規律のお話
正月ボケがまだ抜けずに、暖房をガンガンきかせた部屋で薄着をして意識して見ているわけではないが、テレビをつけて寝転んでいる。
今日は1月11日。
犬の日とかいう奴もいるけど、猫派の僕には全く関係ない。
とゆうよりむしろ今日僕に関係があるといえば…―
「あれ?何で家にいるの?成人式は?」
同棲してる男が帰ってきた。
二つ上の高校の時の先輩。
サークルの自称「合宿」の帰りで巨大なバッグを抱えて突っ立っている。
「行かない」
「何で」
「大人になりたくない」
別に駄々を捏ねているわけではない。
なりたくないものにならなきゃいけないのに、なぜ祝う必要があろうか。
だって今日だって、近くに住んでるおばあさんがJRの線路際に植えた白粉花が悉く斬り倒されていた。
植えているところを眺めていただけあって無惨な姿を見たときには涙が出そうだった。
分かってるよ、そういうきまりなんだって。
あそこの土地は個人の所有物じゃないもんね。
でもさぁ、まだ暖かい時期とかに大学までの通り道にして、あの花の横を通ると凄く良い匂いがしてたんだよ。
特に白粉花は小さい頃女の子に混じって摘んだ記憶とか、
それが原因で男の子にいじめられて、
でも守ってくれた男の子がいて、
…それが初恋だったりして
…思い出深いな、
とか感傷に浸ってたのに。
あんまりだよね、この仕打ち。
大人の世界なんて不条理なだけだ。
大人なんて汚い。
汚い自分達が嫌いだから、綺麗な子供達を汚い自分達の規律に従わせて、汚していくことに快楽を感じているようにしか見えない。
分かってるって。
こんなの僕の勘違いだって。
言い訳がましいって。
でも嫌悪感を感じるんだから仕方ない。
女の子とセックスするくらい気持ち悪い。
したことないけど。
「けどさ、」
空気を読まない彼氏が僕の目眩く思考回路を一刀両断にして、僕の頭だか心だかに無理矢理自分をねじ込んできた。
「でもおまえの家、成人式のための積立してたんぢゃねぇの?」
「それ、結婚式に繰越せるから盛大な式を挙げればいぃだけだよ」
わざと意味深なことを言う。
その相手は目の前にいる彼なのか、他の奴なのか、はたまた女か。
僕としては女っていう選択肢はないのだけれど、こいつに男を教えられた僕は彼の中ではたぶん元ノンケくらいの認識だろうから(てゆうか、そうだって言ってた)、
彼の敵は男女どっちもであることが時々可哀想になってくる。
でも僕だって心配してる。
彼が純粋なゲイだってわかってるからこそする心配が沢山あるんだよ。
「取り敢えず座ったら?」
甲斐甲斐しくお茶でも淹れてやるか、と立ち上がった。
らしくない行動。
けれど、それだけこいつが帰ってきたのが嬉しいんだろう。
大人しく座る彼を横目に微笑が漏れる。
「何笑ってるの」
と首をかしげる彼に我慢できなくて抱きついた。
「うわッ!?何!?」
突然の衝撃に少しバランスを崩したものの、しっかり僕を抱き止めてくれる両腕はまだ外気を帯びて冷たかったけど、優しくて甘えたくなった。
正月特番みたいなアホな番組を背に僕たちは口付けを交わした。
息が乱れるくらい。
テレビから聞こえる笑い声。
嘲笑してればいいさ。
自然の摂理に反していると言われようとも、男に欲情している僕にとってこれが僕の本能。
何も恥じることなんてない。
「結婚てさ、誰とするの」
ゆっくり床に押し倒されて唐突に尋ねられた。
答えるまでもない。
誰でもないおまえだけ。
世界でただ1人、おまえだけ。
だけど、そんな不安定な言葉はあげない。
「今、幸せだ…」
それだけ呟いた。
彼はわかったのかわからなかったのかわからないけれど、優しく微笑った。
そして
「さぁ、成人式を始めよう」
と耳元に吹き込む彼の声にぞくりとしてしまう。
大人なんて子供なんて関係ない。
どちらにせよ僕は、
あまり美しいとは言い難い行為に身を任せ、
美しい愛の言葉を囁き、
いやらしく腰をくねらせ、
純粋な瞳で彼を見つめる。
ただ他の人とは違うのは大人たちが敷いてきた汚ならしい規律なんて無視してること。
はみ出しものとして叩かれはすれど、規律にはまらない僕は、僕たちは少なくとも美しい。
大人になっても僕たちは変わらない。
何も変わらない。
だから成人式をしよう。
規律にはまらない方法で。
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