衝動のお話
お風呂にこだまする自分の声。
ア行の音を吐き散らして、されるがままに揺れている。
出入りする彼の塊は的確に前立腺を叩く。
体はただ気持ち良くて、精神は浮遊して少し客観的に眺めていた。
こういうときくらい溺れていたいのに面倒な自分の意識。
押し付けられた壁は水滴で滑る。
でもすがるしかなくて、実質頼っているものは腰を掴む彼の両腕だけ。
「こっちむけ」
「んッ」
優しく顎を捕まれて後ろを向けば、暖かい唇が押し当てられる。
「…ふ、ぁ」
一気に血流が下を向く。
僕が何よりも感じるのがちょっとした触れ合い。
…って彼にはお見通しだから敵わない。
メンタルが一番感じる。
心臓が駆け足になる。
なんだか僕じゃない内臓が感じてる気がしてきた。
まだゆっくり動いてくれてるから余裕はある。
心の語源は内臓だったなとか思い出せたからまだ平気。
僕はメンタルで感じていながら、内臓で感じている。
つまりどっちにしたって心が気持ち良い。
彼だから気持ち良い。
「うあッ!」
油断していたら乳首を攻め始めた。
それからはまた獣みたく呻くか喘ぐか泣くか…っていう危うい綱渡り。
思いっきり揺すられると、僕の中心が壁を打った。
その冷たささえ刺激で。
爪先から踵から、腰を経由した快感と言う名前のうねりが背中を駆け上がり、後頭部に白い光が散ったような感覚がした瞬間。
白い染みが壁に広がった。
「やだッ!もうやだぁ!」
最早泣き声のような自分の声に鼓膜が震わせられる。
尚もピストンを止めようとしない彼に翻弄されて、名前を何度も何度も読んでいると、また勃ちあがりかけたそこを握られる。
「あぁ!だめッ!」
主語の抜け落ちた1語文でしか喋れない。
彼は動きを少しだけ遅めて、右手でシャワーを手繰り寄せた。
「もっと気持ち良くしてあげる」
「な、…に?」
尋ねたが答えない。
けれどわかりたくもなかった答えはすぐわかった。
シャワーノズルの先を僕の先端におしあて、…
血の気が引く思いをした時にはもう遅かった。
水圧最強で亀頭を抉られる。
「あぁ!とめ、ひあッ!ッう!やあぁぁん!」
近隣にまで響き渡りそうな絶叫をあげて僕は2度目の射精をした。
間髪入れずに体内に放たれた彼の一部。
決して本来の役目を果たすことのない精液。
立て続けに2度もイかされてひくひくと甘い痙攣に浸された僕の体を彼が抱き起こす。
そして首筋にチクリと走った痛みは彼の印が刻まれたことを僕に教えた。
*******
「それじゃだめだよ」
改めて入り直した湯船の中から洗い場に身を屈める彼に声をかけた。
「え?」
「精液っていうのはたんぱく質なんだから、お湯をかけてもだめだって言ってるの」
「何で!?」
「固まるじゃん。卵と一緒で。」
「あぁ…」
と納得したように頷いて、シャワーを水に切り替えてこちらを振り返った。
「どうしたの?」
問いかければ
「意地悪したから愛してると言っても信じない?」
と不安そうに言った。
「信じて欲しいの?」
うん、と呟いた彼に強く抱き締められる。
素肌が触れ合う感じは凄く安心する。
僕と彼の体温交換。
濡れた髪を掻き上げてやると自然と目があった。
そうなると、やることは1つ。
いつも愛の言葉を囁いてくれる唇にキスを贈る。
一度離して、もう一度。
「これが答えだ」
満足げな笑みを口元にたたえる彼を心からいとおしく思ったのは、何て幸せなことなんだろうか。
計り知れない。
心が彼を感じようが何が彼を感じようが構わない。
彼を感じる。
それが全てだ。
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