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リアル鬼ごっこ


平凡とは言えなくても、平穏な日だと思ってた。あの瞬間までは。



















リアル鬼ごっこ




















「今日は本当平和だな〜。みんな任務に行ってるし、リボーンも短期で家庭教師に行ってて静かだ」

俺はボンゴレ本部の執務室で一人呟いた。
何せ正式に十代目に就任してからというもの、いつも誰かが護衛だの見張りに付き、休みと言えど一人になれた事など初めてに近かったからだ。

特に隼人の心配性と来たら凄かった。就任直後はトイレや風呂にまで着いて来ようとして、流石のリボーンも呆れた程だ。(余談だがその後、群れすぎだとヒバリさんに俺まで咬み殺された…)

「よし、久しぶりに買い物でも行こうかな〜皆にプレゼントでも買ってびっくりさせてやろ!」

想像を膨らませ、立ち上がった直後だった。急に俺の回りにモワモワと煙が立ち込め、視界を遮ったのだ。
普通ならマフィアのボスとして危機感が沸くところだが、その時俺は何だか懐かしい様な気がしていた…。















*****















「げほっごほ……なんだ?」

手で煙を振り払いながら視界を取り戻そうとする。
と、足下に妙な違和感を覚えた。

「……ランボーっ?!!」

何故か十年前のランボを踏んづけていた!急いで足を退け、抱え上げようと屈み込んだ瞬間……

「「「キャー!!!!」」」

「!?」

今度は耳をつんざく様な大絶叫が響き、ようやく自分が居る場所を確認する。

「こ、更衣室っ?!」

どうやら突然現れた不審人物に驚いていた女子達が、数秒の間を置いて我にかえって叫んだ様だ。

「チカン!」

「変態!」

「出ていきなさいよ!」

服やらメイク道具やら鞄まで投げつけられて、慌て気を失っているランボを抱え上げて脱出する。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜!!」

飛んでくる物から頭とランボを守りつつ猛ダッシュで更衣室を飛び出した。

「…はあ…っはあ。なんで、女子更衣室なんかに居たんだ俺?執務室に居たはず……あ!」

一人言を言いながら思い当たる節があり、視線をランボに向ける。

「十年前のランボ、更衣室…学校。…十年バズーカ!」

十年バズーカ、五歳のランボが泣いたり混乱した際に良く乱射する物で、なんと当たった者は五分間十年後の自分と入れ替わるという。俺が当たるのは久しぶり過ぎて忘れてた。

「で、なんで俺とランボは女子更衣室に居たんだよ?」

聞こうにもランボは、俺が十年前と入れ替わる時に足蹴にしてしまって気を失ったままだ。

「参ったな」

呟きながら、頭に手をやる。
ここが学校って事は、並森最強のあの人がいる。
ランボは勿論今の俺も部外者の様なものだから、見つかれば風紀に煩い彼は必ず噛み付いてくるだろう。
その前に出なきゃ。



「やあ。」



……………。
噂をすれば何とやら。

「ヒバリ、さん…」

なんてバッドタイミングで現れるんだこの人は。きっと俺の口元は今とっても引きつっているだろう。

「部外者を入れればどうなるか分かってるよね?それにその服装は校則違反だ」

「あの、直ぐ出ていきますから見逃して下さい」

「やだよ」

聞く耳持たず、並森最強風紀委員長雲雀恭弥。仕込みトンファーを振り上げて踏み込んできた。

「……!」

「見逃してくれませんか?」

十年前の俺ならひとたまりもなかっただろうその攻撃を、俺は片手で受け止めていた。いやあ、十年で人は変わるもんだね。

「君は…」

「ごめんなさい。俺、十年後の沢田綱吉なんです」

ヒバリさんが何で止めたとばかりにじっと見て(睨んで?)来るから、俺は手を上げた降参のポーズでタネを明かした。
ていうかこの人気付いてくれなかったんだな、ちょっとショック。

「10年後?」

俺のカミングアウトに、ヒバリさんは眉を寄せて様子を窺っている様に見える。
ざっと頭の先から爪先まで観察したかと思うと、ニヤリと口角を上げた。
…うっわ、すごい嫌な予感。

「ふうん」

「ひ、ヒバリさん?」

「10年後って事は、君、もうマフィアのボス?」

「え、まあ、そうですけど……ってえぇ?」

なにトンファー(仕込み解除済み)構えてるんですか!

「ボスって事は、それなりに強いよね!」

「いや、ちょちょちょっと待っ…!」

ヒュン!
制止を無視して躊躇なく攻撃を仕掛けてきた。

「闘いなよ!」

「え、遠慮します!」

手加減無しのそれを、ランボを抱えながらただ避ける。
たくこの人はっ、ランボに当たったらどうするんだ!

「………仕方ないっ」

俺はランボを片手で抱え直し、ヒバリさんの攻撃をかわして空いた手で軽く鳩尾に一発決めた。

「………!」

流石はヒバリさん、反射で身を引いて諸に入るのは避けた様だ。けれど一瞬の怯んだ隙に俺は全力で走り出した。

「……待ちなよっ!」

「ひ〜追い掛けてこないで下さい!」

待てと言われて待てる訳がない。そんな事をしたら間違いなくトンファーの餌食だ。
けれどあの人、足も早いんだよな。しかも俺、最近デスクに向かってばかりだったから体が鈍ってるみたいだ…。

