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2.




「帰るぞ、松本」


だってだって、あのひとがいた。
それもどうしてこんなところに?
もう随分とお迎えになんて来てくれたこともなかったあのひとが、何でかあたしをお迎えに、店を訪れたのだから。
唖然と見やった先では隊長が、この上もなく不機嫌な顔で腕を組み、今にも舌打ちのひとつもしそうな勢いで以ってあたしを見据えている。
(いやだから、なんでよ!?)
でも、嬉しい。
だってお迎えだよ!
こんなのってば、久々なのよ!
嬉しくないわけがない。
(いや、戸惑ってもいるんだけど!)
えー、なんでよ何で?
しかもすっごいおっかない顔。
ほんとにわけわっかんない。
だけどあたしよりも先に我に返ったのは、傍らに居た男の方だった。
「なっ…、なんだ貴様は!?」
カッと頭に血を昇らせているのか、はたまた羽織に気付いていないのか。
これ見よがしにあたしの肩を抱き寄せ吼えたのに、ほんの僅か顰められた眉。
(あ。空気がちょっと冷えてきてる?)
こんなところで霊圧解放するとかダメでしょマズイでしょって、慌てたのはむしろあたしの方だ。
「何…って、そいつの上司だが?」
明日も仕事だから迎えに来た、って。
わあわあ、何だか何時になくたいちょってば好戦的?
てゆーか、マズイ。ほんとにマズイ。
何があったのかは知らないけれど、とにかく今隊長は、とーってもご機嫌ナナメのようなので、慌てて肩へと廻された腕を振り解く。
勢い良くも立ち上がった。
「ッハイ!ただいま!!」
すみません今帰ります!と、ひと息に叫んで席を離れようとしたあたしの腕を引っ掴んだ腕。
「なっ…冗談じゃねえぞ!」
だけどそれはものの見事に空振りに終わった。
だって男があたしを捕えるより先に、たいちょの腕があたしを捕えて強く引っ張ったのだから。
尤も、勢い余って思わず飛び込んでしまった隊長の腕の中。
――なんて懐かしい匂い。
霊圧。
ぬくもりに、思わずじんわり滲みそうになる涙。
だって久しく触れてなかった。
こんな風に抱き着くことも。
ああ、マズイな。ほんとにヤバイな。
心臓、ばくばく言ってるし。
顔、多分真っ赤だし。
やっぱりときめく。
どうしようもなく。
(諦めるって決めたのになあ)









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