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フライングバレンタイン!!


災厄は突然やって来るらしい。




















フライングバレンタイン!!




















ガラッ

何の前フリもなく急に部屋の窓が開いた。お菓子をつまみながらゲームをしていた時だった。

「………」

続いて誰かが侵入して来る気配。気配で判断してるのは、今やってるゲームがちょうどラスボス戦に差し掛かっていたからだ。コマンド入力式ではない上難易度をHARDにしてるから少しでも気を抜くと負けてしまうし、負けてしまうとセーブポイントは遠い。要するに勝利するまでよそ見はしたくない、んだ…け…ど…

「………」

な、な、なんか背中に物凄い殺気を感じるんですが!?なにこれめちゃくちゃ怖いんですけど!

「ヒィ!?」

首筋に冷たい物が!覚えのあるその感触にフラッシュバックしたのは学ランに風紀の腕章。

「ヒィィィ!」

思わず叫ばずにはいられなかった俺の首に、圧力が掛かった。と、

ゾクッ

「?!」

今度は覚えのある悪寒が…思い出すのは南国かじ…じゃなかった、面白い髪型とオッドアイ。
……って事は何?どっち?ヒバリさん?骸?
まさかまさか二人共って事はありませんように。



「ワオ。シカトなんて良い度胸じゃない」

「クフフ。そんなに面白いゲームなんですかねぇ」




「ギャー!!」

悪夢再び!
なんてこった、こんな日に限ってリボーンや母さんはチビ達を連れて出掛けてしまっている。要するに今回助けは来ない。
前回の事を思い出すともうゲームなんてしてる場合じゃない!むしろどうでも良い!
俺がコントローラーを手放そうとした瞬間、後ろから手が伸びてきて阻止された。黒い革手袋をしてるから、この手は骸のだ。

「遠慮せずどうぞ続けて下さい?」

「むしろ止めると咬み殺すから」

「ひっ」

首筋に宛がわれたトンファーに力が入る。恐怖で俺のコントローラーを持つ手にも力が入った。とりあえず続けないといけないらしい。

「ななな、何ですか今日は?」

必死にテレビ画面を見ながら聞いてみる。用があるなら早く済まして帰ってほしい。

「ああ…もうすぐバレンタインなんだってね」

バレンタイン、ヒバリさんの口から聞くとは思わなかった。全然興味なさそうなんだもん。

「そうですね。モテない俺には関係ないデスガ」

カッコイイ二人は山本や獄寺くんみたいにきっと大変なんだろうな…。ダメツナの俺と違って。今までならそんなに気にならなかったけど、今は周りにカッコイイ人多すぎて悲しくなって来る。

「関係あるじゃないですか綱吉君」

「え?」

「期待してますよ」

「…は?」

期待って、何言ってるのこいつ?そんなの俺に言われても困るんだけど。そう言うと、革手袋が未だ握っていた手から離れて俺の頬っぺたを撫でた。

「鈍いですね、君は」

つつ、とその指が唇に滑る。

「ちょっと」

「ぐぇ」

と、ヒバリさんが更に力を加えたから首が締まってカエルみたいな声が俺の口から洩れた。

「あれは良いから、君は僕にチョコを渡しなよ」

「な!」

何で俺が!しかも男のヒバリさんに!なんて正当な疑問は口に出せるはずもなく、頷くしかなかった。渡すだけで良いなら、別に良いよね。

「忘れたら…」

「?」

首の圧迫感から解放されて、別の何かが新たに触れる。なんかくすぐったい…。

カプッ

「…イッ?!」

気を抜いていたら突然首に小さな痛みが走って手が止まる。今絶対ヒバリさんに咬まれた!!

「どうしたの?手が止まってる。…ああ、もっと咬まれたいのかい?」

「…!」

首に咬みついたままで言われて、慌てて再開したけど今のでダメージを受けてしまった…。

「おやおや、おされてますよ。手をお貸ししましょう」

「いらな…」

骸の申し出に嫌な予感がして断ろうとするも、赤い右目が発動する音がしたと思えばもう変化が起きていた。

「骸お前っ!」

何が手を貸す、だ!完璧邪魔じゃないか!
俺が視線をキープし続けているテレビ画面のボスキャラが、あろう事かヒバリさんになっているのだ。しかも最悪な事に主人公は俺だ。

「こんなの攻撃出来る訳ないよ!」

「そんな事言わずに必殺技出してみて下さい」

「む、無理!」

ヒバリさんの威圧を感じ取って防御と回避に専念していた俺の手に、また骸の手が重ねられる。

「まあまあ」

「止め…ああ!ヒバリさんすみません!」

骸の手によって呆気なく押された必殺技ボタン…それに連動して画面の中の俺が大仰に構えた。
この技は確か大剣に炎を纏って相手に切り掛かるもの、で……

「はぁぁ?」

俺の口から思わず呆けた声が出た。だって炎を纏うはずの大剣から、なんか骸に似た茶色い物がいっぱい出てるんだもん……。

「なにこれ?!」

「クフフ。バレンタイン仕様ですよ」

あ、チョコなんだあの骸……気持ち悪い。

「痛っ?!ちょ、ヒバリさん痛い!ごめんなさい!」

相当ムカついたらしいヒバリさんはそのムカツキを俺に向けてきた。幻覚止めてもらわないと俺の首が危ない!

「む、骸骸!今すぐ幻覚止めろ!」

「おや?何故です?倒しやすいでしょう?」

「なわけあるか!早く!…チョコあげるから!」

チョコに反応した骸がクフ、と笑って瞬きをする間にはもう画面は戻っていた。危ない、本当に咬み殺されるところだった。

「約束、ですよ綱吉君」

「う゛…うん」

い、良いよね、チョコあげるだけなんだから。

「…んっ?!」

ピリリ、とした感覚に顔をしかめる。そういえばヒバリさん、まだ首から離れてなかった。一体何してるんだろう?

ペロッ

「っ!…ひ、ひば……んあっ」

ギャー!なんて声出してんの俺っ?!

「一人占めはいけませんよ」

「む、骸!耳止め…ひゃ!」

首筋をヒバリさんが、対抗する様に耳を骸が舐めてるらしくて、しかも二人共手では俺の足やお腹を触ってるからなんかぞわぞわして落ち着かない。俺は無意識でギュッと目をつむってしまった。

やがてチュッと音を残してヒバリさんが首筋から離れた。骸も同じ様に離れる。解放された安堵感から顔を上げると、二人が立ち上がる。

「バレンタイン、忘れたらそれ増やすから」

そう笑って窓から姿を消すヒバリさんは颯爽として格好良かった。
それにちらり、と視線を投げてから骸も窓枠に跳び乗る。

「では、楽しみにしてますよ」

返事を待たずに、す、と消えた骸もやっぱり格好良かった。
二人共、俺なんかに貰わなくても女の子がいっぱいくれるだろうに。変なの。

「鈍いにも程があるぞ、ツナ」

「!リボーン」

いつの間に帰って来たんだか、声に振り返るとドアの前にリボーンが立っていた。階下からはチビ達の声も聞こえる。だからあの二人帰ったのか…。

「鈍いって、なにが」

「そこまでされて気付かないなんてな。アイツらに同情するぞ」

「?」

「で、いつまで終わったモン見てる気だ?」

「え?……あー!!」

忘れてた!!リボーンに言われてテレビを見ると、あれだけ必死にプレイしたボス戦が虚しくゲームオーバーを告げていた。

バレンタインなんてなければ良いのに、と今までで一番強く思ったバレンタイン数日前だった。






end*




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