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4.






「や。意味わっかんないんですけども」
今ここで、謝られる理由とかないし。
そもそもお迎えに来てくれた理由も、こんなにも不機嫌な理由だって見当がつかない。わからない。
そう言って。
戸惑う松本は、けれど俺の手を無理やりにでも振り解くようなことはない。
――況してやこれだけ長く傍らに居た女なのだ。
その表情をつぶさに目にして来たのだから、今何を思うか俺が見紛うこともない。
戸惑いはある。
けど、嫌悪はない。
むしろ尚も俺へと心を残していると、あの一瞬の邂逅ですら、自惚れでなくはっきりと読み取れてしまう。
…だだ漏れなのだ。
だから少しばかり強引にではあったものの、店の中から連れ出した。
あの男から引き剥がした。
――松本、が。
恐らく、肌を許した。
松本に触れたあの男から。
肩に廻されたあの腕を、目にしてカッと頭が煮えた。
目の当たりにして悋気を露わにするなど、これまでであればあり得ないことだ。
否、そんな場面を目にすることなど、これまでであれば思いもよらない。あり得ないことだったから、無駄に鈍感になっていただけで、もっと早くにそんな事態を目の当たりにでもしていれば、もしかしたら、ここまで拗らせるようなこともなかったのかもしれない、と。
今になって歯噛みする。
愚かであったとつくづく思う。
(なんだ、ちゃんと惚れてんじゃねえか)
是が非でも手に入れたい。
手元に留めて置きたいと、ちゃんと望んでいるんじゃねえか。
傍に居るのが当たり前みてえな女だったから、何も気が付いていなかっただけで、今こんなにも渇望している。
取り戻したいと望んでいる。
そんな自分の心のありように、驚嘆すると同時に改めて、これまで松本の注いでくれた愛情の上にただ胡坐を掻いていた。享受していた。
お前に気持ちはやれないのだと、愛せはしないとほざいていた、のうのう口にした嘗ての己の愚かしさに、ただ悔いることしか出来なかった。
深く詫び入ることしか出来ないでいた。
「すまない、松本」
口にして、再び松本が当惑を瞳に滲ませるのに軋む胸。
情は今尚俺に在るのだろう。
だが、俺から同じ想いが返ることは決してないのだと、とうに諦め切ってもいるのだろう。
期待ひとつしていないことが窺えて、互いの間に横たわる溝の深さと松本の傷を、否応にも思い知らされる。
――長年かけて、俺が植え付けてしまった諦念。
最早自ら俺へと差し伸べるつもりのないその腕は、俺を求めることはない。











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