後悔のお話
彼を空港まで見送った後、1人でドライブした。
所詮気休めに過ぎない上、行くあてもない。
街を見渡せる適当な脇道にバイクをとめた。
「じゃあ、」
と言ったきり口をつぐんだ彼の爪先を思い出した。
僕は下を向いているだけだったから、そこしか脳裏に焼き付けることができなかった。
早朝の風を受けながら、彼を想う。
「どうしても僕はここに残る」
と、彼の転勤が決まったときに強がった自分を悔やんだ。
僕にだって仕事はあるし、友達もいるし、この街にいたかった。
1つを得るためにいくつも失うのは辛かったんだ。
街はまだ静かだ。
彼とした最後のセックスみたい。
静かな喘ぎ、静かな動き、静かな絶頂。
静かなキスをくれる唇が嘘つきな唇にならないように、祈りながら口付けた。
僕を思ってくれる心が、裏切りを考える心にならないように、祈りながら口付けた。
彼の温もりを忘れないように、そっと自分の体を抱き締める。
少し冷えていて身震いをした。
彼のいないこの街は、こんなにも僕に冷淡だ。
優しさはどこにあるんだろう?
目にたまった涙は、トラックの排気ガスのせいだと思うことにして、再びヘルメットをかぶった。
鈍い音でエンジンをふかしはじめる。
ミラーのくもりを指で拭うと、曇天を反射した。
その瞬間、いくつかを得るために僕は、大切なたった1つを手放したのだと悟った。
僕はもうこんなにも後悔している。
遠距離恋愛は、まだ始まったばかりだというのに…
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