時と闇の継承者
2
『彼』は、どこか遠くを見ながら言った。
「この森のずっと奥には、魔物が多くいて……」
そこまで言って言葉を切った『彼』は、満面の笑みを俺に向けた。
「それこそあの手この手でトキヤをタブらかしてくるから、気をつけて」
「………」
まるでイタズラが成功したみたいな笑顔に、俺は頬を引きつらせた。
さっきまでの真剣な顔はどうした。
「もしかすると、拐かされることもあるかもしれないから、そんなことにならないように、しっかりと対抗する術を身につけてね」
「はぁ……」
かどわかすって……なんだ?
「大丈夫!たとえ誘拐されても、クロがちゃんと助けてくれるから」
「はぁ……」
いい笑顔を振りまいているとこ悪いけど、とりあえず、クロって誰?
「誘拐される前に助けるから安心しろ」
俺たちの会話を聴いていたらしい美形が、こっちを振り向いて真面目な顔でおっしゃった。
この場合、返事はなんだ?
「あ、ありがとう……?」
とりあえず、お礼を言っておくべきかと思いながらも、正解が分からず首を傾げる。
「何で疑問形?」
隣からツッコミが入ったが、俺はそれに返すことが出来なかった。
何故なら、首を傾げた俺に、美形は一瞬驚いた顔をしたあと、優しい笑みを浮かべて俺の頭を撫でてきたからだ。
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