めて立ち上がる。ずっと四つん這いで来たけど、ここは他の場所より高さがある。隼人が立ち止まった先に目をやれば、右折、左折の道の他に下降する為の梯子が架けられた穴があった。隼人はそこを指差す。

「十代目。ここを行けば応接室に出ます」

「…隼人は?」

「俺はここでアイツを食い止めます」

「それなら俺が」

「いえ。アイツの狙いは十代目なのでそれでは思う壺です」

彼の提案に少し眉を寄せると、俺だけに見せてくれるあの人懐っこい笑顔が浮かぶ。

「俺はあなたの右腕になりたいんです」

「……分かった。でも、狭いんだからダイナマイトは禁止。時間を稼げたら逃げるんだよ?」

「はい!」

本当に分かってるんだろうか…と思ってしまうようなにっこり笑顔。それを見て、十年後の隼人の活躍ぶりを話してあげたくなった。頼れる右腕だよ、と。
けれどそんな時間は無さそうだ。気配が近い。

「じゃあ任せたよ隼人」

「お気を付けて!」

軽く隼人の肩を叩いてから、梯子に手を掛けた。

ガコン

「え。」

瞬間梯子がスライドして……足場が無い!

「……ほわわわわ!!」

俺は予想しなかった展開に意味不明な言葉を発しながら重力に引っ張られて下降した。

……タンッ

しばらくして着地点に足がつく。な…なに今のトラップ、意味あんの?!摩擦で手が痛い。

「…さて出口はどこだ?」

気を取り直して辺りを見回す…が、真っ暗でよく分からない。

「こういう時は…」

足や手で辺りを叩く。すると微かに他とは違う質の音が足元から響いた。今度はしゃがんで手で触れてみる。

「あった」

窪みを見付けて、手を差し込むと俺は迷いなく引いた。

ギィ…

「……!」

光に視界を奪われて、取り戻した時に見えたのは応接室のソファー。成る程、真上に出たわけか。
便利さに感心しながらスルリと降り立つ。

「えっと工具工具……没収品はどこだろ」

呟きながらデスクに向かう。一瞬自分の時代での仕事を思い出して憂鬱になったけれど、頭の隅においやって、上から順に引き出しを開けていく。

「……書類ばっかりだ…俺のデスクみたい。ヒバリさんすごいな」

と、最後の引き出しに手を掛けると明らかに違う重さを感じた。ここだろう。
ゆっくり引くと、案の定漫画やウォークマン、その他よく分からない物に混じって工具が収まっていた。小型なのにドリルの様な物やレーザーが出そうな怪しい突起、謎のスイッチ…見るからに普通じゃないそれで間違いなさそう。

良かった、見付かったことにホッと胸を撫で下ろしてそれをスーツのポケットに捩じ込む。

「隼人は上手く逃げたかな?……早くリボーンの所に持って行こう」

雲雀さんは勘が良いから、長く同じ所に止まるのは危険だ。さっきのはミスチョイスだった。
失敗を元に、俺は早々に応接室を後にした。





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