時と闇の継承者
1
―Side ???―
部屋に入った瞬間、目に映った光景に思わず手に持っていた荷物を落とした。荷物は見事に自分の足の上に落ち、激痛が走ったがそれより目の前のほうが重要だと痛みに耐える。
「落ちたぞ、荷物」
ソファに足を組んで座り、優雅な仕草でカップを傾けている黒髪の青年が、冷静に指摘した。
荷物を落としたのはあんたのせいです。とはさすがに言えなくて、とりあえず今一番聞きたいことを尋ねてみた。
「な、なぜ、ここに……?」
青年は唇を笑みの形にすると、余裕たっぷりに言った。
「羨ましいんだろう?」
「……は?」
何が羨ましいのか意味不明だ。しかも自分の質問の答えになっていない。
どう反応を示すべきか悩んでいると、見兼ねたのか、この家の主である黒髪の少年が口を開いた。
「さっきまでトキヤがいたんだよ」
「は?トキヤが?」
少年の言葉を繰り返し、その重要性に気付き、青年の余裕たっぷりの表情を見る。
自分より先に時夜に逢ったことを羨ましいだろうと自慢している事にようやく合点がいく。
大きなため息を吐き脱力する。
確かに時夜に逢えなかった事は残念に思う。よりによって目の前の青年が自分より先に時夜に逢った事も悔しくないと言えば嘘になる。
だからといって、青年にくってかかるほど、自分はバカではない。
そもそも自分と青年とは立場が違うのだ。
たかだか先に逢っただけで目くじらを立てるほどではない。
それよりも知りたいのは、なぜ青年が『大魔法使い』と称される自分のマスターの家にいるかだ。
「マスター、なぜここに」
この方がいるんだ?
と、尋ねるのを青年が遮った。
「時夜にはアロフを付けたぞ」
「は?」
また唐突に何を言いだすのかと困惑する。
「トキヤを影から護衛してもらおうと思ってね。今のトキヤではいろいろと危なっかしすぎるから」
「あぁ……そう、ですか」
青年の手前、一応敬語を使う。
「支幻殿はトキヤを助けてくれたんだよ」
少年の言葉に表情を引き締める。
「俺が通りかからなければ、今頃は下級魔族の餌食だろうな」
「そうでしたか。ありがとうございます」
青年に向かって改めて頭を下げる。
「次に時夜がこちらに来る時は、俺が必ず守ります」
「当然だな。そのためにお前がいるんだ」
青年の言葉に少年も頷いた。
「そのために比較的に自由も与えられているわけだしね」
「あのお二方のためにも、頑張るんだな、クロ」
もちろんと頷いた。
そのつもりで自分は生きているのだから――。
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