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sweet taste


気が付くと目の前には紙の山。どうやら書類を片付けながら、いつの間にかうたた寝をしてしまっていたようだ。

「…チッ。起きたか」

「?!!」

不意に耳元で声がしたものだから、少しでも山を減らそうと書類に伸ばし掛けた手がビクリと揺れた。

「…リボーン、驚かさないでよ」

顔を確認しなくても分かる、側で囁かれたら金縛りにでもあいそうな低く甘い声。
…今危なかったな。けれどそんな事を言えば彼は面白がるだろうから、平静を装う。

「で、今何しようとしたの?」

「聞きたいか?」

「………止めとくよ」

て言うかお前、いつまで人の背後を取ってる気だよ。自分は絶対に取らせない癖に。……これも言えば隙を見せるから悪いと言われるだろうから、黙っとこう。

「俺どれぐらい寝てた?」

「ほんの5分位だぞ」

あ。書類に手を伸ばしたら退いてくれた。

「この山無くなるかな…」

「さあな。明日はそこそこ重要な会合があるからそれまでに片付けろよ」

「忘れてた……何時?」

「11時」


無理だ。デスク+テーブル(両方で俺が両手一杯広げてそれを2個分位の長さ)の上にびっしりと積まれたこの書類を後9時間で片せと言うのか。
…いや、眠らずトイレも行かず死ぬ気でやれば間に合うかもしれない。

「眠らないって言うのは却下」

「な!」

無茶を言うよ……今やっとかないとしばらく片付ける暇が無いのに。

「じゃあ手伝ってよ」

助けを求めてリボーンを見やれば、壁にもたれかかっていた彼がニヤリと口角を上げた。

「分かった」

「え!本当?」

「ああ、その代わり…報酬は高ぇぞ」

「なっ…マーモンみたいな事言うなよ」

「ハンッ。世の中そんなに甘かねぇって事だ」

元の給料がすっごい高いのにそれに上乗せしろとか言うのだろうか。誰かの給料削ればいけるかな?雲雀さんとか隼人は結構損害出してたよなぁ……うぅ。背に腹は変えられない。

「頼むよ」

苦渋の決断で頷けば、リボーンは預けていた背中を壁から浮かして隅の椅子を蹴り寄せた。なんて足癖悪い。

「任せろ。受けた仕事はきっちり終わらせるぞ、俺のポリシーだ」

「うん」

こういう時本当頼りになる奴だよなあ……なんて見ていたら、凄まじいスピードでリボーンは書類を捌き始めた。

「早っ!!」

流石アルコバレーノ…って事か。

「何してる。オメェもやらねぇと終わらねぇぞ」

「あ、うん」

俺、死ぬ気になってもあのスピードは無理かも…。















*****














4時間後。なんとか当初の予定の半分の時間で終わらせる事が出来たが、俺はもう目が半分しか開けれないぐらい疲れきっていた。

「なんとか…終わった。リボーンありがとう」

「ああ」

それに比べてどうだ、リボーンの涼しい顔。書類だって6割はあいつが引き受けてくれたのに。

「平気そうだね」

「…お前がだらしないんだろ、ダメツナ」

「うん、」

頷くとため息をつかれた。俺は取り繕う様に言葉を繋ぐ。

「それで、報酬は…」

「ああ。給料にゼロを2個足すだけで良いぞ」

「………?!ちょ、ちょっと!」

ゼロが2個?…100億?!驚きで目が覚めた!

「む…無理無理無理!いくらボンゴレでも一人に100億は出せない!!」

「ああ?」

「うっ…」

そんなに威圧してこないで。だって守護者と俺の給料全カットしたって全然足りないじゃないか!元々守護者より給料高いんだぞリボーンは!

