時と闇の継承者
9
耳を引っ張られているのに全く痛そうに聞こえないヒロマサの「痛いよ」という言葉を聴きながら、俺はヒロマサに手を引かれ高村先輩の後を強制的に付いて行く事になった。
高村先輩に追い付いた瞬間、俺たちを見た先輩が一言告げた。
「なんだ、ケンカでもしたのか?」
「してませんよ」
高村先輩の問いかけに、ヒロマサは苦笑しながら否定した。
まあ、確かに俺たちはケンカすると二人して無表情&無口になるからな。この程度はケンカの内に入らない。
「ま、ほどほどにしておけよ。夫婦喧嘩は犬も喰わないって言うからな」
「誰と誰が夫婦だっ」
高村先輩の大きな勘違いにツッコミを入れる。多分またスルーされるだろうけど……。
「さて、着いたぞ」
俺の予想通り、ツッコミは無視された。
高村先輩が立ち止まったのは木造の年季の入った建物の前だった。
「準備はいいか?」
「準備ってなんの?」
「いつでも」
唐突な高村先輩のセリフに、首を傾げる俺の隣でヒロマサが肩をすくめながら答えた。
「だからなんの準備だ?」
意味がわからず訊ねているというのに、ヒロマサも高村先輩も俺の疑問をスルーした。
さすがにムカついたので、ヒロマサの耳をまた引っ張ってやる。
「人の話を聞けっ」
「痛いよ、時夜」
「『痛いよ』じゃないっ。俺はなんの準備か聞いてんだよ」
「あぁ。時夜をサボらせた理由?」
なぜ疑問形なんだ?
しかも質問の答えになっていない気がするが、ヒロマサの言葉にそういえば、今日は強制的にサボらされたことを思い出した。
下らない理由だったらヒロマサを一発殴ってやろう。と思っていると、高村先輩が引き戸に手をかけていた。
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