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儀式のお話












もう呼吸の合間に喘いでいるのか、喘ぐ合間に呼吸しているのか、はたまた呼吸なんてしていないのか…。


まだ思考できるのか、と驚いたが僕の脳は喘ぐために呼吸をしているのだとはじき出した。



次、精液を吐き出してしまったらもうからっぽになる。



僕の中で未だ蠢く彼もからっぽになる。



搾り取って搾り取られて。



何が何だか解らなくなる。



頭の上から足の先から、内臓や脳の奥の奥の奥迄。



ぐちゃぐちゃの世界。



どろどろと皮膚を伝って落ちる精子はシーツに染みを描く。



何度紡いだかわからない愛の言葉は、それでも口をついては零れ。



それに律儀に答えてくれる彼の唇。



「あ、ぁッ、…!」



声も出せないくらい渇いた喉を掠れた嬌声がはしり、また視界がスパークした。



見ると極微量の若干白い、殆ど透明のそれが、渇き始めたその前の白濁色の上に艶々と上塗りされていた。




それでもガクガクと揺さぶられる。



耳元では愛の囁き。



言葉なんかにはもう何の意味もなくて。



もう、屹立もしない。



彼の2倍はイッたな。




このまま溶けて貴方と1つになりたいだなんて、聞いたことあるけど。



僕はそんなの嫌だ。



彼の存在を何時だって確認していたいし。



筋肉の下の骨の軋みを聞いていたいし。



熱い吐息も感じていたいし。



愛されたい。



チープでも言葉が欲しい。



触れられたい。



セックスが好き。



ばかだね。



1つになりたいだなんて。



折角別々に生まれたんだから、搾り取って、貪りあって、削りあって、…生きればいいんだよ。



何もなくなるまで。



からっぽの脱け殻だけを残して。



ほんとに精神、昇華すればいいのに。




「んんッ、!うぁ…ッ、もぅ…!だめッ!」



最後のスパート。



骨と骨とがぶつかって、鈍い音が響く。



魂の深くで強烈な快感とエクスタシーで、繋がる。



元から1つで、セックスの為だけに2つに分離したように。



じわ、とせりあがる。



絶頂の兆し。



目の前が白いのか黒いのか赤いのか、解らない。



それとも他の色なのか…。



解らない。



何も解らない。



1つになりたいのかなりたくないのか。



イきたいのかイきたくないのか。




最奥を貫く、楔。



抉られるそこは、彼を感じるためだけのみ存在する。



「ひぁッ!」



それだけ。



人間じゃないような啼き声だけあげて僕は達した。



出るべきものも出ない。



先はぱくぱくと開閉した感覚だけで、何も起こらなかった。



なのに快感だけを感じて。



彼は荒い息をつきながら、自らの放った欲望を捩じ込むように何回かゆっくりと押し込む。




隣に倒れ込んできた彼の固い両腕に抱き締められて、


荒い浅い呼吸をする。



胸の上下する幅はだんだん狭くなっていって。



そして一定の均一な波になった。



静寂が降りてくる部屋。



瞼の上にまるで魔法みたいなキスを1つ落とされて、僕は急激な睡魔に襲われた。



「疲れた?」



「少しね。だけど、悦かった。」



「寝てていいよ、あとはやっとく」



「そう?たーくんの後始末大雑把で心配なんだけど」



と言うと彼はくすくす笑った。



「心配しないで。今日はちゃんとぬかりない。」



あやすように頭を撫でられて、羽布団の中に潜らされる。



「変なことしないでよ」



微睡みの中で念を押せば、



「そんな精液残ってないよ」



とまた微笑う。

彼の笑い声が好きだ。



彼の温もりが好きだ。



そうだこの温かさだって2人じゃないと感じられないんだ。



そんな小さくて幸せな発見をすると、いいものを見つけた子供みたいに何だか無性にうきうきした。



「おやすみ」



「おやすみ」



2人でしか交わせない言葉。



2人でしか出来ない行為。


当たり前の眠りの為の儀式は、実は、とても、尊いものだったんだ。














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あきゅろす。
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