「…ゼロは1個で勘弁して下さい」

「まあ分かってたがな」

「え、なんて?」

リボーンの小声に聞き返すと、彼は徐に俺に近寄ってきた。近い、手を伸ばせば顔に触れられる距離だ。

「端から金を貰うつもりはねぇっつってんだ」

「わ!」

耳元で喋るなよ!鳥肌立ったじゃないか。思わず椅子から立っちゃったし。

「……お金じゃない、て事は何がお望みなんですか」

「話が早ぇな」

リボーンは物凄くギラギラした笑みを浮かべている。例えるなら捕食前の猛獣。
気圧されて後ずさると、目の前の猛獣も追って来る。
あれ?この状況ってまさか…獲物は俺なんて事にならない?違うよね。

「当たりだぞ」

「んな……!てゆうか心を読むな!」

そして耳たぶ噛むなぁ!

「顔真っ赤だぞ」

「う!」

と、とりあえず猛獣から離れたくて後ずさった。しかし当たり前の様に着いて来る。ジリジリと後退し、俺はとうとう壁に追いやられてしまった。

「ツナ。俺は仕事を片付けたぞ?」

「う、うん…」

リボーンが俺の顔の横の位置で壁に手をついた。逃がさないぞ、と言われているみたいだ。

「100億出すか?」

「い、いや…」

あれ、10億でって言う提案は無言の却下ですか?

「なら分かってるよな?」

「う……」

分かってる、分かってるよ100億は無理だって事は。この男から逃げるのは不可能だって事も。

「ツナ」

「ふぁ?!」

耳元で低く囁かれる名前に、変に反応してしまった。一瞬隙が出来てリボーンの手が俺の脇腹をなぞる。ペロリ、と耳を同時に嘗められた。

「…!」

それに身を竦めていると、顎を捕まれ足の間にはリボーンの足が割って入って来る。片手でネクタイを緩められ……いよいよ危機かも知れない。

「大丈夫、可愛がってやるぞ」

こ、こいつ……一体こうやって何人の女の人を口説いたんだろう。
口には出さなかったけど読心術でお見通しだろうリボーンは、答えの代わりに浅い笑みを浮かべて俺の口を塞いだ。

「!」

これはどう考えたってキスなわけで。往生際悪くどこかに逃げ道を探す俺を嘲笑う様に、不安できつく閉じた俺の唇をリボーンの舌がなぞる。瞬間、感覚が全て唇に集中したんじゃないかと錯覚する様な刺激が来る。困惑して顔を背けようとすると、両手で頭を固定されて。

「……!」

俺だってキスは初めてじゃない。呼吸の仕方ぐらい知ってるけど、なんだか上手く出来なくて…いよいよ息が苦しくなって来て、思わず酸素を求めて口を開けてしまった。ニヤリ、と笑った(気がした)リボーンがここぞとばかりに舌を進入させて来る。

「は……ふぁ…」

わざとかと思うほど、酸素を求めて口を開く度すぐに塞がれる。

「んぅ……!」

服を引っ張ったり抵抗してみるけど駄目だ、離してくれない、息が、苦しい………。















*****















「………!」

ガクン、と急に力を失った綱吉の身体をリボーンが支えた。

「気を失ったか」

ため息混じりに呟くと、自分たち以外の者が近付く気配。

「骸か」

「……クフフ。流石です、良く分かりましたね」

独特の笑い声を響かせ、僅かに開いていた窓の枠にカラスに憑いた骸が降り立った。

「あまり綱吉君をからかっては可哀想ですよアルコバレーノ」

「なら助けてやれば良かったんじゃねーか?」

「ご冗談を。僕はマフィアが嫌いです」

「ハン。…オメェ今度は何する気だ?なんだその格好」

「いえ、少しばかり鳥の姿に慣れておこうと思いまして」

「……あんまりこいつを心配させんじゃねぇぞ」

リボーンの言葉に、骸はクイッと首を傾げた。

「お優しいんですね。彼を気絶させたのも放っておけばまだ仕事をするからなのでしょう?」

「……ふざけた事言ってねぇで報告書出しやがれ」

「おやあなたが見てくれるのですか?」

「馬鹿言うな、起きたらこいつにやらせる」

「…そうですか」

それきりリボーンは黙って、綱吉を隣接する休憩室へと運んで行ってしまった。残された骸はそれを見送ると目を細める。

「クフフ……マフィア最強のアルコバレーノも、想い人には甘いと言う事か」










end*

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