そして青い日々にさよならを

・現パロ
・ティーダはユウナが好き
・スコールはティーダが好き








泣き顔はよく見たのに。すぐ泣く奴だから。でも、こんなのはじめて見た。ぐずぐずになって、頬なんか真っ赤で、鼻水だって垂れて、不細工極まりない。
誰かを思って泣くお前なんて、不細工極まりないのに。






そして青い日々にさよならを





ユウナが結婚するんだって。と、ティーダが虚ろな目で言った。半年前の事だ。ティーダはそれをいちばんに教えてもらったらしい。いちばん大事な人だから、だそうだ。

ユウナとティーダはお互いを愛しすぎていると思う。愛は大きすぎて、恋にはならなかった。そういうことだと思う。
思春期のいちばん多感な時に、その愛を成立させてしまったから、ふたりは恋人になれなかった。



そして、とうとうその微妙で繊細な距離も壊れてしまうらしい。ユウナは、明日結婚する。









「う、くそぉ…」

ショックだろう、想像でしかないが、そう思う。
幼い頃からずっと大事に守ってきた宝物が他人のものになる。他人による愛を受け入れて、笑い、また愛を育てるのだから。
でも、ティーダは今日まで泣かなかった。相手に会い、愛情を確かめた後はちゃんとふたりを見守ってきた。一見直情型のこの男は、意外と視野が広いから。
大切な人間が一番幸せになれるように動いていたんだろう。
そして、全てが手を離れる事になる明日を前にして、崩壊したんだろう。プライドや、理性とか。全部。


そろそろ日付も変わろうとする頃、突然部屋に飛び込んできたティーダは、俺にしがみついて泣き声をかみ殺していた。あとからあとから溢れてきている温かい水滴が、俺のシャツを濡らしている。

「おれ、おれ…だいすきなんだ。」
「…ああ」
「…し、あわせに、したかった、なあ…」
「…、ああ」


おれが、と言い、またティーダは涙を流す。
真っ先におめでとうと笑ったくせに、ユウナの父親に代わって相手に一発いれたくせに。


(俺が居る、から)


なんて、言えれば。



妙に小さく見える背中を、ゆっくりとさすってやれば、泣きながらも少し笑う気配。


「なにがおかしい」

「…ん、だって、スコールが優しい」
「俺はいつもは冷たいか」
「そんな事ないよ。…スコールは俺に、いっつも優しい。昔から」


お前だから、だと言えれば。どんなにか良かっただろう。
俺が居る、泣くな。

(愛してる、)




俺はいつも、言いたい事のひとつも言えずに。




「…お前と、同じだな」
「…ん?」


(なんでもない)





気が付けば、雨戸も閉めずに眠っていたらしい。部屋は少し明るくなっていた。
あれからまだぐずついていたティーダをあやしながら一緒に眠りについた事をゆっくりと思い出す。腕の中、くすんだ金髪が少し動く。

「ん、…あ、」
「目が覚めたか」
「んんー、はよっす…」

名残惜しいと思いながらも腕を解くと、ティーダは小さく息を吐いて上半身を起こした。

「俺はシャワーを浴びてくる。お前は一度帰るだろう?服だけ持ってまたここに来たら良い」

「うん」


「なあ、スコール」



振り返ると、ティーダは笑っていた。

「ありがとな。俺、泣いちゃったけどさ、…ちゃんと幸せ、願ってるんだ。それって多分スコールが居るから、だと思う」


息が止まるかと思った。
急に全てがぼやけて見え、一晩を同じベッドで過ごした事に思い当たる。
俺のベッドで、抱き合って。髪の感触や肌、吐息、全てを。



「…ティーダ、お前、」
「スコールや、みんなが居なかったら多分もっとぐるぐるだったと思うんだ。…みんながいて、良かった。なんつって、はは!」







「、…〜〜!」

(…馬鹿か、俺は)



何年ティーダを思ってるんだ。こいつはそれくらい当たり前に言うに決まっているのに。

「、シャワー、浴びてくる」


らしくもなくそう言い捨て、ドアを閉めた。

(期待した?馬鹿馬鹿しい。傷ついたアイツに付け入ろうとした。最悪だ)

自己嫌悪に頭が痛くなりながら乱暴にスウェットを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
あれはどう考えても勝手にのぼせた自分が悪い。こんな時に冷たく当たるなんて。

「、くそ」



少しだけ壁に拳を当て、湧き上がる感情を散らす。
と同時にコン、と壁を叩く音。


『スコールー』


この男だけは、
と思ってしまっても仕方ないと思う。

(空気をよめ、阿呆)

『すーさーん?』
「誰がすーさんだ」
『聞こえてんじゃん!な、俺が押し掛けて勝手に寝たから怒ってるっすか?』
「違う」
『じゃーなんだよー寂しいだろー』
「別に怒ってない」
『はい嘘ー、って、ん?』

ついさっきまで真剣に自己嫌悪していたのが馬鹿みたいだ。

(俺が冷たく当たった事なんて、全く応えてないじゃないか)


『あ!わかった!スコール俺がスウェットによだれつけたから怒ってるんっすね!?』

「よだ、…貴様!」


慌てて脱衣所に出るとティーダの満面の笑顔。ちなみにスウェットは俺が脱いだそのままで床に捨てられている。

「いやん、すーさんのエッチ」「死にたいか」
「あは、ごめんね」


はあ、と溜め息が出たのは仕方ない事だろう。
おそらくこれは、ティーダなりの方法なのだと思う。自分からは浮上出来ない俺への。
そう考えると少し、嬉しいかもしれない。単純なのは俺も同じだ。




明るい脱衣所で見るティーダは、昨日と比べてずいぶん吹っ切れた顔をしているような気がする。それだけでもう、良いじゃないか。
少し力になれたなら。
友情であっても、好きだと思ってもらえたなら。



「この天然ばかめ」
「あ、ひでえ!全裸の癖に!」




ティーダの喚き声を後ろに下着を吐いて、窓の外を窺う。
すっかり明るくなった快晴に、花嫁の事を思った。

(アンタは、幸せになってくれよ。)

アンタの大切な人は、俺がしっかり面倒を見てやる。だから安心して幸せになれ。



心の中で語りかけて、もう一度空をみる。
鐘が鳴り響く音が、聞こえた気がした。








/そして青い日々にさよならを言って、君は大人になる








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