「………!!」

なんて考えている場合ではなかった。気付けばヒバリさんはすぐそこまで迫って来ている。

「……ランボだけでも!」

彼は子供にも容赦はないから、せめてランボを安全な所にやらないと。
そう考えた俺の目に映ったのは消火栓。確かリボーンが隠し通路を作っていたのを思い出す……。

「あれだ!」

俺は迷わずそこまで加速して、蓋を開けるとランボを放り込んだ。

ガコンッ!ドカ

………が、直ぐに投げ出されて戻って来た。

「なーっ?!…リボーン!居るんだろ!」

迫って来るヒバリさんの気配を感じながら、消火栓の蓋をドンドン叩く。

「助けを求めてる弱い者を追い出すなんて男らしくないぞ!!」

「……チッ」

舌打ちが聞こえたかと思うと、ガコンと蓋が再び開けられた。殺気を含んだ視線が痛かったが、構わずランボを放り込むとその場から離れる。直後、消火栓にトンファーが突き刺さった。















*****















あれから俺は、炎を使わずに出せる限界のフルスピードでヒバリさんから離脱していた。
と言ってもまだ並中内なんですけど。

「…て言うか絶対もう5分経ってるよね?!」

十年バズーカの効力は五分。の、筈だった。けれど俺がこっちに来てから悠に二十分は経ってると思う。

「考えられるとすれば故障か…」

だとすれば、まだしばらくこの恐怖のリアル鬼ごっこは続くらしい。
俺は盛大にため息をついた。
その時。



カラカラカラ……



「!!」

何かを引き摺る様な音。それが徐々に近付いてくる。間違いない、ヒバリさんが来る!
俺は慌て周囲を見回して逃げ道を探す。

今居るのは二階、それもどちらからヒバリさんが来ても対応できるように、廊下の真ん中。
気配は北側から近付いてくるみたいだから、逃げるなら南側だ。
踵を返したその瞬間、

ヒュンッ

俺の髪を少し掠めて、暴力的なスピードで何かが横を通り過ぎた。カランと音を立てて廊下に落ちたそれは、トンファー。
それを確認した瞬間、俺はまた全速力で駆け出した。

ダダダダッ
タタタッ

俺の後ろから、軽やかなテンポの早い足音が追い掛けて来る。
なんなんだこれは、どうして過去で守護者に追い回されなくちゃいけないの。あの人闘争心剥き出しだし!

俺は克服した筈の恐怖が顔を出さない様に強く頭を振ると、廊下の端の階段を駆け上がった。

「?!」

「あ!探しましたよ!十だ…いめ……?」

…隼人!!
このタイミングで鉢合わせるなんて、幸か不幸か?
彼は恐らく俺がいつもと違う事に気付いたんだろう。語尾が疑問系だ。

「あの、隼人 」

「え?」

「!隼人!」

助けて貰おうか、一瞬そう考えて呼び掛けるが、背後に殺気を感じて咄嗟に目の前の銀髪ごと倒れ込んだ。

ガカンッ!

見事に頭のあった位置にトンファーが二つ、飛んできて壁に当たった。直ぐに身を起こす。

「トンファー?雲雀か!!」

「隼人、こっち!」

同じ様に顔を上げた隼人の腕を掴み、引き起こしてそのまま走り出す。抵抗無く着いてきてくれるから助かるな。

「……十代目!」

「ん?」

「アイツ来てないッスよ」

「え、ほんと?」

三階の廊下の真ん中辺りで隼人が教えてくれたから振り返ってみると、なるほど影も足音も無かった。
どちらから現れても対応できるように、またそこで立ち止まる。

「……十代目」

「ん?あぁ」

隼人の不安そうな顔に気付いて、俺は緊張感を和らげるように微笑んだ。そして自分が十年後から来た事と、今までの経緯を彼に伝えた。

「十年後…ッスか。通りで…」

「なに?」

「いや、凛々しくなられたと思って」

そこで隼人が照れた様に微笑むから、なんだか俺まで照れてしまった。

「そ、そうかな?でもヒバリさんは気付いてくれなかったんだけどね」

「アイツは咬み殺す事しか頭に無いッスからね」

「はは、確かに。…ところでどうしてこんなに人少ないのかな?」

「ああ、テスト前っすから」

なるほど。だからこんなに走り回っても他の人に会わないわけだ。それによく見ればここは特別棟だ。どちらも人を巻き込みたくないから好都合かな。

「隼人、お願いがあるんだ」

「は、はい」

俺が隼人と呼ぶのに慣れないのか緊張した返事をする彼に苦笑する。

「リボーンに十年バズーカの故障を伝えてくれるかな?」

自分の時代で仕事があるから、俺はあまり長居する訳にはいかなかった。休みだって今日一日だけだ。

「お安いご用です!けど十代目は……?」

「ああ俺は……



この人の相手をしなきゃいけないから」

ガキ!パリンッ

「十代目!」

隼人の眉間に濃いシワが刻まれる。俺は開いていた窓から進入して来たヒバリさんの攻撃を腕時計で凌いでいた。
そのせいで腕時計は破壊されたようだ。…あーあ、これ貰い物だったのに。
無意識でため息をつくと、苛立った風にヒバリさんが眉を吊り上げたのが見えた。

「!隼人行って!」

するりとトンファーが下降する。殺気を感じて咄嗟にしゃがみ込むと同時、頭上を二本目のトンファーが通り過ぎて………
?!しまった!隼人に向かってるのか!

「邪魔するなら咬み殺す」

「舐めんな!」

向かってくるトンファーを隼人は後方に跳んで避けた。その手には既にダイナマイトが二本持たれている。

「十代目、避けてください!」

「!!」

俺への注意と共にそれが放たれる。隼人はそのまま後ろに、俺はヒバリさんの横をすり抜けて彼とは反対方向へ走る。
一瞬反応が遅れたヒバリさんは爆発で起きた煙に巻き込まれて見えなくなった。

















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あきゅろす。
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