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雨のせい


「何やってるのさ、君」

指定した時間を過ぎても来ず、電話をしても出ない。そんな状態で30分を過ぎて、探しに行こうかと思った時にようやく姿を見せた綱吉はずぶ濡れで。
呆れた僕の口から出たのはそんな言葉だった。


















雨のせい






















「すすす、すいません!」

玄関で出迎えると綱吉は開口一番謝った。

「何やってるのさ、君」

謝る前に説明してほしい。何故遅刻して、何故そんなにずぶ濡れでいるのか。呆れた僕の声を聞いて身を竦める綱吉は、これ以上ない程眉尻を垂らしている。

「あの、家出ようとしたらチビ達に捕まって」

「濡れてるのは?」

「雨に降られました……出る時は小雨だったから傘持ってきてなくって……」

雨だって…今は降っていない様だから、通り雨か…運がない子だ。

「本当すみま……へくちゅっ!」

「……………」

綱吉は再び謝ろうとして大きく顔を歪ませた。
何、今の。くしゃみ?よく見ると体も小刻みに震えている。

「とにかく、入りなよ。風邪を引かれたら困る」

頷いた綱吉の手を引いて家に招き入れる。玄関の戸を閉じる時に微かに雨の匂いがした。多分、綱吉からしてるのだろう。

「ヒバリさんの家、畳の匂いがします」

自室に通してタオルと着替えを用意していると、綱吉がキョロキョロしながらそんな事を呟いた。

「そう?」

「はい」

だからヒバリさんも時々畳の匂いがします、とはにかむ綱吉を見て僕は目を細める。

「君は日溜まりの匂いがするよね」

「そうですか?」

「うん、今日は雨の匂いだけど」

「すみません」

僕の言葉にもう一度謝って、綱吉は恥ずかしそうに笑った。

「おいで」

タオルを広げて、少し離れて座っていた綱吉を呼ぶと、素直に近寄ってきてタオルに包まれる。思ったより濡れてる様だ。
僕はタオルで綱吉を拭きながら用意した着替えを渡した。

「濡れてるから、着替えなよ」

「あ。えと…」

「クス。着替えさせてあげようか?」

「!」

ボン、と音が出そうな勢いで顔を赤くした綱吉が、僕の手から着替えを奪い取ると背を向けて着替え始める。その体の水分を隙を見て拭い取った。

(…髪は仕方ないか)

量の多い綱吉の髪は水分を多く含んで、いつもより跳ねは少なくぺったりしている。用意したのが着流しな事も相まって、なんだか雰囲気が変わって見えて新鮮だ。

「…それにしても君はどこまで不器用なの」

出来ましたと振り返ってみれば、帯はガタガタだし襟はヨレヨレ。正直すぐ着崩れて着ている意味が無いんじゃないかと思う。

「すみません、折角お揃いなのに上手く着れませんでした。直してもらえますか…?」

「良いよ」

断る理由もなく了承すると、綱吉の帯に手を掛ける。
シュル、と衣擦れの音。
…ああ、人の帯を外すって、存外興奮するものだね。
なんて、僕の気持ちを知ってか知らずか綱吉ははにかんで、なんだか恥ずかしいですね、と呟いた。

「持ってて」

その顔を見てたら自制が効かなくなりそうで、僕は少しぶっきらぼうに指示を出すと、襟を押さえた綱吉に抱きつく様な格好で背中から腰紐を回す。
あ、まずい、この姿勢は近すぎる。と思ったのは綱吉が僕に擦り寄ってきてからだった。

「…綱吉?」

「えへへ。ヒバリさん、温かい」

綱吉の濡れた髪が布越しに触れた時、僕の中で何かが切れる音がした。

「…つなよし」

「はい?………ん!?」

名を呼ぶと、見上げて来る顔を手で固定してキスを落とす。甘く、激しく、呼吸を奪う様に。

「ん……んぅ……!」

キスの時鼻で呼吸をするのが下手な綱吉は、やがて無意識に唇を離そうとする。それを許さず固定したまま続けていると、ガクン、と体から力が抜けたのを背中に回した腕で受け止めた。
その反動で綱吉の濡れた髪の滴が舞って僕に掛かる。まるで汗の様な錯覚を覚えて、更に僕を煽る材料となった。

「…っは、…は…ヒバ…リさ…」

潤んだ目で息の整わない口から僕の名前が零れる。…この子は、本当に無意識の内に煽るのが上手い。
誘われる様に、体を支えた体勢のままむき出しの肌に唇を付けると、震える喉に吸い付いた。

「あっ」

びくり、と体を揺らした綱吉に思わず笑みが溢れて唇を離すと、目に入る僕のものだと言う証。

「ねぇ、そんな顔されたら、抑えられないんだけど」

顔を覗けば、眉は寄り口は僅かに開いていて目は相変わらず潤んで。抑えられない、と宣言すれば、綱吉の顔は僕が付けた赤の境が無くなりそうな程赤く染まった。
それを受け入れたと認めると、静かに押し倒してもう一度今度は触れるだけのキスを贈る。

「抱くよ」

囁けば返ってくる照れた微笑みに、目を奪われて。誤魔化す様に瞼、頬、耳たぶと順にキスを落とした。

「好きだよ」

「俺も……好きです」

いつもより艶っぽい君、それは雨のせいだという事にしてあげる。その代わり、

「覚悟してよね?」







end*




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あきゅろす。
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