バレンタイン☆キッス
今年のバレンタインは土曜日。おかげで友達が山ほどチョコを貰っている横で自分は貰えず、なんて惨めな思いをしなくて俺は安堵していた。
けれど同時に憧れの京子ちゃんから貰えるかもーなんて可能性も消えたのだが。義理チョコを渡すのにわざわざ家まで訪ねに来るとは考えにくいからだ。
そんなわけで開き直って家でゴロゴロしていた俺は、突然鳴ったインターホンの音に異常に反応して飛び起きた。
(ま、まさか、京子ちゃん!?)
「ツッ君〜お友達よ〜」
考え難くともちょっとぐらい期待してしまうもんだ。そわそわと挙動不審になっていた俺は母さんに呼ばれて、淡い期待を抱きながら足取り軽く玄関まで向かった。
「お邪魔してます十代目!」
「おっすツナ」
だが俺を迎えたのは憧れの京子ちゃんでは決してなく、大量の荷物を抱えた二人の友達だった。
「ご、獄寺君に山本!どうしたのその荷物?」
一瞬でも期待してしまったために落胆したが、分かってた事だし別に二人が嫌なわけではないのでさっさと切り替える。
「あー…今日ってバレンタインだったんすね。知らずに出掛けたらどっかからか女共が涌いて来て」
「俺も休みと思って店の手伝いしてたらいつの間にかこうなったのな」
「あ…あはは…すごいね二人共」
学校が休みでもそんなことになるなんて…モテなくて良かったかも、なんて思ってしまった。
「それで悪いんすけど匿ってもらいたいんです」
「うん、良いよ。とりあえず上がって」
「ありがとうございます」
「サンキュ!」
特に断る理由もないし放っておいたら大変そうなので了承した。
俺の部屋まで行くと、二人は重そうに荷物を下ろす。ちらりと覗くと、なるほどすごい数のチョコだ。とりあえず、普通の中学生が貰う量ではないと思う。
「本当すごい量だね」
呆れ気味に言うと獄寺君も眉間に皴を寄せて頷く。
「はい。日本の女っつーのはなんでこんな面倒くさいんすかね」
「め、めんどくさいかな…」
山本はと目線をやれば、はははと軽く笑いながらチョコを幾つか手にしていた。
「山本、それ食べるの?」
尋ねるといや、と首を振ってそれを俺に差し出すので、とりあえず受け取っておく。
「うちは親父と俺しかいねーからさ。食べ切れねぇからツナ達で食べてくれよ」
「あ、そっか。でも良いのかなあ」
「捨てるより良いだろ?」
「うん。分かった」
頷くと今度は獄寺君が同じ様にチョコを差し出して来るので、それも有り難く受け取った。俺も甘いもの好きだし、チビ達も喜ぶだろう。
「ありがとう、じゃあ貰うね」
「どうぞ」
獄寺君の満面の笑みにつられて笑っていると、また何やらガサゴソと袋を探る音が聞こえてきた。ツナ、と呼ばれて振り返る。
「なに山本」
「ほい」
「んぐっ」
何か口に突っ込まれた。甘い。チョコだ。それも生チョコ。口の中で蕩けるそれにほわーっとしていると、今度は急に目の前が暗くなって、違和感。
「んん?!」
「…ん、甘。ごちそうさま」
ちょ、今俺キスされた?!
「…やま、山本!!」
「てめぇこのやろっ!!十代目に何してんだ!羨まし…じゃなかった」
「獄寺君?」
今不思議な幻聴が。
それに山本はいつもの爽やかな笑みでとんでもないことを言った。
「お前もやってもらえばいいのな」
「んなっ!」
「なななに言って…!」
「ツナほい」
「んむ!」
問答無用で再びチョコを突っ込まれて、獄寺君の方へ軽く押された。俺の意見は聞かないんだ?!
「んむむ!」
そして顔を真っ赤にして獄寺君が近寄って来た。マジですか?!
「…甘いッス…十代目」
カァァァ
なんか恥ずかしいセリフ言ったよ。
「ちょ、二人とも!男同士でこんなの…」
おかしいよ、と言いかけて止めた。何て言うか…叱られた犬みたいな顔するんだもん。これだと俺が悪者みたいなんだけど。
「悪ぃツナ、嫌だったか?」
「すんません」
「あ、いや……嫌ではなかった、と思う、けど…」
語尾が小さくなる。嫌じゃなかったのは事実。ただびっくりしたけど。でも普通、嫌がれば良いのか…?うぅん。
「良かったッス!今年は最高のバレンタインになりました!」
「だな」
悩む俺に、二人が素晴らしい笑顔でそんなことを言ってくれるものだから、まぁいっか。と楽観的に処理を済ませた。済ませてしまった。
ただ、二人につられて笑いつつ心の中で俺はため息を盛大に吐いた。
(俺ってこんなんばっかりだ…)
end*
ネーミングセンスは突っ込んだらダメです(笑)
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