10年の変化
「ヒバリさ〜ん、聞いてますか〜」
「……………」
この状況は何だろうと、状況を整理してみる。
今僕は、僕のテリトリーである応接室のソファーで沢田に詰め寄られている。但し、沢田は沢田でも10年後の彼だ。この時代の沢田は僕のテリトリーには迂闊に近付かない。
「……君、なに」
「何って何れすか?」
呂律が回っていないし酒臭い。見た目はあまり変化は見られないのに(多少背が伸びて髪が伸びた程度)、中身は甘党から変化したと言うことか。見るからに酒が苦手そうなあの男が、にわかには信じがたい。
僕が眉を寄せると沢田は酒臭いですか?と首を傾けて聞いてきた。そういう仕草は変わらない様だね。
「うん、君が呑む様には見えないけど」
「あははー。リボーンに呑まされたんれすよ!グラッパとか無理だって言ったのに〜」
グラッパ…確か度数の高い食前酒だったかな、あの鬱陶しいイタリア人が言ってた気がする。
そんな事を思い出しつつ、赤ん坊の名が出た事に僕は一瞬よく分からない気持ちになった。
「赤ん坊かい」
「そうですよ〜。アイツ酒強いから」
「ふぅん…」
「ヒバリさんも呑んでみますか?……あーれも今のヒバリさん未成年なんで6年後ですね」
手首をヒラヒラと動かしながら(手招きの様な感じ)笑う沢田に何故だか苛立ちを感じる。
「ちょっと、子供扱いしないでくれる?大体君の方が子供みたいじゃない」
「あーそれ言いますか?これでも隼人なんかは見違える様だって言ってくれるんですからね」
まただ。今度は校則違反の塊の獄寺隼人か。…無性に咬み殺したい。
「ヒバリさん何考えてるんですか」
「君には教える必要がないよ」
「へぇ……」
僕がちらりと時計を確認すると、沢田はそれに気付いたのか一瞬思案する様な素振りをして、そうそう、と呟いた。
「時計と言えば、前に来た時ヒバリさん俺の腕時計壊しましたよね」
「知らないよ」
「あれ人からのプレゼントだったんです」
「……そう、残念だったね」
沢田が元に戻るまであと2分。
「すっごく怒られたんですから」
「!」
肩を掴まれた。押し返そうとするが力の強さが僕の知ってる沢田じゃない。そのままソファーに倒される。
「俺の時代のあなたに」
「…?」
今なんて言った?僕?…とするとあの腕時計は僕がプレゼントした物なの?
事実を知って固まる僕に、沢田は綺麗な笑顔で見下ろしてきた。
「お仕置きです」
「?!」
顔が近づいてきたかと思うと唇を塞がれた。この男何やって…?!
そのまま軽いキスを2、3度繰り返し、唇の輪郭をなぞる様に舐められると、自然肌が粟立った。
その隙を見て沢田の手が喉元よりシャツから見える範囲の肌を軽く滑る。
「……!」
「…寒いの?鳥肌が立ってるけど」
目の前の男がさも心配そうに聞いてくる。その問いに、僕は驚いて目を見開いた。
「なに…っ」
「恭弥さん」
「!」
「ねぇ、あの後俺はもっと怖い目にあったんですよ?」
耳元で囁く様な声。吐息が掛かる。
「あなたが壊したって言っても聞く耳持ってくれないし」
手が今度はシャツの裾からするりと進入してくる。
「さわ…だ」
「綱吉」
僕の顔を覗き込んできたその目は、甘いハチミツの様な色をしていた。
「綱吉って呼んでよきょう……」
ボフン!!
「!」
腹の上を陣取っていた男が間の抜けた音と共に煙に包まれて、其れが晴れたと同時姿を現した間抜け面の君。
「ひ、ばりさ……?」
「…退きなよ」
「?!ヒィィィッッ!!!」
状況を確認した彼が煩く喚きながら転げ落ちる様に僕から離れた。
「な、な、なんで?!ごめんなさい!」
…全く、さっきの彼と態度が違いすぎる。本当に同一人物か疑いが生じてきた。
「…良いから、おいで」
「……?」
手招きすると警戒しながらもおずおずと近付いてくる。甘過ぎるよ君は。
手が届く範囲に戻って来た所で、腕を掴んで引き寄せた。そのまま軽く口付ける。
「?!!!」
「…ああ、いつも通りの間抜け面だ」
「なーっ!!!!」
僕の知る沢田綱吉はこれだ。君はそうやって僕に怯えてれば良い。
満足感を得ると自然口角が上がった。それを見て彼が顔を引きつらせる。
「ねぇ」
「ななな、何ですか」
「咬み殺して良い?」
「?!」
耳元で囁けば彼は飛び上がって僕から距離を取った。そして目が合うと体を反転させて応接室から飛び出して行く。
「ひぎゃー!!助けて〜」
また鬼ごっこかい?良いね、面白くなってきた。
「待ちなよ……綱吉!」
ああでも、10年後の生意気な君を咬み殺すのも楽しみだ。
end*
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