時と闇の継承者
5
中学3年の進路を決める時、ヒロマサは剣道が強い私立天宮学園を第一希望にしたことを打ち明けてくれた。
ちょうど剣道部の強い学校を探していた俺にも薦めてくれたのだ。天宮学園は家から20分と立地的には良かったが、全寮生であることが俺にはネックとなった。
じい様とばあ様の元を離れなければならないのは、俺にとって一番の問題なのだ。
俺とじい様ばあ様に血縁関係はない。じい様ばあ様の行方不明だった息子が、ある日突然帰って来て、なぜか腕には赤ん坊を抱いていた。その赤ん坊が俺だったらしく、話によると俺は息子さんの恩人の子で、事情により預かったそうだ。
その息子さんは俺をじい様ばあ様に預けると、ふらりとどこかへ行ってしまったそうだけど――。
何も聞かずに赤の他人の子を本当の孫のように育て、可愛がってくれているじい様とばあ様は、俺の大切な家族だ。
だから俺は、なるべく長く二人の傍にいようと決めたのだ。
正直に理由を打ち明けると、ヒロマサは残念そうにだが、納得してくれた……はずなのだが?
「……ごめん。」
ヒロマサはバツの悪そうな顔で謝ると、前髪をかきあげた。
ヒロマサの男前な顔がはっきりと現れる。
中学時代はかなりモテていたヒロマサだが、男子校、それも全寮生に入ってしまったので、モテモテ人生は終わったようなものだ。
ぼんやりとヒロマサの境遇を哀れんでいると、ヒロマサは俺に向き直った。
「さっきのことは忘れてくれ」
「わかった」
ヒロマサの要求をあっさり呑んでやると、ヒロマサは多くの女の子を誑かしてきたどこか淋しそうな笑みを浮かべた。
憂いの表情が母性本能をくすぐるなどと囁かれているが、俺にはよくわからない。
俺から見れば、犬が主人に叱られてうなだれているように見える。ので、カバンでも投げて「取ってこい!」って言いたくなった。
「時夜……」
「ん?」
気付けばヒロマサの顔に困惑の表情が浮かんでいた。
「急にカバン投げるなよ。危ないだろ」
……あれ?
カバンを持っていたはずの手を見ると、あるはずの物が消えていた。
しょうがないなぁと呟きながらヒロマサが俺が投げ出したらしいカバンを取りに行く。
が、手は繋いだままなので、必然的に俺もヒロマサの行く先に歩みを進める形になる。
一人で行けよ……。
いや、カバン投げたのは俺だけど。
つか、いつまで繋いでる気だよ。
「ほら」
ヒロマサが、拾った俺のカバンを差し出す。
「……ありがとう」
素直に受け取り礼を言うと、ヒロマサは「どういたしまして」と笑った。
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