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侵略のお話












後ろから抱き締められて晩酌は中断。



「なーに?」



「服着ないと風邪ひくよ?」



顔を肩口に埋められた。

冷えてきていた体に分け与えられる温もり。



「下はいてるからいいじゃん」



返事はない。

その代わりに、ゆっくりゆっくりと頭を撫で始めた。

大きな手のひらに頭蓋骨が収まる。

その手と脇腹付近に這う逆の手が、くすぐったくて身を捩った。

カサリと音がしそうに、首筋を何往復もする唇。

静かな夜だ。

秋の虫も鳴かない。

日が沈むとめっきり冷えた風が窓から侵入して、床の上の火照り始めた肌の熱を奪おうとするだけ。

もう止めて欲しい。

今から毎週楽しみにしてる世界遺産の番組があるのに。



「ああ…もう…」



彼は呟きなんて気にしない。



「勃った?」



「違う、あほ」



「『あほ』は心外」



ゆっくりフローリングに押し倒されれば当然文句を言いたくなる。



「ベッドがあるのに」



やりたくない、とか言えばいいのに、結局彼を受け入れてしまう辺りがダメな大人になったもんだと思う。



「ここがいい」



という我儘を聞き入れる辺りも、自分が凄く残念だ。

僕も熱いけれど、彼の舌の方がもっと熱い。

柔らかい舌と固い歯で全身くまなく弄られる。

触れる度に漏れる吐息をどうにかして欲しい。



「綺麗」



耳元で囁かれて心臓が少しだけ反応した。

髪に指を絡められるだけで血流がおかしくなる。

じわじわと僕をいたぶる下半身の熱。



「この小さな頭の中に沢山考えがつまってるなんて凄い話だ」



相対性理論とかなんだかんだ。

そうやって僕の気持ちなんて一向に気付かないようなふりをして、他愛のない話をして、僕から求めさせる魂胆なんでしょう?

分かっているんだ。



「ねぇ何考えてるの?」



「何も」



分かってはいるんだ。

彼はまた僕の乳首に吸い付いている。

寄せては返す波のように腰の辺りに痺れを感じる。

耐えられなくて肩を押し返した。

彼の唇は濡れて、光を僕の瞳まで反射させた。

もうカサリとはいわなさそう。



「呼吸が乱れてる」



「乱れてない」



「心拍数上がってる」



「上がってない」



「…濡れてる」



「…濡れて、ない」



もう嫌だ。

僕を見るな。



「やりたくない?」



だからそんな目で見るな。



「ねぇ」



ゆっくりと唇が合わさる。

感覚は実に現実的だ。

感覚を感じるのは生身の肉体。

肉体の接触が君を僕の現実にする。



「やりたくないの?」



君のせいでいつまで経っても飛び立てないのに。

君が触ると地面まで落っことされてしまうのに。



「…やりたい」



僕の白旗に、にやりと笑う君の口許さえ愛おしいと感じるのは僕の脳。

身体の中で唯一現実離れする器官である脳。

また分からなくなってしまった。

彼を好きだと思う気持ちは現実か。

分からないけれど、

…分からないけれど、もうなんだか、どうでも良くなったよ。

そうやっていつも君は僕に思考させないようにして、関係を続けさせるんだ。

誰か1人を愛したくなんてなかったのに。

怖がりな僕は遊びの恋愛を壊されて、君の真剣な瞳にまだ怯えているんだよ。



「俺だけ見てろ」



熱を帯びた囁きを耳の中に流し込まれて、彼を見た。

ふいに降りてきた柔らかな唇。





(ああ、本物の愛が、始まる…)












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